17話
アラームの音で目が覚める。
目覚まし時計を止めて起き上がると既に起きていたシリウスがこちらをじっと見ていた。
立ち上がって軽く頭を撫でてやってから、シャワーに入ろうと服を脱いだところでふと思う。
シリウスはオスなんだろうか?
まぁ気にしても仕方のないことだな
シャワーを浴びて服を着替え部屋を出る。
雛鳥と合流して朝食を摂った後ブリーフィングルームで他の小隊員と合流して前もって伝えられていた授賞式の会場へ移動するため基地を出る。
車両の窓から顔を出し機嫌よさそうに尻尾を振るシリウスを眺めていると端末にメッセージが来たので確認する。
送り主はサクヤだった
『頼まれてたもう一本の刀出来てるから時間があるときに取りに来て』
今日は丸一日休みだから式が終わった後に取りにいけるだろう、サクヤには『今日中に取りに行く』と返信しておいた。
ミーゼル視点
私は今空中を高速で落下している。
腕時計の表示を切り替えて高度計を見ると現在の高度は上空3000m、高速で減っていく高度計の数値に内心ひやりとしながら落下姿勢を維持する。
今私は本当に空中を落下しているのではなくここは訓練用のVR空間の中、
現在は高高度降下低高度開傘、所謂HALO降下の訓練中。
今時の新兵訓練は昔の様に何ヶ月もかけてするものではなくVRシミュレーターによって最短で2日ほどに短縮されている。
2日と言っても実際に体験するのは内部で処理速度を加速するため1日の訓練でも2週間程に感じるわけだ。
それでも体感1ヶ月ほどの時間で新兵にある程度の訓練を施せるのには単に新兵がVR空間の中で訓練するのではなく模範的な動きを何度か体験させてから実際に自分で同じ動きをするからなのだが、
この各訓練の前に体験させられる模範的な動きのトレースというのは自分の体が勝手に動いている様で少しというかかなり気持ち悪い感覚だ。
そういうわけで現実の私はシミュレーターの機械の上で寝ていてシミュレーションを開始してから3時間程のはずだが体感では5日とちょっとたっていて一通りの体の動かし方、近接格闘術、銃器の扱い、車両の運転等を覚えさせられた。
そんなことを考えているうちに腕時計からアラーム、開傘高度を知らせるアラームだ。
高度計を見ると現在高度約300m、先ほど何度も体験させられた通りにパラシュートを開くためハッキーを引っ張る。
その瞬間パラシュートが開き一気に減速する。
現在のシミュレーションで使用しているパラシュートは丸いラウンド型のため落下時の衝撃は生身で2階から飛び降りるくらいの衝撃がある。
着地に失敗すれば怪我くらいはする、シミュレーターで一定以上の痛みはカットされるといっても痛いものは痛いのだ。
ゆっくりと近づいて見えた地面もだいぶ近くなり近づく速度が速くなっているように感じる。
着地した瞬間転がって勢いを殺すが、
「ふべっ!!」
途中で体勢を崩して思い切り顔を地面に打ち付けた。
「ーー!」
顔を抑えて痛みに悶えていると、目の前に出てくる合格表示、これで合格ってゆるくないか…?
とりあえず一区切りついたところで休憩時間になったようで周囲の景色が変わり休憩室のような場所になる。
VR空間の中でいくら体が疲れないといっても精神は疲弊するからということだろう、お腹はすかないし満腹感も得られないが出てきた食事はありがたくいただいておく、こういうのは気分の問題なのだ。
苹果視点
式が終わり用意された控室に入った瞬間溜息を吐く、人目にさらされるのは苦手だ。
控室でずっと待っていたシリウスの頭を撫でて和んでいると、アーク大尉が声をかけてきた。
「こういうことは慣れてる方だと思ったんだがな」
「慣れていようと苦手なものは苦手です」
「そういうものか?」
「そういうものです」
「それより近々小隊ごと移動になるかもしれないぞ」
「え?」
「聞いた話だとテールの戦力が足りてないらしくてな、いくつかこっちから増援を送るらしいんだが」
「そこに第3小隊が入ってると?」
「そういうことだ」
話を聞いていた雛鳥が不思議そうに尋ねる
「第8都市テールなら隣国との国境線沿いにあるからこの中央都市並の戦力はあるはず、隣国との情勢も良好と言えるはずです、増援が必要とはどういうことですか?」
「何でもこの国と隣国イスラとジンのちょうど間のところにタロスとか名乗る新興国家が出現してそことの小競り合いがあったんだとさ、国というには土地も何もかも規模が小さいが、テールに駐屯している軍のうち2個大隊が壊滅したって話だ、隣のイスラもジンも似たり寄ったりだそうだ」
「それで増援…前線というかもう完全に激戦区ですよね」
溜息を吐きながら言うと
「これでまた昇進してもっと面倒な場所に飛ばされたりしてな」
なんてアマレット曹長が笑いながら言う
「笑い事じゃないわよ、それに小隊ごと移動になるんだからあなただって他人事じゃないけど?」
と返すと
「はは…だよなぁ…」
と次第に笑いが溜息へと変わる。
アーク大尉の話で小隊に微妙な空気が流れる中、アーク大尉にエサをもらっているシリウスだけがやたら嬉しそうに尻尾を振るのだった。