19話
ミーゼル視点
私の周りにはライフルを構えた5人の兵士、
私は弾切れでスライドストップがかかった状態のハンドガンを地面に落として両手を上げる。
所謂ホールドアップと言うやつだ。
周りの敵兵がゆっくりと距離を詰めてくる。
無駄に再現性の高い仮想の体の首筋を汗が流れる。
ゆっくりと息を吐き出し焦りを鎮める。
敵兵がすぐ目の前まで来たところで右側の敵兵の銃を掴んで引き寄せながら前の敵の銃を蹴り上げる。
強引に引き寄せられて体勢を崩した敵兵を掴んで盾にする。
味方を盾にされて他の敵兵が全員一瞬怯む、その隙に盾にしている敵の太腿のホルスターからハンドガンを引き抜いて正面の二人を撃つ、こっちが攻撃したことで敵も応戦してくる。
敵兵を盾にしたまままた一人の頭を撃ち抜く、残った一人が横から回り込んでくる。
風通しのよくなった敵の死体から手を放すと左に回り込んできた敵のライフルの銃口を義手の右手で塞ぐ、
敵は構わずにトリガーを引くが私の右手を貫通することはなく逃げ場を失ったガスが銃身を破壊する。
私はそのままライフルを右手で掴み敵を引き寄せ左手で敵の胸座を掴むと敵の手から無理やり奪ったライフルの銃床で数発殴る。
殴った敵を数回蹴って死んだのを確認すると落したハンドガンを拾ってマガジンを入れて太腿のホルスターに戻す。
荒っぽい使い方をした右腕に異常がないか確かめてから次に指定された座標まで移動する。
指定されたのはいくつか並んでいるうちのビルの一つの屋上、次の目標は隣のビルへの侵入
二日目のシミュレーターでの訓練は1日目の様に動きを覚えさせられるものではなく自己判断でいくつかの作戦を体験させられる物だ。
説明を聞いたときは不安だったが始めてみると意外と簡単で拍子抜けするような内容だった。
腰に下げた双眼鏡を取り出して隣のビルに敵がいないか見ていく、窓の内側はよく見えないがビルの周辺や屋上に人影はない。
指定された場所はビルの30階、ビルの大きさからみておそらく最上階だろう、もう一回降りてあのビルを上るのは少し面倒だなぁと考えたところでふと自分の持っている装備を思い出す。
左腕に付けた小手のような物に銛が付いたような装置、ロープランチャーだ。
まず自分の足元に二つ有るうちの一つのアンカーを撃ちだす、バシュっと炸薬が破裂する音と共に足元にアンカーが足元のコンクリートに深々と刺さる。
続いて隣のビルにもう一方のアンカーを発射する。
ロープを引っ張ってしっかりと固定されていることを確認した後巻き取りボタンを押してロープの弛みをなくした後ロープにぶら下がって別のボタンを押して目的のビルの屋上へと移動する。
キュイーンと左腕の装置が一方のロープを巻き取りながら同じ速度でもう一方のロープを吐き出していく音を聞きながら下を見てゾッとする。
「横着はするものじゃないなぁ…」
軽く後悔している私だった。
その後無事に目的のビルの屋上に着いた私は屋上のドアを破壊してビル内に侵入、数名ほど歩哨を倒して指定された場所に着いた。
指定されたPCの端末に触れたところでシミュレーション終了、視界の端に表示されるスコアは合格点を超えている。
今日の内容がすべて終わったらしくそのまま景色が変化することはなく現実の体へと意識が引き戻される。
起き上がったところで教官に声をかけられる
「かなり早かったな、時間も余ってるし何かの兵科教練もやるか?」
「やるといいことがあるんですか?」
私が尋ねると教官は笑いながら答える。
「案外現金な奴だな…訓練終了後の階級が2等兵から伍長か兵長に上がるくらいか、まぁ終わったらの話だが」
「階級が上がるってことは給料も?」
「あがるな」
これを聞いてやる気が出た。
「やります」
即答した私に教官が笑いながらシミュレータの操作画面をこちらに見せてくる。
「この中から好きなの選びな」
表示されているのは、偵察猟兵訓練、狙撃兵訓練、工兵訓練、機械化兵訓練、潜入捜査員訓練、対魔物戦闘訓練の6つだ。
「狙撃兵訓練と対魔物戦闘訓練分かりますけど後の4つは言葉だけじゃどういうものなのかわからないんですけど」
「それもそうか…偵察猟兵訓練は基礎訓練に入っていた偵察訓練の延長だ、内容は敵拠点の偵察と監視所の強行偵察の訓練、狙撃兵訓練は近・中距離における精密狙撃、長距離狙撃、カウンタースナイプ、工兵訓練は、作戦任務中における工作…お主に爆薬の取り扱いの訓練、機械化兵は車両の取り扱い、潜入捜査員訓練は、現地諜報員としての潜入工作訓練、対魔物戦闘訓練は中型以上の魔物との戦闘訓練だな」
「おすすめとかありますか?」
「おすすめって飯屋のメニューじゃねぇんだから…そうだなぁ、訓練の成績を見る限り狙撃は外した方がいいだろうな、今日中に終わらせるなら潜入工作員もやめといた方がいいか、機械化兵は…お前車の運転とかは?」
「乗ったことはない…と思います」
「そうか…お前次第だが一番すぐ終わりそうなのは対魔物戦闘訓練と偵察猟兵訓練だな、どっちがいい?」
「んー」
少し考えたところでふと頭に私が今の私として初めて目を覚ました時のことを思い出す。
半壊した自宅と私の両親の死体、そして両親を殺したであろう魔物の死体、その光景を思い出した瞬間義手になったはずの私の右手がズキズキと痛んだ。
「どうかしたか?」
幻肢痛に顔を顰めた私を見て怪訝な顔をする教官
「いえ、何でもありません…対魔物戦闘訓練でお願いします」
「あぁ、それより顔色が悪いが大丈夫か?気分が悪いなら基礎訓練は終わってるからもう休んでもいいんだぞ?」
「いえ、大丈夫です」
「そうか」
それだけ話すと横に置かれたボトルの水を一口飲んでからシミュレーターの機械の上に横になる。
「シミュレーション開始するぞ」
教官の合図とともに私の意識は再び仮想の世界へと飛んだ。