3話
装備品チェックその1
目を開けると薄暗いカプセルの中だった、手元にあるレバーを引きカプセルを開ける。
「おつかれさまです、お嬢」
カプセルを開けると雛鳥が立っていてこちらに手を差し伸べてくれる。
手を借りてカプセルから出るとアリサ少尉とアーク中尉が微妙な表情でこちらを見ていた。
椅子の上にたたんでいた上着を着て身形を整えているとアーク中尉が口を開く。
「苹果少尉、君の名前本当は草壁苹果ではないかな?」
「ッー!」
振り上げようとした私の腕を雛鳥が掴む
「お嬢・・・」
アーク中尉は平然としていて、私が体から力を抜く話を続ける、アリサ少尉は訳がわからないといった様子で半泣きでこっちを見ている。
「別に私は君達の敵でじゃない、能力テストのありえない数値と御剣と言う名前、君自身の戦い方を見ていてそう思っただけだ。」
アーク中尉は能力テストの結果画面が表示されたモニターを指しながら言うと雛鳥が私を見つめる。
「そういうことなら話しても問題ないわ」
私がそう言うと雛鳥は私達のことについて説明を始める。
「アーク中尉がどこまで知っているかわからないので最初から話しますね、嬢の旧姓は草壁ではなく草薙です。名前が変わったのは結論だけ言うと名前を変えるために僕と結婚したからです、なので経歴の詐称ではないです。名前を変えた理由は長くなりますが、草薙家は旧日本の陰陽師の草壁家の分家です。」
アリサ少尉が陰陽師と聞いた瞬間頭の上に大量の疑問符を浮べそれを見た雛鳥が苦笑しながら補足する。
「陰陽師とは世界が2つだった頃に科学側の世界にあった数少ない対魔組織の1つです。科学の世界にも存在が知られてなかっただけで魔物がまったく居なかったわけではありません。陰陽師はその中でも特に鬼と呼ばれる種を殲滅することを生業としていました」
「そして話は戻りますが草壁流は各家の当主の中からさらに草壁流の当主が選ばれます。そしてお嬢が草薙の家で当主となったとき本家の当主と並んで草壁流次期当主候補として選ばれた。あまり出てくることのない分家からの当主と本家の当主の跡目争いは当主本人達の知らないところで劇化し、ついに本家当主の者が暗殺された。それを知ったお嬢は9つの家の当主の証である10本と草壁流当主の証である宝剣2本、合わせて12本の草壁流に伝わる刀をお嬢の持っていた物も含めて全て破壊しました」
「結果として宝剣全てを失った草壁流は解体されて跡目どうこうの話しじゃなくなりましたけど、元草壁流の者はお嬢に恨みを持っている。そのため名前を変えて国を出た。そして軍の庇護下なら向こうも簡単に手出しできないと言うことで国籍を問わず入隊できるランプライトの国家軍に入って今に至ると」
一通りの話を聞いたアーク中尉は私と雛鳥を順番に見て口を開く。
「苹果少尉が草壁家を壊滅させたなら、御剣の家の雛鳥少尉はなぜ苹果少尉と一緒に?」
アーク中尉の質問に対して雛鳥は懐かしそうな顔をして答える
「御剣は草壁流ではありますけど陰陽師ではないんですよ、草壁流の当主護衛の役割を持った家なので。そして僕は御剣の当主ではありません失敗作なので。御剣の家は名前だけで実際の所子供のほとんどが養子ですそして集めた子供に魔物の血を飲ませて強制的に能力を強化した人間を作りま。すけど9割は失敗して死にます。僕の場合は死にはしませんでしたけどこんな見た目なので使えないと判断されたんですけど。たまたま御剣の当主選出のときに御剣家に来ていたお嬢が僕を見てこのネコミミは私がもらうといって・・・失敗作として処分するつもりだったからかそのまますんなり草薙家につれて帰られてしまって。なので僕自身は命を救ってくれたお嬢に付いていくだけです」
アーク中尉は大きなため息をついて口を開く
「そうか、つまり二人とも草壁流の者とは敵対関係にあると?」
「そうなりますね、お嬢も僕も追われてますから」
「そういう事なら何の問題もないな」
「何のことですか?」
アーク中尉が意味ありげに言うので質問する。
「草壁流の者が力を取り戻すためにかなり危ないことをしてるらしい、鬼に憑かれた者が暴れて極東軍に被害がでたって話しもあったか・・・」
アーク中尉の話しを聞いて納得する、極東のようなことにならないか心配していたのだろう、鬼の話は気がかりだが軍であれば鬼の1匹や2匹数で圧倒できるだろう。
「なるほど他に聞きたいこととかはないですか?」
雛鳥がそう言うとアーク中尉ももう聞くことはないようで、話を進める
「あぁ、もう大丈夫だ、それより少し時間を食ったが装備品のチェックをしないとな、アリサ少尉、研究棟まで案内してやれ、それから二人には嫌な事を聞いてしまった。詫びと言ってはなんだがこれを渡しておく、技師に渡したらある程度武器の調整を融通してくれるはずだ」
そういってアーク中尉が装備使用制限解除許可証と書かれた書類渡してくる。
配属初日に装備制限解除とは・・・確かにこれなら武器の調整も融通してくれるだろう、どの装備を使っても良いと言うのだから。
アリサ少尉に案内されて研究棟へとたどり着く、正面の入り口から中に入ってエレベーターに乗り込むとアリサ少尉が15階のボタンを押す
「あ、あの・・」
アリサ少尉がまじめな顔でこちらに声をかけてくる
先ほどの事を気にして居るのかもしれない
「どうしたの?」
たずねると覚悟を決めたような顔で口を開く
「もう一回雛鳥少尉の耳を触っても・・・」
そっちだったかぁ・・・
わからなくはない確かに触りごこちは抜群だ
雛鳥が微妙な表情でこっちを見つめてくる
「触らせてあげればいいじゃない・・・」
私がそう言うと雛鳥は
「どうぞ」
と頭を差し出す
触っているアリサ少尉は実に幸せそうな顔だ
そうこうしている間にエレベーターは目的の階に到着してドアが開く
アリサ少尉は満足したのか雛鳥の耳から手を放して目的の場所へと案内してくれる
廊下を何度か曲がった先に受付とその横に丈夫そうな鉄格子の扉があった
「どうも、第三小隊のアリサ少尉です。本日配属された新人2名の装備品を受け取りにきました」
アリサ少尉が受付の女性にそう伝えると女性は資料をいくつか確認してから手元のスイッチを押す
ガチャリと言ういかにもな開錠音が鳴るとアリサ少尉が扉を開けて先へと進む
そのまま進んだ突き当たりにある扉を開くと武器庫になっていた
アリサ少尉はハンドガンが大量に並んだ棚の前で立ち止まると説明を始める
「必要なのはハンドガンかマシンピストルと光剣こちらの二つは必ず携行していなければならないもので、ハンドガンはカスタマイズも可能。光剣は大量に種類があるのでカスタマイズしなくてもある程度自分にあった物が選べると思うわ」
私と雛鳥は説明を聞きながらハンドガンを見て回る、武器にはそれぞれタグが付いていて細かく性能が書かれている。見て回っているうちにひとつのハンドガンに目が止まる
「私これにするわ」
私がそう言うとアリサ少尉は私の持っているハンドガンのを見て説明してくれる
「57式、これは600年前のFive-seveNってハンドガンの設計図が最近になって出てきた物をそのまま再現したものね、シングルアクションとダブルアクションどちらもあるはずだから好きな方を選ぶといいわ」
説明を聞いている間に雛鳥の方も選び終わったのか1丁のマシンピストルを手にしている。
その銃を見たアリサ少尉はその銃についても説明してくれる
「雛鳥少尉の持っているのはPD-2ね最近採用されたマシンピストルで制式採用銃の中では一番連射速度が速い銃よ」
アリサ少尉は銃を見ただけで説明をしてくれる、意外と詳しいんだな・・・もしかしてそう言うのが好きなのだろうか?
「じゃあ次は光剣を選んで」
どこか嬉しそうにアリサ少尉はそう言って自分も光剣を見て回っている、あ、やっぱり好きなんだ。
光剣は支柱があるタイプの物がいいかな・・・
探していると警棒のような光剣を見つける、強めに振ると特殊警棒のように支柱がジャキッという音を立てて伸びる。スイッチを押せばその支柱をビームが被う、ふと思いついて支柱を収納したままスイッチを押すとそのままビームが伸びる
なるほど・・・支柱の有り無しを選べるのか・・・
「私はこれにする」
私がそう言うと雛鳥も選び終わったようだ
アリサ少尉話し掛けると少し残念そうな顔をしたがすぐに元の表情に戻り次の場所に案内される
アリサ少尉が奥にある扉を開くと大型の武器が大量に並べられた棚の並んでいた
「次は主装備を選んでもらうわ、二人ともどの兵科も基準値クリアしてるし装備制限もないからどの武器を選んでもらってかまわないわ」
そうアリサ少尉に説明されて雛鳥が武器の大量に並んだ棚を見渡しながらポツリとこぼす
「と言われても、これだけあるとどれにしようか迷いますね・・・」
それを聞いたアリサ少尉は目の前の棚の武器を手にとって眺めながら雛鳥に尋ねる
「雛鳥少尉はどんな武器を探してるの?」
「狙撃銃で出来るだけ射程距離が長くて威力の高いやつかな・・・」
雛鳥が答えるとアリサ少尉は少し考えながらオススメの物を教えてくれる。
「んー・・・だったらガウスライフルとかどうかな?」
「ガウスライフル?」
私が聞き覚えのない武器の名前に疑問符を浮べているとアリサ少尉が説明してくれる
「電磁投射式のライフルで形式はコイルガン式の物とレールガン式の物があるんだけど、コイルガン式の物は消費電力が少ないから弾薬さえあればバッテリーを気にしないで撃てるし軽量だけど、レールガン式の物と比べると威力で劣るわ、逆にレールガン式の物は電力消費が大きくてバッテリーの消費が早くて銃自体の重量もかなり重くなるけど威力は高いわ、どちらも発射には火薬を使ってるからバッテリーが切れても普通のライフルとして使えるのも特徴よ」
「なるほど、だったら僕はレールガン式のガウスライフルにしようかな・・・」
アリサ少尉の説明を聞いて決まったのか雛鳥はアリサ少尉が説明しながら案内してくれたガンラックに掛けてある中で一番大きなライフルを手に取る、大きさは小柄な雛鳥よりも少し長いくらいでかなり重そうだが雛鳥は特に気にした様子もなく平然と持ち上げている。
「それで苹果少尉はどの銃にしますか?」
雛鳥の銃が選び終わったところでアリサ少尉は私に聞いてくる
「んー・・・銃じゃなくて実体剣とかないかなぁ・・・なんて」
私はアサルトライフルが並べられた棚を眺めつつ、なんとなく無いことはわかっているけど一応有ったらいいなと思ったものをそのまま口にしてみる
「一応あるには有りますけど・・・いったん手続きして移動しましょうか」
「え?」
あるの?
アリサ少尉は心当たりがあるのか私達に手続きをさせると別の階に行くと言って私達を連れてエレベーターに乗り込む、22階のボタンを押してエレベーターが上昇を始めるとアリサ少尉は口を開く
「ちょっと変な人が多いですけどあんまり気にしないでください」
それから30秒ほどでドアが開きアリサ少尉に連れられて廊下を進んでいく、研究室が並んでいるようで廊下に点々と並ぶドアには第○研究室と書かれたプレートが掛かっている。
エレベーターホールから真直ぐ伸びた廊下の突き当たりのドアの前でアリサ少尉は立ち止まる
ドアには他のドアと違いファンシーなプレートが掛かっていてサクヤの部屋と書かれている・・・
アリサ少尉は一度深呼吸するとドアをノックしてから開ける
「サクヤ主任第三小隊のアリサです、新人の装備のことで相談が・・・」
アリサ少尉がドアを開けた先には書類が散乱していて机の上に人が倒れていた・・・突っ伏しているのではなく上に倒れている
「スヤァ・・・もう食べれないですよぉ・・・」
と言うか寝ているようだ
アリサ少尉は無言で眠っている人の所までいくと机の横に落ちていたスリッパを拾ってそれで頭をはたく
スタスタスタ・・・バシィン
すごくいい音が鳴ったのと同時に机の上で眠っていた人は飛び起きて騒ぎ出す
「なにごとじゃぁああああああああああああ、敵か!?ついに悪の手先がこの基地までもンガッ!」
アリサ少尉はもう一度スリッパで事務机の上で騒いでいる女性を叩く
「あ、何だアリサ少尉か」
スリッパでたたかれた瞬間急に落ち着きを取り戻す女性
「なんだじゃないです、勤務時間中に寝ないでください」
アリサ少尉は呆れ顔で女性に注意をする
「こちらサクヤ主任、武器開発部の責任者よ」
「どうもサクヤ・アントークよ、よろしく」
サクヤ主任はアリサ少尉に紹介されるとこちらを向いて挨拶してくれる
ちゃんと見ると綺麗な女性だ、整った顔に艶のあるきれいな黒髪、私ほどではないが女性にしては高い身長、尖った耳はエルフ族の特徴であるが顔立ちからするとハーフエルフだろう。
「弟三小隊所属御剣苹果少尉ですよろしくおねがいします」
「同じく御剣雛鳥少尉ですよろしくおねがいします」
自己紹介を終えたところでアリサ少尉が本題を切り出す
「それでサクヤ主任、実体剣作ってましたよね」
「えぇ、対魔物用の装備で隕鉄を使ったものをいくつか試作したけど全部採用されなかったわ」
「苹果少尉が主装備に実体剣を使いたいらしいんですけど何とかなりますか?装備制限はないんですけど」
「そう言うことなら試作品が大量にあるから好きな物を持って行くといいわ」
話を聞いたサクヤ主任はあっさりと了承してくれ試作品が置いてある部屋へと案内される
本当は1話にまとめるつもりだったのに思ったより長くなったので2話構成にします・・・装備品チェックが終われば次は戦闘回になる・・・はず
草壁流の家は9つだけど御剣家の刀が双剣なので当主の証は合計で10本です