16話
茜色の空に幾度となく銃声が響く、大きな穴の開いた外壁の修復作業はそれなりに頻度の多い魔物の襲撃によって遅々として進んでいなかった。
周囲の魔物が粗方片付いたところで少し休憩をはさむ、不意に目の前に缶コーヒーが飛んできた。
片手で缶コーヒーを掴み飛んできた方向を見るとアマレット曹長が立っていた。
「あんたも大変だな、隊長」
笑いながらコーヒーを飲むアマレット曹長、私もコーヒーをあけて一口飲む、鼻を通り抜けるコーヒーの香りに少しほっとする。
「流石に入って4日で大尉になるとは思わなかったよ」
そういって二人で笑っているとシリウスがすり寄ってくる。
たった数時間の訓練で自分のやるべきことを理解ししっかりと任務をこなしているあたり相当知能が高いのだろう、今日1日何度となく襲ってきた魔物の接近はすべてシリウスの警告によって事前に察知することが出来ている。
シリウスの頭を優しくなでてやると座っている私の太腿に頭をのせて休み始めた。
ミーゼル視点
「親指から順番に動かしてみて」
私はつい先ほどつけたばかりの義手の右腕を指示された通りに動かしていく
「違和感はないかな?」
私の目の前に立って機械を弄っているのは長身のハーフエルフの女性、一応研究者の中ではそれなりの地位にいるらしい、私の義手を作ったのもこの人でこれからもこの義手のメンテナンス等を担当してくれるとのことだ。
「はい、今のところは特に何も、強いて言えば少し反応が遅い気がしますけど」
「信号伝達用のナノマシンが仮の物だからそれはどうしようもないわねあと2,3日はそれで我慢してもらうことになると思うわ、さっきも言ったけど着けたばかりだからあんまり無茶すると腕の傷口が開くから気を付けてね」
「はい」
「それじゃあ今日のところはこれでおしまいかな」
「ありがとうございました」
「はいはい、それじゃあね」
サクヤの部屋と書かれたプレートの掛かった部屋を辞去する。
エレベーターに乗ったところで息を吐く、少し疲れたな…。
ぼーっと考えるのは養子の話、もう一度あの人たちと話してから考えよう。
結論をそれとなく先延ばしにしながら私はそれ以上考えることをやめて病室に帰った。
苹果視点
交代の時間になり別の隊と入れ替わりで基地に帰る。
シリウスは車の窓から顔を出すのが気に入ったようで窓側に座ったアマレット曹長の膝の上に乗って動こうとしない、重くないか?と思ったがアマレット曹長もうれしそうな顔をしているので問題はないだろう。
そのままシリウスの揺れる尻尾を眺めていると基地に着いた。
小隊員全員で夕食を取り解散した後、私と雛鳥はミーゼルの病室を訪ねることにした。
病室の扉をノックするとすぐに「どうぞ」と返ってきたので扉を開けて入る。
「調子はどう?」
「もう大丈夫です、今日は部屋がなかったから病室を使ってるだけですか…ひゃ⁉」
言い終わる前にシリウスがミーゼルに飛びつく
ミーゼルは驚いたようだが何とかシリウスを受け止めると優しく頭を撫で始めた。
そこでミーゼルの右腕が目に入る。
「その義手は?」
「これは、入隊を条件に軍が費用を負担してくれると言われたので」
「それで入隊したと」
「ええ、断る理由もありませんから」
「なるほど」
「それより今日はなにか用が?」
「いえ、時間があったから顔を見に来ただけよ、シリウスも喜ぶし」
「そうですか」
会話が途切れたところでシリウスが雛鳥の足元に戻ってくる。
「この子も満足したみたいだしそろそろ帰るわね」
「あ、あの」
部屋を出ようとしたところで引き止められる。
「なに?」
「どうして私を養子にしようと思ったんですか?」
「貴方が可愛いから」
「へ?…それだけですか?」
「それだけよ」
そう答えるとミーゼルは一人で考え込んでしまったので「また来るわ」と一言残して部屋を出た。
特にやることも無いのでそのまま雛鳥と別れると、自室に帰った。
自室のドアの前で違和感に気付く
「なんでついてきてるんだ?」
「ハッハッハッ」
シリウスは首をかしげる
「まぁいいか、大人しくしていろよ」
そう言って自室のドアを開けるとシリウスはベッドの横で伏せる、特に問題はなさそうなので気にせずシャワーを浴びて寝よう