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森の指揮官 2

一日で百PVを超えました!

ありがとうございます!

 

 フーラが注文の確認を終えて去って行った後、時間が過ぎて酒場は夕暮れ時の雰囲気に包まれていた。

 現在の酒場には多くはないが多少の客が居り、それぞれのグループが集まって席に座っている。

 もう既に注文の品を作り終えそれぞれのテーブルに届けたジヒトは作り置きのシチューの火加減の調整をしたり食器を洗う必要があるか確認をする。それ以外は今すぐしなければならないことはない。

 そこへ、酒場に来るなりカウンターに座り、まるでそこが自分専用の場所であるかのように振る舞う客が現れる。

 そして、その客はジヒトへいつものように注文する。


「いつものちょうだい」


 ジヒトも今更確認しなくともその客が誰なのか理解しているので、背後の棚から蒸留酒を取り出しグラスに注ぐ。

 そしてグラスを差し出されたメルは蒸留酒を受け取り口をつける。


「はあ、これを飲んでやっと仕事が終わったって感じがするわ」

「おつかれさん。あと言い方がおっさんくさいぞ」

「大きなお世話よ。私の美貌はその程度では損なわれないの」


 確かに長年の付き合いのジヒトからしてもメルは美人だと思うが、だからといって何をしても許されるわけではないだろうとジヒトは心の中で呆れる。

 それに自分で自分のことを美貌と言うのは如何なものかと思う。


「だとしても、言動には気を配るべきだな」

「うるさいわねー。あんたは私の婚期を心配するお父さんかっての」

「俺の年齢だけ跳ね上げるな。せめてそこはお兄さんにしておけ」

「どっちも大して変わらないわよ」


 メルはこんなくだらない会話を楽しみつつも蒸留酒を飲み進める。

 メルもジヒトの注意に言い返しはするが、内心ではこのくだらない会話と蒸留酒の二つで仕事が終わった感じているのであながち嫌がってはいない。

 因みに婚期に関しては二人とも心の奥底で気にしているのであまり踏み込まない。お互いに傷つけ合う必要はない。


「それはともかく今日はシチュー以外はあるの?」

「まあ、酒場なんだから何か注文さえあればそれを出す」

「じゃあ、いいわ」

「いや、注文しろよ」


 いらないとは言ったがメルはジヒトに一番早く出てくる炒め物を注文する。

 さすがに今のはいらないやり取りじゃないのかと思うジヒトだが、それこそいらない一言だと思い炒め物を作り始める。

 根菜やタマネギなどを炒め始めるジヒトを眺めながら、メルは今日あったことを思い出して愚痴を言い出す。

 ジヒトはメルの愚痴を聞きながら野菜を炒めつつ時折相槌を打つ。

 愚痴の内容は後輩の受付が抜けていて頼りにならないだの、新人冒険者がゴブリンらしきものの骨を持ってきて報酬を欲しがったので諦めさせるのが面倒だったと言ったような話だ。

 ジヒトとしては後輩を頼って自分がサボろうとしているのではないかとか、新人冒険者なんだから丁寧に説明すればすっぱり諦めてくれてたんじゃないかと思うが言わない。

 今更言っても仕方ない上に、別にメルはこっちの意見が聞きたくて話しているわけではないとジヒトは考えているからだ。実際メルも何かを求めて話しているわけではないのでこれで問題ない。

 そんな話をしているとジヒトは炒め物を作り終えてメルに炒め物を出す。


「できたぞ」

「どうもー」


 メルは差し出された炒め物を受け取り食べ始める。

 すると、酒場に新たな客がやって来る。

 その客はカウンターに座るなりジヒトに注文する。


「メルさんと同じのをください。美味しそうなんで」


 メルと同じ炒め物を注文したのはゲントである。

 美味しそうなんでと爽やかな笑顔で言っていたが、炒め物が一番安い料理という理由で注文したと、察しはついているジヒトとメルはゲントのことを爽やかとは思わずケチくさいと思う。

 なんだか変な目で見られてないかと思ったゲントは不毛な言い訳をする。


「なんですか? 美味しそうだから注文しただけですよ?」

「安いからでしょう?」

「ち、違いますよ! メルさんが食べてるの見て注文しただけです!」

「しれっと私を言い訳に使うのやめてくれないかしら」


 ゲントは何故こんなことを言われなければならないのかとメルを睨む。

 しかし、メルは全く気にした様子を見せずにニタニタと馬鹿にしたような笑顔を浮かべながら自分の炒め物を食べ続ける。

 ゲントはメルを言い負かすべく、味方を増やそうとジヒトに視線を向けるが、当のジヒトは既に調理を始めており他人事といった様子だ。

 味方は居ないと悟ったゲントは最早自滅覚悟で反論する。


「そんなことばっかり言ってるから結婚もできずにいるんですよ」

「……最低ね。ケチくさい上に最低なことを言ってるあんたの方こそ結婚できないわね」

「いいんですー。俺はまだ若いんだから、どうにでもなりますー」

「だったら、こっちだって行き遅れ仲間のジヒトで妥協しますー」

「……おい。最終的に俺を馬鹿にしてないか?」


 ジヒトは炒め物を調理する手を一瞬止めて問いただす。

 ゲントのことをケチくさいと思いはしたが、何も言っていないジヒトは何故自分がメルには行き遅れと言われ、ゲントからは遠回しに若くないと現実を突きつけられなければならないのかとうんざりする。


「やだなー、マスターを馬鹿にするわけないじゃないですかー。余り物って言ったのはメルさんだけですよ」

「余り物なんて言ってないわ。行き遅れよ、行き遅れ」

「わざとだな?」


 ジヒトは二人の答えに悪意が滲み出ているのに気がつき眉をひくつかせる。

 お前たち二人とも結婚なんてできねえよと思いながらもジヒトは調理を進める。

 当の二人はもう満足したのかジヒトを置いて既に別の話をしている。


「あんた今日は何してたの?」

「今日は初心に帰ってゴブリンを狩ってました。ついでに、薬草が本当に見かけなくなったのかを確認してました」


 つい最近メルに薬草採取の依頼が失敗続きだと聞いたゲントは生活費を稼ぐついでにメルの話を確かめに森へ行っていた。


「で、結果はどうだったわけ?」

「ゴブリンは結構狩れましたけど、薬草はなかなか見かけなかったですね。もちろん、全くなかったわけじゃないですけど」


 メルは森で何かが起こっているのは確かだと思い眉間に皺を寄せる。

 ゲントは変なこともあるんだなと思うが、何が起こっているかさっぱりわからないので、気楽な様子で料理を待つ。

 ジヒトはできた炒め物をゲントに差し出しながら二人に話を持ちかける。


「メルはゲントが狩りに失敗したことは覚えているよな?」

「ええ、もちろん覚えてるわよ。新人みたいな失敗したわよね」


 メルはあれは面白かったと嬉々としてジヒトの質問に答える。

 しかし、ゲントはまだその話を引っ張るのかと思い露骨に顔を顰める。

 ジヒトはメルの答えに頷きゲントのことを気にせず真面目な顔で話を続ける。


「実は今日フーラから少し気になることを聞いてな」

「どうりで朝からあの子の声が冒険者ギルド内に響き渡っていたわけね」

「それが俺の失敗にどう関係してるんですか?」


 メルはジヒトの話で朝の受付まで響いていた声に納得する。

 ゲントは二人の会話に疑問を投げかける。


「ゲントの話では血の匂いで動物が逃げ出したと言ったが、もしかしたらもっと別の理由があるかもしれないと思ってな」

「え! じゃあ、俺は失敗してないってことですよね!」

「依頼の失敗は変わらないわよ。それで別の理由って何?」


 ジヒトの話にゲントは一瞬笑顔になるがメルの正論にばっさり斬り伏せられる。

 メルはゲントの戯言を軽く流してジヒトに話を続けるように促す。

 ジヒトはあくまでも推測だがと前置きしてメルに答える。


「そもそも森の動物の数が減っているかもしれない」

「それってつまり血の匂いを嗅ぎ取って逃げる以前に、血の匂いに反応する動物が居ないってことよね?」

「全く居ないことはないだろうが、おおよそ間違ってないな」


 軽い話と思って聞いていたメルはジヒトの考えを聞き頭を切り替える。

 つい最近森の生態系の話をしたばかりなので、ゲントもさすがにただ事ではないと悟り黙って話を聞く。

 さらにジヒトは確認の意味を込めてメルに質問する。


「薬草の依頼も失敗続きなんだったよな?」

「ええ、そうよ」

「自分も今日は森に行きましたけど、さっきも言った通り薬草はほとんど見かけなかったです」


 ジヒトは二人の答えを聞き推測を確信に変える。

 メルとゲントはジヒトが何を考えているかわからないが静かにジヒトの言葉を待つ。

 ジヒトはまだ不可解な点は残ると思いながらもひとまず考えをメルとゲントに伝える。


「面倒なことになっているかもな」


 メルとゲントは待ちに待った答えが思っていたような具体的な答えと違い、肩透かしをくらった気分になる。

 メルは焦らしてるんじゃないわよという意味を込めてジヒトを睨む。

 そして、ゲントは苦笑いを浮かべて、ただジヒトの話を待つ。

 ジヒトは何をそんなに焦っているんだと思いながらも、早く話さないとメルがキレるなと思い順序立てて話出す。


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