第三章 『中王都市の飛竜』 プロローグ
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Air・Fantagista
第三章
プロローグ
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私は、多くの光に看取られるだろう。
――大聖典 第六章 二十節 『創言』
中陸を分かつ戦いが始まる。
もはや止められない。
――大聖典 第十六章 九節 『魔窟』
生まれ落ちたる我が子を葬ること。
これ以上の苦痛はない。
――大聖典 第十九章 一節 『爛れた世界』
彼の背徳。
それは、『創る者』にも予期できることではなかった。
――大聖典 第五章 二十節 『最期の弦』
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―――畑のそばで、野垂れ死んでいる者がいる。
早朝に仲間から聞いた、噂話だった。
その農夫は真偽を確かめるために外を出ると、案外すぐに『それ』を自分の作業場付近の高い丘に見つけることが出来た。
距離を遠く離れていてもわかる、鳥が集っている地点。
前もって死体と解っていても、やはり嫌なものだ。
そうして、近寄るのを躊躇していると、目の前を少女が横切った。
非常に背が低く、フリル付いた黒のドレスを纏っている。
まるで骨董人形のよう。
そんな彼女は宙を浮いているような軽い足取りで、目の前の丘を登っていく。
足音によって小鳥は散って、その跡には一人の長身の男が残されていた。
「起きなさい、ユーイ。」
まるで母親のように、優しい声を地の男にかける少女。
眺めていた農夫は、そこで腰を抜かしてしまった。
―――あれは死体などではない。
少女の呼びかけに応え、立ち上がる。
しかもその手には、黒塗りの鞘刀が力強く握られているではないか。
頭に一匹。
肩口に一匹。
逃げない小鳥を乗せたまま―――
「……眠い。」
半眼で呟く、その青年。
黒いスーツに金髪碧眼。
褐色の肌。
若輩特有の、血の気に満ちた顔立ち。
「目を離すと、すぐこれなんだから。
もう充分に眠ったでしょう?」
少女は笑い、まだ目を開けきれていない彼の頬を指で軽く突いてから、手を引いた。
「……『久遠』の召集がかかったわ。」
そしてかけられる一声で。
彼に乗っていた小鳥は全て飛び去った。
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ここに、神は全て死んだに等しいことを記す。
――大聖典 序部 『創る者の言葉』
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この物語を記す機会が存在することと、読んでくれる貴方に感謝。 筆者