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森の指揮官 3

 

「森の動物の数がかなり減っているのはいいよな?」


 ジヒトの確認にメルとゲントは同意の意味を込めて頷く。

 それを見たジヒトは話を進める。


「そもそも俺がフーラから聞いた話は狩りが上手くいかないのは、森の動物がかなり減っているからかもしれないということだ」

「じゃあ、俺が狩りに失敗したのは、仕方ないってことでいいんですよね?」

「結果的にはそうかもしれないけど、あんたの失敗は消えないわよ」


 ジヒトの話に要らぬ確認を挟んできたゲントにメルはしっかり釘を刺す。

 ゲントはあくまでも確認ですよとメルに言うが、あまり信用していないのかメルの訝しげな眼差しは消えない。

 ゲントとしては今後のためにも正確なことを知り、反省点をはっきりさせておきたいだけだがいまいちそれが伝わっていない。

 ジヒトはそんな二人の様子を見て、話が進まないと思いジト目で二人を見つめる。

 ジヒトの視線に気づいたメルは咳払いをし話を改めて促す。


「それでどうしたの?」

「……まあいい。それで森には薬草も少ないときた」

「動物と薬草が少なくなってることですか」


 ジヒトの話にゲントは腕を組んで考える。

 動物と薬草が両方とも減少しているということから森の生態系に影響が出ているのは明らかだ。薬草だけが減少しているならば我々人間が採取し過ぎてるいる可能性がある。それに動物も同じように考えられる。しかし、今回は動物と薬草が両方とも減少しているので、人間がその事態を引き起こしているとは考えにくい。どちらも同時に減少するような事態になる前に人間は対処する筈だ。では、人間以外がそれを引き起こしたことになる。それは何のために。それこそ何が引き起こしたのか。

 自分なりに考えてみるゲントだが答えは出てこない。

 ジヒトはゲントの言葉を引き継ぐかたちで話を進める。


「そうだ。動物と薬草が両方とも同時に減少している。それに気になることがまだある」

「気になることですか?」

「ああ。メルは最近ゴブリンの討伐証明が多く提出されると言っていたよな?」

「ええ、倍近くは提出されてる気がするわ」


 以前はこの討伐証明が多くなったことで、森のゴブリンが減っているもしくは増えていると話合ったが、結局のところ答えは出なかった。それに答えを出そうとはしていなかった。しかし、今回ははっきりと答えが出る。

 ゴブリンがどう関係しているのかわからないゲントはジヒトに説明を求める。


「前もゴブリンが減った増えたって言ってましたけど、それがどうかしたんですか?」

「まあ、ここで討伐証明の数を聞いてきたってことは何か関係あるんでしょう?」

「関係大ありだな」


 メルとゲントの質問にジヒトはゴブリンが大きく関わっていると言う。

 どう関わっているのかわからないゲントは再度質問する。


「結局ゴブリンは減ったんですか? 増えたんですか?」

「少なくとも俺は増えたと考えている」

「どうしてですか?」


 気になっていたことを簡単に答えるジヒトにゲントは疑問を覚える。

 これまでの会話からどうやってその答えを導き出したのかゲントにはさっぱりわからない。

 メルも急かすようなことはしないが、どういうことかといった視線を向ける。

 ジヒトはできるだけわかりやすく話す。


「ゴブリンの討伐証明が多く提出されてるのは今日昨日の話じゃないはずだ。短期間に大量の討伐証明が多く提出されたならメルは話にも出さないだろう。普通はたまたま多く提出されただけだと思う。となると、ある程度の期間ゴブリンの討伐証明が多く提出されてることになる。それだけの期間ゴブリンの討伐証明が多く提出されても未だにその数が衰えないなら、森には相当のゴブリンが居ることになる。そう考えるともうゴブリンは増えているとしか考えられない」

「なら、さっきの討伐証明の確認でゴブリンが増えたと結論付けたわけね?」

「まあ、そうだな」


 ジヒトの考えにメルは大きな矛盾はないと思い納得する。

 対してゲントは納得いかないのか顎に手を当ててジヒトに疑問を投げかける。


「動物と薬草は減っているのにゴブリンが増えるのはおかしいと思うんですよ。薬草はともかく動物が減ったならゴブリンが食べる分も減るわけですよね? なら、どうやって増えたって言うんですか? どんな生き物も食料が減れば増えるのは無理ですよね?」

「確かにそうね……」


 より話が見えなくなってきたと思うメルとゲントであるが、既に一つの答えを持っているジヒトは淡々と話す。


「確かに食料が減れば幾らゴブリンでも繁殖力は衰える。だが、繁殖だけがゴブリンが増えた理由じゃない。それと食料が減ってからゴブリンが増えたんじゃないと俺は考えている。その逆だ。ゴブリンが増えたから食料が減ったんだ」

「……なるほど、それなら納得です」


 疑問が解けたゲントはまだ何も解決していないがすっきりした表情をする。

 しかし、今度はメルが疑問を覚えジヒトに質問する。


「じゃあ、もう森に食料はないんじゃないの? ゴブリンの数が増えてたとして何を食べて生きてるって言うのよ」


 メルの疑問は当然のものだ。

 これまでの話ではゴブリンが増えたせいで森の食料が減少してしまったということになっている。ならば、もう既に森の食料はかなり減少していることになる。それこそ動物を見かけなくほどに。

 そうなると、どんな形でゴブリンが増えていたとしても、食料が維持できなければ自ずとゴブリンたちは餓死していくはずだ。

 当然の疑問だと思いジヒトは答える。


「おそらく最初は薬草や木の実を食べて飢えを凌いでいたはずだ」

「木の実はわかるわ。けど、そもそも薬草は食べ物じゃなくて薬の類よ。ゴブリンが薬草なんて食べるの?」


 メルの言い分は尤もなものである。

 薬草とは読んで字の如く薬の草だ。薬草は様々なものに加工できるが薬草そのものには大して栄養価はない。要は加工すれば何かと使えるが、薬草単体で食べたとしても毒にも薬にもならない。

 しかし、その薬草をゴブリンたちは飢えを凌ぐために食べたとジヒトは言う。

 結論を出す前にジヒトは補足説明をする。


「ゴブリンも知能は低いがそれなりに考えることはできる。冒険者が薬草を採取しているのに気づいたやつは少なくとも危険な草ではないと学んだんだろう」

「ゴブリンが学ぶことなんてありえるの?」


 本来ゴブリンなどの知能が低い魔物は学ぶことはない。なぜなら、魔物は学ぶ暇があるならば動物や他の魔物を襲い食料を確保する。そうしなければならないと本能に刻み込まれている。それができない個体は生きていけない。

 しかし、その今回は普通じゃないことが起こった。

 冒険者の行動を学びゴブリンの食料を調達しようとしたのである。

 このことをジヒトはメルに説明するが今なお納得いかない様子のメルはもう一度同じ質問をする。


「そうだとしても、森の薬草も底をつきかけているわ。結局食料がないのは変わっていないんだから、ゴブリンは餓死するしかないはずよ」

「しかし、実際にはそうなっていない」


 ジヒトの言う通りゴブリンの討伐証明の数は増え続けてはいないものの衰えてもいない。

 ならば、森にはまだ食料があることになる。しかし、森の動物や薬草は底をつきかけている。

 一体何をゴブリンたちは食べているのかわからないメルはジヒトに続きを話せと先を促す。


「確かにメルの言う通り既に森の食料はつきかけている。そこでゴブリンたちは飢えを凌ぐために仲間たちを食べ始めたんじゃないかと俺は考えている。

「仲間を……」

「……食べた?」


 ジヒトの答えにメルとゲントは唖然となる。

 幾ら魔物でも普通は仲間を食べようとは思わない。しかし、今回はそれが起きた。

 食料を調達できなくなったゴブリンたちは共食いを始めたとジヒトは言う。

 あまりのことに唖然となるがゲントはいち早く復帰してジヒトに質問する。


「要するに共食いしたってことですか?」

「ああ、餓死したやつを食べたのか生きている仲間を襲って食べたかのどちらかだろうな」


 その様子を想像してしまったゲントは顔を顰める。

 魔物とはいえ共食いという行為に同じ生き物としてゲントは嫌悪感を覚える。

 ゲントは顔を顰めるさなかメルは目を閉じて考え込む。

 それに気がついたゲントは考え込んでいるメルに声をかける。


「何か引っかかることでもあるんですか?」

「あんた魔物が共食いするとどうなるか知らないの?」

「……あ、あれが起こるんですよね? あれはよくない」


 まさかと思ってゲントに聞いてみたメルだが答えは案の定だった。

 それを見ていたジヒトはこいつは本当に大丈夫なのかと思い大きな溜息をつく。

 メルは呆れ果てて説明する気を失ったので、ジヒトがゲントに説明するを前に注意する。


「……知らないなら、知らないと認めることだな」

「いや、聞いたことはあるんですよ! ただ忘れただけです!」


 どっちもあまり変わらないだろうと思うジヒトだが言っても仕方ないので話を続ける。


「ゴブリンに限らず魔物は共食いをして体内に他の魔物の魔石を取り込み続けると急成長することがある」

「今回の場合は?」

「ゴブリン将軍が現れた可能性がある」


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