3 ボクのダーインスレイヴが!
レインが仲間になった…が、冒険に一緒に行くことはなく、朝ボクを起こして冒険へ出かけ、夕方には帰ってきて晩御飯を奢ってくれる。
そして、あ~んしたり口元を拭いてくれたり、お風呂にも背中を流そうと入ろうとしたが、銭湯であるためにさすがに止められたらしいけど。
は~あれだ、彼女は"ダメな男に尽くす女"じゃない、"男をダメにする女"なんだたぶん。
寝る時に一緒にベットには入った時には、そこから何か起こるのか期待したボクだったけど、抱き枕にされただけで特に何も起こらなかった。
ま、いい匂いと柔らかい膨らみに初日は鼻血が出てるほど興奮したけど。
「ねーコジロウ、今日は酒場に集合ね明日は週末だし」
そう言って今日もレインは冒険へと出かけていった…、酒?!酒と言えば酔う!酔う=大胆になりエッチな欲求が爆発する!=ボクは初めてを経験する!
間違いない、このフラグは間違いない!ヤバイ!興奮してきた~!
それと、二日前ボクはもう一つ初めてを経験していた…。それはモンスターハンター!と言っても、借りている宿に出現した巨大なゴキブリのようなモンスターだけど。
モンスター討伐後、宿の女将(結構タイプ)に報奨を貰い、一応モンスター討伐だし経験値が多少なりとも入っているのでは――、とステータスの確認をギルドで行ってみた。
「レ、レベル6だと――」
あの速くもなくただデカいだけのモンスターでレベル6になったということは、大体毎日アレを十体倒せば一周間でレベル18ぐらいになり、一ヵ月もすれば20後半になっているはず。
が、アレ以降一切見かけないためやっぱり無理な話だった。
「スキル…んーどれもいまいち、ん?これは――どんなだろうーあっ」
ステータス表記の裏側にある現在獲得できるスキルの項目を、スマホよろしくスライドすると一つのスキルが青く輝く。
「スキルポイントが!6から0に――」
効果も何も分からないその名前が気になったスキル、それを習得してしまったボクだったが、すぐに開き直ってまぁいいかと内心思った。
ちなみにスキルの名前は"神の手"というものだった。習得して、知ったことだけどシーフ的なやつかと思っていたんだけど、その実、マッサージ的な意味合いが大きいらしい。
自身に使えないのが何とも言えないスキルなのである。
気を落としてその日はスキル名鑑なるものを読みながら、「これ欲しーあ!これも欲し―」とニヤニヤしながら暇を潰した。
この街は金さえ出せば普通にいい街ではあるものの、やはり街周辺のモンスターの脅威が初心者向きではなく、が良質な素材がとれるためレインが払ってくれている宿代やら飲食代は全然平気らしく、いつも「もう食べないんだ」と彼女は言う。
彼女のことは最初疑っていたけど、今では本当に世話を焼きたいだけの人という感じで、過剰に甘えさせたがる以外は本当にどうしてボクなのかと思ってしまう。
「コジロウ!お待たせ!」
強いモンスターと戦ってきた女性に飯を奢ってもらう…まさにヒモだな。
ダグラスの酒場で待ち合わせて一緒に店に入り、彼女は「エール!ジョッキで!」と声を上げて注文をする。
一口飲まされたけど、いつか父のビールを飲んだ時の苦さはなく、後味はすっきりしていてほんのり甘い。
「美味い!これがエール!」
驚くほどの美味さにレインも、「そう美味いのよ!」とジョッキをかかげた。
数時間でレインは出来上がり、ボクもほろ酔い気分でいた(エール一杯で)。
「ちょっとお花摘みに行ってくるね」
「ん?あ~うん分かったよレイン」
そうしてレインがトイレへ離れた時、「な…あんた」と声をかけてきた男がいた。
「ん?なんれすか?」
ロ列の回っていないボクに男は耳打ちしてきたのは、「あの女には気を付けろ」という忠告だった。
意味の分からないままいると、レインがトイレから戻ってくる様子を見て男は、「とにかく忠告したからな――」と足早に去っていった。
「ん?さっきのだ~れ?」
「ん~知らない人」
そうして楽しい夕食を終え、安宿へと二人で体を支え合いながら帰る。
いや~!もう!興奮して目が血走っているのではと少し深呼吸する。
耳元で、ね~寝よっか?と声をかけられてレインが実際に下着姿になったらもうそれは!そういうことでしょう?!
いつものシーフ姿もいいけど、下着姿は別格ですな!エロい!エロ過ぎる!
「ね~もういいよね?コジロウ――」
ベットに押し倒されるボク、当然ボクもパンツ一枚しか穿いていない。
あぁ父さん母さん…虎次郎は、男になり……イテっ!痛い痛い痛い!
「痛い痛い痛い!痛い!何んだ!」
初体験はとても痛たかったと赤裸々に語るJKでもあるまいし、男のボクが痛がることはまずない。
その痛みの原因はレインがボクの耳たぶをガッツリ噛んだからで、ね~おいしそうと今度は首を噛み、右乳首、左乳首、腹とどんどん下へと向かっていく。
尋常じゃない痛みにボクは耳たぶを触ると薄明かりの中で、耳たぶに触れたその手が赤く染まっているのがはっきり見て取れた。
「キ゛ャ~!」
やばい!ヤバイ!これは間違いなくやばい!そういえば!酒場であった男がレインに気を付けろって。
「はぁ~美味しいそう…」
ぎゃ~!まずい!それはまずい!上質なソーセージよろしく、食べごろのフランクフルトよろしくボクのダーインスレイヴ(一度鞘から抜いてしまうと、生き血を浴びて完全に吸うまで鞘に納まらないといわれた魔剣の意)が!
このままでは自らの血を吸うことになってしまいそうだ!クソ!こうなれば!
仕方なく彼女を突き放しベットから出て部屋を出ようとする、が、右足をガッツリ掴まれて「まだ食べてないよ」とある種のホラー感に襲われ悲鳴を上げるボク。
このままではフランクフルトが!ソーセージが!ダーインスレイヴが!!ナムサン!!
スキル発動!神の手!こうなったら先にレインを天国へ送ってやる!
彼女をベットへと突き飛ばすと足先からマッサージを開始する。
「やだ…なにこれ…き、キモチイイ~」
女体を好き放題しているが、これが完全な自衛であるのはいうまでもなく。
ボクは、死にたくない!死にたくない!とただただ痛みの中で彼女をマッサージし続けた。
よく朝、目覚めた彼女の隣にボクはいなかった。そして、ベットの血痕から彼女は「やらかした~!」と涙目で叫んだ。
ボクは歯型から血がにじむのを消毒しながら、「酔っぱらうと噛みつきたくなるって…もうSじゃん」と呟く。
本当に殺されるかと思った…、どうしてそう思ったのかというと、首元の噛み傷だけど明らかに動脈の上でしかも歯型が皮ではなく肉にまで達していたからだ。
彼女には騙された――、と思いながら自分の乳首があることを確認してホッとしていると、「大丈夫かい?」と声をかけられ、ヒャイ!と変な返事をしてしまった。
声の方を見るとこの街では珍しい子どものが杖を持って立っていた。
いや、実際には男の子なのか女の子なのか…顔は綺麗で声も女の子ぽいが、格好に短髪に口調に胸元――それらが男の子と判断させる。
「すごく痛そうだけど…大丈夫かい?僕が直してあげようか?見ての通りアークプリーストなんだけど」
アークプリーストというと、プリーストの上級職で治癒や浄化のプロじゃないか!ボクより小さいのに凄い奴だな。
「ごめん…助けてくれると助かるよ…血が一向に止まらなくて」
「うんOK!わ~なにこれ?!噛み傷か…あっ結構深いな、これ大人の人だね、しかも女の人だ…ふ~ん、なるほど、へ~この傷を付けた人ってキミのこと大好きなんだね!いいな~」
ん?こ、こいつ!傷だけで全てを把握するとは!…ヘンタイさんか?
他人の傷でここまで笑顔になる人もそういない、つまりこの子も変わっているのだと思ってしまうのも、レインのことがあったせいなのかどうなのか。
「はいこれで耳も首も傷痕も残らないよ、ん~他にも傷があるんじゃないかな?」
傷の声でも聴いているのだろうか…、ボクは素直にYシャツとTシャツを同時にめくり上げると両乳首の噛み傷を見せた。
「あはぁ~!やっぱりあったんだ!よしよし僕が治してあげるよ!」
傷に接している間は終始笑顔で、まるで傷が大好きであるこの子はまだ名前も知らない。
「そう言えばまだ名前を聞いていなかったけど、ボクは虎次郎っていうんだけどキミは?」
「ん?名前?どうしてキミに教えないといけないの?」
「え?どうしてって…ん?普通は相手の名前知りたくない?感謝とともに名前を記憶に刻むてきな?」
「遠慮するよ、僕は傷さえ治せればもうキミには興味ないから」
やっぱりヤバイ奴だった…ま、ただで治療してもらったから名前とかもうどうでもいいけど。
「じゃ~僕はもう行くよ、今人を探しててね、コジロウっていうレベルの低い冒険者を探してるんだ、きっと毎日傷だらけになっているに違いないへへへ」
傷に関して貪欲なキミは、今まさに目の前で虎次郎と名乗ったボクが目に入らない、このヘンタイさんめ。
「特徴はね、変な格好に平凡なルックス平凡な髪型にかなり美人な仲間が一人ってことらしいけど、僕からするとどいつもこいつも変な格好に平凡なそれだから本当に見つからなくてね」
「あの…ボクが虎次郎だよ、ちなみにレベルは6で仲間のレインっていう女性のシーフなんだけど、彼女にこの傷を付けられちゃって…逃げてきたんだ、だから今はまた一人――」
ボクがそう言うと傷のキミは満面の笑みで、「な!キミがコジロウ!」というとガッシリと両手でボクの手を握った。
「ね!どうしてその人から逃げるの?痛みが嫌い?痛みを緩和する魔法があるから大丈夫!!傷が嫌なの?!僕が治すから大丈夫!!だからその人とは一緒にいるべきだよ!あんな傷!毎日治せるとかへへっへへへへ」
なにも大丈夫ではない、むしろやばい、麻酔状態でレインが噛み傷を付け、それ治療しまた噛みって拷問でしかない!
ボクは逃げようと後退るが、傷のキミに握られた手がビクともしない。
「さ!そのレインという人はどこです?また傷を付けてもらいましょう!そして僕が治します!へへへ」
傷に囚われた彼にボクの手は囚われて、「レインさ~ん!ここにコジロウ!がいますよ~!」と唐突に叫び始める。
「なにしてるの!?」
「なにって、レインさんに迎えにきてもらうんですよ!傷を付けてもらわないと治せないじゃないですか!大丈夫!絶対跡は残りませんから!」
どゆこと!?ぎゃ~!ヘンタイしかいないのかこの異世界は!