22話
あけましておめでとうございます(遅
「失礼します」
小隊員全員ですることも無くシリウスと遊んで時間を潰していると声と共にドアがノックされる。
「どうぞ」と声をかけると扉が開かれる。
扉の向こうに表れた二人の人物に駆け寄っていくシリウス。
いつものように入口に立っている人物…ミーゼルに飛び掛かると思った瞬間、シリウスがはミーゼルの目の前でごろんと転がりお腹を見せるとくねくねと謎の動きを見せる。
扉を開けた少女、銅ミリアは混乱している様で固まっている。
ミリアより早く復帰したミーゼルはシリウスを一瞬ちらりと見てから私たちを見る。
「シリウスに何を覚えさせてるんですか…?」
他の隊員たちの視線がこちらを向く、雛鳥と私はミーゼルから視線を逸らしつつ乾いた笑いを浮かべるのだった。
「本日より第3小隊配属となりましたミーゼル・リフォセラウェ伍長です。よろしくお願いします」
「同じく銅ミリア兵長です。よろしくお願いします」
気を取り直して挨拶をする。
ミーゼルの微妙な視線を感じつつ小隊全員の自己紹介を進めていき、一通り終わったところでミリアが口を開く。
「本日の予定について伝言を預かっています、9時半に本部へ集合しておくように、とのことです」
「9時半か、わかったありがとう」
本部に顔を出せと言う事はアーク大尉の言っていた移動の件だろうか?
午前9時30分、1軍本部が置かれている建物の1室で予想通りの隊の移動を言い渡される。
「というわけで第三小隊は全員本日より新設の対魔遊撃部隊第一小隊へ移動、明後日にはテールの守備に就いてもらう」
顔は覚えているのだが名前がいまいち思い出せない上官の話を聞きながら明後日までは何をするのだろうと考えているとその答えがぱっとしない上官から告げられる。
「明後日まで任務はない、新人も居ることだから訓練に充ててもらって構わん」
「了解」
胸に付けた階級章を見ると階級は中佐…
「それと今日中に研究棟へ行って遊撃部隊用の装備の受け取りを済ませて置くように」
「了解」
「では解散」
結局思い出せなかった…まぁいいか
「お嬢」
本部を出たところで雛鳥が声をかけてくる。
「ん?」
「先ほど難しい顔をされていたので…何か考え事でも?」
「あぁ、さっきの中佐の名前が思い出せなくてな…」
「あー、そういえばなんでしたっけあの人の名前」
「何でしたっけ…」
二人で考え出したところでアリサ中尉も頭を抱え始める。
新人二人は聞いたことがない筈なので知っているとすればアマレット曹長とマイヤー少尉なのだが…。
「なんだっけ?」
「いや私に聞かれても…」
二人もだめだったようだ。
十分後全員で小隊の支給装備を回収してリストを確認してから指定された場所に置いて研究棟へと移動する。
私の刀は個人装備なのでもちろんロッカーに入れたままだ、雛鳥ののガウスライフルやアマレット曹長のショットガンも個人装備なのでロッカーに入れたまま。
マイヤー少尉とアリサ中尉は個人装備は持ってないようでロッカーの中は空になったようだ、ミリアとミーゼルは元から空だが。
研究棟の受付で事務官に要件を伝えると武器庫へ行くように指示される。
武器庫の入り口で研究員に部隊名を告げると奥に通され、通された先には薄々予想はしていたがサクヤがいた。
私たちに気が付いたサクヤが声をかけてくる。
「あぁ、やっぱり新しい部隊ってあんた達だったのね」
「ええ、と言うかあなたこんな所で私たちの相手してていいの?割と偉いんじゃなかたっけ?」
「まぁ、一応あんた達に渡すのは試作段階の物がほとんどだからね、そして割とじゃなくて私はとても偉いのだ、なんと本日から所長になりました」
「研究員の階級はよくわかんないけど相当な出世じゃないの?」
「そうだよ、研究所のトップだからね、まぁその代わりテールの研究所に飛ばされるんだけど」
「テールって私達と一緒に来るってこと?」
「まぁミーゼルちゃんの義手のこともあるからね」
「なるほど」
なんだかんだでサクヤとは縁があるようだ。
「それはさておき、支給装備の説明ね」
ある程度話したところでサクヤが話を戻す。
「まずはアサルトライフルだけどぱっと見は今まで使ってたの同じだけど対魔物戦を想定た改造をしてる、具体的には専用の強装弾用にレシーバーを強化してコイルがン方式の加速装置を銃身に内蔵してあるわ、バッテリーもかなり軽量化されてるから重量ほとんど変わらない、銃弾は専用の7.62mmミスリル銀強装弾、一応正式採用の通常弾も使える、貫通力は上がってるからタイタンの表皮くらいなら貫通できるけどストッピングパワーはあんまりないから期待しないで」
一通り説明するとすぐ隣の射撃場へと手招きして手に持ったライフルを私に渡してくる。
サクヤが全員にライフルを渡したところでマガジンに弾が入っていることを確認してコッキングレバーを引いて構える。
全員マガジンの弾を撃ち切り問題がないことを確認する。
「問題は?」
サクヤの質問に対し全員が問題がないことを確認すると次の装備の説明に入る。
防具類は多少の改良が加えられてはいるものの今まで使っていたものと変わらず特筆する点はなかった。
「あと残ってるのは、壁面移動用のグローブとブーツね」
「壁面?」
「そう、壁を登れるのこんな風に」
そう言いながらグローブをはめて壁に手をペタンとつけてそのままぶら下がるサクヤ
「どうなってるのそれ…」
「ファンデルワース吸着を利用した吸着機能ね、まぁわかりやすく言うとヤモリの手足と同じ原理ね」
「あれって握力でくっついてるんじゃないんですか?」
「あはっ!!アリサちゃんそれはないでしょ!!ブフッ握力って…ブッ」
アリサ中尉の発言に大爆笑のサクヤ、私もそう思ってたなんてことは言わないでおこう…。
「ふー、笑った笑った、壁にヤモリは握力でくっついてるわけでも吸盤でくっついてるわけでもないのよ、ヤモリの足はつるつるしてるように見えるけど一つの足に約50万本の毛が生えているの、その毛と壁面の分子との間に引力が発生する、それによってヤモリはガラスとかの凹凸のない壁面を上ることができるの」
「なるほど」
「まぁ試してみればわかるわ、注意点としては壁面の温度が高い場所では吸着量がかなり下がるから温度変化の激しい場所ではあまり充てにしない事ね、重量制限は4点で支えて150kg壁に張り付いて銃を撃つ
として3点90kgってとこかしら、2点だと60kgくらい、装備重量も考えると壁を走って登ったりするのは相当な脚力がないと無理ね」
説明を受けている間にグローブを手に付けてブーツを履く。
全員が壁に手足をつけてペタペタと登り始める。
「壁を走るか…雛鳥確か10mくらいなら壁走れたよな」
「横にですけどね」
笑いながら答える雛鳥
「これなら天井ぐらい走れそうじゃないか?」
「どうでしょうか」
二人でぺったぺったと壁を上りながら話す。
「まぁ試してみよう」
そう言って天井で逆さまの状態で四つん這いで張り付く
「行くぞ」
「はい」
天井から手を放すと同時に踏み込む
「すっご天井走ってるよあの二人」
私と雛鳥を見て笑いながら言うサクヤ
反対側の壁についてそのまま壁を数歩走り飛び降りる。
「これならある程度の装備でも壁を走って登れそうですね」
「いやそれ私等には無理だから」
笑って言う雛鳥に対してのアマレット曹長のあきれたような突込みが微妙な静寂に包まれた部屋に響いた。