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4 ニートからマスターロリコンにクラスチェンジですか?


 ロディという見た目はボーイッシュな女の子だけど、実際には男の子でありレベル67のアークプリーストで、その正体は人の傷を見て傷に話しかけニヤニヤしながら治療するという、まさに傷大好きっ子だった。

 ボクは現状彼に掴まれた腕を引き剥がそうとするけど、その握力たるやステータス補正でまるでムキムキのプロレスラーの領域だ。


 ズルズルと引きずられながらボクはレインと再び会うことになった。

 ボクを探していたのか、レインはボクを視界に入れた瞬間表情が一変するが、手を引いているロディを見て眉をキリっと吊り上げた。


「もしかしてレインさん!コジロウの仲間の!」


「…そうだけど…あなた、どこのどちら様?私のコジロウに何の用なの?」


 私のって…、とりあえずロディくん離して…ボクの手折れちゃうよ?


「おっと、ごめん痛かった?そう言えばまだどこかに傷があるんじゃないかな?引き摺っている時どこかを庇っていたような気がするけど」


 レインに噛まれた足のことを言っているのかもしれないけど、足に関しては、本当に痕が付いただけでとくに痛くはないし、むしろキミが掴んでいた腕の方が痛い。

 ボクの腕を離したロディはその足の傷を見て、「ごめんね~傷さん、今すぐ治してあげるからね~」と笑みを浮かべている。それを見てレインはムッとした表情をする。


「あなた…アークプリーストなのね、どうして男の格好をしてるの?ひょっとしてわざと?」


「レイン…こう見えても彼、ロディは男の子らしいよ」


 ボクがそう声をかけるとレインは、「本当にごめんなさい!」と頭を下げてボクに謝る。


「私、スキルで飢狼(がろう)ってのを持っているの…、そのせいで時々無性に噛みつきたくなるんだけど、覚えてから時間をかけて抑制できるようになった――と思っていたんだけど、お酒がの所為で噛みついちゃうって今回初めてやっちゃったの」


 初めてやっちゃったの…って、そのセリフいやらしく聞こえるけど、やっちゃったの"や"の字が"殺"って字に感じるのはボクだけですか?


「お酒で失敗することもなかったし、たぶんコジロウと一緒にお酒を飲んで楽しくなっちゃったから、いつもより酔いが回り過ぎたのが原因だと思う、本当にごめんなさい…一つ間違えば噛み殺していたかもしれないから…」


 彼女があまりに反省して謝ってくるのでボクも許すことを考え始めていた。いや、おそらく許していたかもしれない一人だったら。


「飢狼ってアサシンのスキルですよね?妖艶に男を誘って首元やナニを噛み千切る暗殺スキル!きっと傷口は凄く痛そうなんだろうな~」


 アサシン?レインてシーフじゃなかったの?


「それにしてもアサシンがパーティーに入るのは珍しいですね?もしかしてコジロウを暗殺するのが目的ですか?!マスターシーフだと思って仲間に入れた人がアサシンで、一人また一人と暗殺された話とか、パーティーが全滅しかけて気付いたらアサシンだけいなくなってた話とか、あまりいい噂は聞かないけど」


 暗殺?ボクをレインがまさか……、でも安心させて仲良くなって噛み殺すつもりだったのでは?でも、その機会なら何度もあったし、その…生チチを晒して抱き枕にしていたのも演技だった?


「違うのコジロウ!私、そんな噂の所為で仲間ができなくて…だから初めての仲間だったの…何でもしてあげたかった、仲間になってくれるならなんでもするつもりだった!」


 ボクは正直、彼女の言葉が嘘か本当か確かめるための方法は何もないと分かっていた。でも、本当に殺すなら耳からかじる必要もないし、今更説得というのもないだろう。


「レイン…ボクもごめん、本当に痛かったから逃げちゃって…話も聞かずに逃げ出しちゃって…」


 ここで"シメシメ騙せた"と、彼女が思っているようには微塵も感じなかった。

 レインはボクの言葉に涙を浮かべてハグしてきた。


「私、もうお酒は飲まないから……寝てる時にエッチなこともしないから」


 お酒はそうだね、もう少し控えた方がいいね。ところで、寝ている時にエッチなことって……まぁ…いっか。


「ところでコジロウ…、彼って言ったけど、おかしいでしょ?あの子――」


 レインはロディを指してそう言うが、彼のどこがおかしいのかがボクには全く理解できない。


「僕のどこがおかしいんですか?アサシンなのにシーフの格好しているレインさんには言われたくないな」


 それを言われてもレインは一向に退こうとせず、むしろその胸を彼の前へ突き出して言う。


「アークプリーストに!男はいないんですけど!!」


 男はいないんですけど――男はいないんですけど――男はいないんですけど――。

 まるで芯を突いたような言葉がその場に響くと、しばらくの静寂のあと「チィっ」と言う舌打ちもどきをロディが言う。


「田舎者なら騙せると思ってたけど、やっぱり普通の冒険者にはこの嘘は無理があったね…」


「どういうこと?レイン――」


「コジロウは知らないかもしれないけど、プリーストには条件が揃っていないとなれないの、純潔で聖心で乙女でないとなれない」


 つまり、初めから男の子なんてものはありえない職業だったということらしい。

 プリーストは女神によってわずかな加護を得る代わりに、その身その心を清らかに保たねばなんらないらしく、男は初めから子孫を残す欲求が邪であるということからプリーストにはなれない…とレインに説明された。


「どうして性別を偽ったの?それこそコジロウに何かいかがわしい下心があったんじゃないの?!」


 いやいやレインさんや、それは完全なるブーメランですぞ。


「ふっ、私は心のそこから傷を癒したい、傷と接していたいと思っているただのプリーストでしかないよ、…そこの冴えないコジロウの仲間になればいろんな傷を癒せると思って声をかけただけ、嘘を吐いたのは前にいたパーティーで傷を癒す度、結婚だの恋だの愛だの吐いてくる男がいたからそうなったら面倒だと思っただけだよ」


 なるほど、たしかに彼はいや、彼女だったのか…面倒だな…、たしかに彼女は見た目可愛いし男が言い寄るのも無理はない。

 初めから女の子として接していたら、ボクも些細な傷好きなど取るに足らないことだと彼女を好きになっていたかもしれない。


「話は分かったよロディちゃん…まっ大丈夫、ボクはどちらかと言うとレインみたいな大人の女性が好きだから」


 なぜか死んだ魚のような目でボクを見るロディに、「どうかした?」と声をかける。


「ロディ"ちゃん"って…本当にキモイです、女の子だったんだから名前がロディなわけないとか思わないのかな、ていうかちゃん付けキモイです」


 …あれ?おっかしいな~突然イラってしたぞ~、ボクは大人だからこんなことじゃキレないけど、人によっては二度と口を利きたくないと思ったに違いない。


「僕の名前はフラエクラニーチェって言います、長いので人はエクラとかラニーとか呼びますが、アクセントは常に"ラ"にお願いします!」


 …そこは僕なんだ――、なんだか面倒くさい性格してる痛い娘にしか思えなくなってきた。


「そっか…じゃフラ(↑)エはボクの仲間になりたいの?たぶんもう傷は治せなくなると思うけど」


 と彼女に聞くと、「どうしてフラエなんですか?!それだとラにアクセントが付くとバカぽくなるじゃないか!」とやたら呼び名に噛みつく。


「フラ(↑)エは傷を治したいでしょ?でもボクはニートで冒険にもでないから滅多なことじゃ傷なんて付かないけど、フラ(↑)エはそれでいいの?どうなのフラ(↑)エ?」


「ん~もう!ワザとやってるだろ!」


 色々あったけど、レインと和解して新たにアークプリーストのフラ(↑)エが仲間になった。



 フラエが仲間になって一週間ほど過ぎた。

 レインはシーフではなくアサシンというシーフの上級職の一つで、レベルは89とずば抜けて高く、専門は人殺しではなくクエスト発行された賞金首モンスターの討伐を生業としているらしい。


 シーフは基本パーティーに入っても単独でマッピングとか、単独で隠密潜伏という職で、彼女は仲間として見られないことが多く、"あれ?こんな娘いたんだ"的な扱いが嫌で前のパーティーを抜けた。

 その後、他のパーティーへ入ろうとすると、時期的に"アサシンが偽ったシーフではないか?"という疑念が彼女を仲間にしたがらなかったらしい。


 結果一人で日々の冒険者業をするはめになり、そうなるとマスターシーフよりアサシンの方がいいと、上級職を取る際にアサシンを選んだそうだ。

 飢狼なるスキルはアサシンになって初めて得たスキルで、説明を読んでいたところ他人が背中からぶつかってきて、バランスをとった際に誤って指でなぞったらしく、気が付くと取っていたのだとか。


 肉を噛み切るのに便利だから――と最初は思っていたらしいが、宅のみで酔った際に自慢の短剣が噛み砕かれていたことで抑制をする努力をし、完全に抑えれていると思っていたところの今回の事件…本当に生きているのが奇跡レベルだ…ありがとう"神の手"。


「フラ(↑)エ、最近元気ないようだけど…大丈夫なのか?」


「………本当にニートなんだねコジロウは…ていうか、フラエではなく別の呼び方にしませんか?あ~そこ気持ちいいかも」


 神の手というスキルは、どうやら普通のスキルではなく固有スキルというその人しか覚えられないもので、ボクのマッサージはレインとフラエと宿の女将に好評だ。


「コジロウ…少しレインに噛まれてみない?必ず僕が治すからさ」


「お断りをさせていただきます…、ところでフラ(↑)エもニートだよね?毎日ボクにマッサージさせてるし昼寝も一緒にしてるしさ」


 そうなのである、彼女が入ってからというもの毎日神の手を使ってマッサージさせられている。

 レインが冒険から帰ると彼女に、「またどこにも行かずにコジロウといたの?」と不満そうに言われると、「コジロウが一人じゃ不安だっていうから!」と言い訳をする。


「僕はニートではないですよ?知らないかもしれないですけど、毎日治療をしてきてるから、じゃないと傷に出会えないからね」


 ブレないね…、確かに彼女は毎日少しだけいなくなっては満面の笑みを浮かべて帰ってくる。まるでカフェインかあぶない薬の中毒性を思わせる。


「ところでどうして今日はこんな格好なのかな?」


 フラエはボクの前でうつ伏せに寝ているのだが、その格好はロンティー(自分の体格よりはるかに長い丈のTシャツ、ちなみに長袖で手も隠れている)を着ていて、その下は何も着けていない。

 もし仮にボクが小さい身体の女の子に欲情を覚える男だったら、鼻の下を伸ばしながらマッサージしていたに違いない。


 だが、ボクは紳士ではなくニートで財力と包容力のあるレインの方が好みなのである。だが、どうしてそんな無防備な格好をしているかは気になってしまうわけだ…、決して少し生尻が見えたから視線が引き寄せられて気になってしまったとかではない…ホントだよ?


「……なんですか?いやらしい視線を僕に向けてどうする気ですか?とうとうニートからマスターロリコンにクラスチェンジですか?それともただ単に僕という可愛い存在に目覚めたのですか?どちらにしても気持ち悪いので死んでください…、おっとそうしたらこの気持ち良いマッサージがなくなってしまう、だから傷付いて僕に治癒させてください」


 …この可愛いしか取り柄の無い傷好きの……ん?おや、フラエさんや、股の付け根に触れた途端耳の裏が真っ赤ですぞ!さては弱点はここか!

 マッサージに夢中で、女性にとって大事な部位をひたすらに刺激していたことに気が付かないボクは、フラエが「止めっダメ――」という言葉の意味が、ある種別のキモチイイであることに気が付いていなかった。


「ら……らめぇえええ!!――」


 腰をカクカクさせてマットを両手でギュッと握り、足の指を全力で折り曲げたフラエに、「これが神の手の力か」と自身のスキルの威力に関心するボクはその状態の意味を本当の意味で理解してはいなかった。

 ハァハァと吐息を漏らすフラエに、「ここで寝たら風邪引くぞ~」と声をかけると、「へへへひゃ~い」とピクピクなっていたため少しやり過ぎた感は拭えなかった。


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