第二章 『天へ往くため地を駆けて』 プロローグ
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Air・Fantagista
第二章
プロローグ
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はじまりの神使が いなないた。
腐った大地は、これでまたよみがえる。
――大聖典第四章 十節 『炎の海』
ふたつの業を背負うもの。
それは誰よりもはやく空を駆け、誰よりも多く矢を射った。
――大聖典 第十八章 四節 『空の渦』
大陸の中心に穴が開く。
輪に巻き込まれ、彼等は落ちた。
――大聖典 第十六章 八節 『魔窟』
竜は待つ。
己が動くべき時を。
――大聖典 第一章 二十節 『飛竜』
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「パンリさん、パンリさん!」
体格の良いおかみが、階段の上から叫ぶ。
下のバルコニーで呼び止められた、赤いローブを目深に被った少年は足を止めた。
「あんたのおかげで、ウチの子、今回のテストの点数、上がったんだよ。」
洗濯物を抱え、嬉々として降りてくるおかみ。
「ホント、悪いねェ。
受験前だってのに、ウチの子の勉強の面倒まで見てもらって。」
「あ…いえ……。
本試験まで、もう2週間切ってますから……もう今さら、勉強すること無いですし…。
全然支障……ありませんから…。」
彼女の迫力に押され、弱々しく答える少年。
「さっすが、余裕だねぇ……パンリさん。
大学に入っても、たまに遊びにくるんだよ。」
換気のため、開け放たれる店の入り口。
そこから覗く、人の往来の絶えない中王都市の大学通り。
その様子を眩しそうに見詰め、少年はさらに深くローブを被った。
「あの……合格とか…まだ分からないですし……その…」
そんな彼の謙遜の言葉などおかまいなく、おかみはマイペースで、手にしたベッドのシーツの
しわを伸ばしにかかる。
少年は肩をすくめて、バルコニーと繋がっている食堂に足を運んだ。
そして、毎日の日課。
奥に飾られた、お気に入りの神の油絵を見る彼。
美しい女性の肢体でありながら、猫の顔を持ち、背に広げる蝶のような羽根。
右手には果実。
左手は……端に寄った構図上、描かれていない。
時間を忘れ、絵に見入る。
風が、薄地のカーテンをなびかせた。
テーブルに置いた厚い本の頁がめくれ、瓶に挿した花が泳ぐ。
少年は、自分が着たローブを強く握りしめた。
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ここに、神は全て死んだに等しいことを記す。
――大聖典 序部 『創る者の言葉』
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この物語を記す機会が存在することと、読んでくれる貴方に感謝。 筆者