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不気味な残りもの 2

 

「実はーー」

「ちょっと待て」


 クンフトはカウンターの席に座り、いざ話出そうとしていたところをジヒトに制止され驚きながらも口を噤む。

 当然のように話を横で聞く気でいたメルもいきなりの制止に何ごとかとジヒトを見る。

 ジヒトはクンフトの話を止めてマスターとしての仕事をする。


「注文は何にする?」

「え? ああ、じゃあ水をください」


 クンフトはジヒトの言っていることが一瞬理解できなかったが、自分がまだ何も注文していなかったことに気づきすぐに注文する。

 メルは何を今になって注文を取っているのだとジヒトに思う。それに話を遮ってまですることなのかと思い軽くジヒトを睨む。

 ジヒトはその視線をなるべく気にしないようにしながらクンフトに水を出す。


「ありがとうございます。そういえば、先日は何も注文してなかったですね」

「そうだな。まあ、俺も聞かなかったしな」


 クンフトは先日も注文していなかったことを思い出して申し訳なさそうに苦笑いを浮かべる。

 ジヒトもそれは覚えていたが、別に咎める意図があったわけではない。

 何より先日はクンフトの落ち込みようから金を使わせるようなことはしなかった。

 実際、クンフトとしてもあの日は宿代しか持っていなかったのでジヒトの気遣いは正しかった。


「今回はちゃんと注文しましたからね。水ですけど」

「ああ、ほとんど無料に近いけどな」


 都市エルスには河が流れている上に冒険者ギルドの敷地内には井戸もあるので、水に困ることはない。ほとんど無料である。

 そのことを理解して注文したクンフトは冗談交じりに水を強調する。

 もちろんジヒトも当然理解しているので、クンフトの冗談に乗ってにやりと笑いながら答える。

 そんなジヒトとクンフトの楽しそうなやり取りにメルはこれ以上ないくらいの無表情で割り込む。


「いい加減に話を進めてくれないかしら? いちいち水一つでキャッキャウフフしてんじゃないわよ」

「は、はい!」


 先程までの丁寧な対応をしていた女性は消え去っていた。

 メルとしては初対面なのでもう少し丁寧なままでいようかと思っていたが、いつまで経っても話が進まないのに苛立ちを感じた上に馬鹿馬鹿しくなって元の態度に戻すことにした。

 また丁寧な口調をジヒトに馬鹿にされてから、いつやめようかと考えていたので丁度良かった。それにいつまでも自分を偽るのは面倒だと思ったのもある。

 クンフトはメルの豹変に少し驚いたが、こちらが素のメルだと瞬時に理解すると落ち着きを取り戻す。それに先程から感じていたジヒトに対する威圧感から何となく察しはついていた。


「え、えっと、実はマスターと先日話をしてからチームを組んで活動してるんです」

「そうか。いい仲間には出会えたか?」

「はい! まだそんなに日は経ってないですがいい感じです!」


 クンフトはまだチームを組んだばかりだが、とても愉快な仲間だと言う。

 チームは同じ新人冒険者四人で組んでいると言う。それぞれ職業もばらばらでバランスが取れているとも言う。ただ、個性が豊かなのはいいが意見をまとめるのが大変だとクンフト愚痴る。

 クンフトはまた話が逸れて来ていることに気づき、まずいと思ってメルを見る。

 しかし、メルは特に気にすることもなく話を促すような仕草をする。

 メルは別にそこまで話を早く進めてほしいわけではない。ただ暇が潰せればいいのだ。ただし、先程のように大して面白くもないやり取りを見せられるのは御免こうむりたいのだ。

 ということがわかっているジヒトはクンフトに話を続けるように声をかける。


「それで?」

「はい。それで連携も取れるようになってきたので、だいぶゴブリンを楽に討伐できるようになりました」

「それは良かったな」


 それによりクンフトたちの収入も安定してきて、なかなか順調な冒険者生活でできている気がするとクンフトは言う。

 ジヒトとメルもそれを聞き大丈夫そうだなとひとまず安心する。

 もちろんこの先様々なできごとを体験するだろう。

 冒険者なので命を落とすほどの危険な目にあう可能性もある。また冒険以外での厄介ごとに巻き込まれる可能性もある。しかし、それはジヒトやメルが注意するようなことではなく、自分たちで気づき対処すべきことだ。ただし、ジヒトとメルは助言を求められれば答えるつもりではいる。

 なので、ジヒトとメルはその時まで待ちながら話を聞く。


「ですが、調子に乗って取り返しのきかないことになってもいけないので、今は連携の確認を主に行ってます」

「へえ、慎重なのね」

「はい。血の気が多い仲間が一人居ますが、今のところは慎重路線に賛成してくれてるので問題ないです」


 クンフトがチームのでリーダーらしいことを悟ったジヒトは少し大変そうだなと思う。

 しかし、当のクンフトは今のところ苦笑いを浮かべているが、不満そうな様子はない。

 メルはチームの仲も良好な状態なのは理解したが、気になったことを問いかける。


「チームの仲も良好で収入も安定してきてるのに何を相談したいのよ」

「えっと、相談の内容というのは魔物の死体についてです」

「魔物の死体?」


 なんでもクンフト曰く、最近はゴブリンをより多く討伐するために四人で頻繁に森に行っているらしい。そこで連携の確認や自分たちの実力を確かめていると言う。もちろん討伐したゴブリンからは討伐証明の耳を切り取っている。

 そこまではなんら問題はないのだが、森で放置されているゴブリンの死体を見かけるようになり問題が起きた。

 最初は何も気にすることもなく見つけたゴブリンの死体からも耳を切り取って自分たちのものとしていた。しかし、ある時にチームの一人がこれは獲物の横取りにあたるのではないかと言い出した。というのも、ゴブリンの死体は誰かが討伐して後で耳をまとめて切り取ろうとしていたのではないかと言う。クンフトも一理あるかなと思い賛成したが、残りの二人がそこまで気にする必要はないのではないかと反対したのだ。

 その日は一旦森から出て自分たちが利用している宿に戻って話し合ったが、意見はまとまらなかったとクンフトは言う。反対した二人もこんなことで揉めるのも馬鹿馬鹿しい上に後から誰かに文句を言われるのも癪なのだが、むざむざ放置するのも勿体ないのではないかと言う。両方の意見とも正しい気がしたクンフトたちは行き詰まりどうしたものかとなった。

 そこでクンフトは相談したい人が居ると言い一日だけ待ってほしいと言った。

 他の三人も自分たちも休みがてらに一日かけてもう一度考えてみると言う。そして、その日の反省会は御開きとなり今に至ると言う。

 話を聞いていたメルはまず思ったことを言う。


「新人らしからぬ穏やかっぷりね……」

「そうですか? まだチームを組んで間もないのでよくわからないですが」

「新人ならもっと殴り合いの喧嘩とかになりがちなんだけど、あんたたちのチームは違うみたいね」


 クンフトからしてみればすぐに殴り合いになる思考がよくわからないので、メルの言うことが理解できない。

 クンフトたちのチームはどうせ揉めるなら、もっと今後の方針などの重要なことで揉める方が有意義だと考えているのでやはりよくわからないと言う。

 改めてそう言われたメルは複雑な顔をする。


「なんか歳の差を感じるわ……」

「それはわかる気がするな……」


 ジヒトとメルは誰かに改めて指摘されたわけではないが、若い世代の冒険者の実情を知り落ち込む。

 ジヒトとメルはクンフトたちより十以上は歳が離れているので、どうしてもジェネレーションギャップを感じてしまう。

 たとえ二人が毎日冒険者ギルドで働いていても一人一人の考え方まではわからない。

 ジヒトは酒場にいつも居るので多少は最近の冒険者の考え方にも理解はあるが、それでも歳の差は感じる。

 対してメルは受付で事務的な会話や多少の世間話はするが、あまり個人の考え方まで踏み込んだ話はしないのでジェネレーションギャップに衝撃を受ける。


「な、なんかすみません」

「謝らないでよ。余計悲しくなるわ」


 クンフトはメルの落ち込みように動揺するが、どうしていいかわからないのでジヒトに助けを求める。

 ジヒトはメルの気持ちがよくわかるが、さすがに落ち込みすぎなので注意する。


「気持ちはわかるが落ち込みすぎだ。それに話が逸れてるぞ」

「……そうね。放置されているゴブリンの死体から討伐証明を取っていいのか、だったかしら?」

「はい」


 ジヒトに注意されてようやく落ち着いたメルはクンフトの話を確認する。

 クンフトは聞きたかった話が思わぬ形で逸れてしまって、不安になっていたがジヒトのおかげで元に戻ったので安心する。

 メルは少しだけ考える仕草をする。そして、頭の中で考えを確認し終えるとクンフトに考えを伝える。


「結論から言うと、放置されているゴブリンの死体から討伐証明を切り取っても問題ないわ」

「理由を教えてもらってもいいですか?」

「ええ」


 クンフトの問いかけにメルは了承すると説明が始まる。


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