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AppleStir  作者: んご
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14話

朝午前6時セットしていたアラームで目が覚める、アラームを止め服を着替えて基地内の訓練場に向かう。


あくびを噛み殺しながら、準備運動を終わらせて腕立てを始めたところで走り込みをしている雛鳥が目に入る。

フェンリルも一緒に走っているせいか遊んでいるようにも見えるのだが…フェンリルも1日でずいぶんと此処に馴染んだようで他の兵士も気にしている様子はない。


そんなことを考えながら腕立てを終え、腹筋をしようと訓練場の隅に設置してある鉄棒の所に行くとマイヤー准尉とアマレット軍曹がいた。


二人に話しかけると朝食を賭けて腹筋の回数を競うとのことだったのでなんとなく参加してみる。


鉄棒にぶら下がり膝をかけて腹筋を始めたところでマイヤー准尉を含めた周りの男たちがぼとぼとと鉄棒から落ちていった。


「ん?」


「苹果、胸隠せ胸」

笑いながら言うアマレット軍曹に指摘されて自分を見るとシャツが捲れて胸が…ってブラつけてくるの忘れてた!

「ひっ!」

私が逆さのまま胸を隠すとアマレット軍曹は堪え切れなくなったように吹き出し、周りの男共からは「あぁー」と残念そうな声、その中にマイヤー准尉の声が混ざっていたのを確かに聞いた私は准尉を睨んだ。


それを見たアマレット軍曹も

「マイヤー准尉の記録は1回だな」

と言う。


それを聞いたマイヤー准尉は

「おいおい、それはないだろ」

と言いながらも渋々引き下がった、私から目を逸らしながら。



「はぁ…」

逆さの状態のままシャツの端を結んで捲れないように固定して気を取り直して腹筋を再開する。



あれ?朝食はマイヤー准尉の奢りで確定としてこのまま続けてアマレット軍曹との勝負はどうなるのだろう。

腹筋を続けながら考えているとアマレット軍曹が腹筋を続けたまま声をかけてきた。

「朝食はマイヤー准尉の奢りになったけど、なにか賭ける?」


「んー、じゃあ昼食で」


「了解」



腹筋が90回を超えたところでアマレット軍曹の息が上がり始めた。

「あんた、これで平気な顔してるって…ふっ…どんな体してんのさ…ふっ」


「いや、これでも結構きついんだけど」



そんなことを言いながら腹筋を続けた結果。

アマレット軍曹は132回

私は170回を超えたところで降りた。


「あんたほんとどんな体してんの」


「ふつう?」


「いや、普通はそんな細い体形であんな回数出来ないから」

なんてアマレット軍曹に言われたのだがそれを言うと雛鳥なんてどうなるのか…。


ともかく朝食と昼食を勝ち取った私は上機嫌でアマレット軍曹とシャワールームに向かうのだった。




朝食を終えて雛鳥と合流した私は医療棟へと足を運んだ。

病室のドアをノックすると思ったより元気な声で

「どうぞ」

と返ってきたのでドアを開けて中に入る。


すると私が口を開く前に雛鳥の横にいたフェンリルがベッドの上の少女に飛びつく

「ひゃっ⁉」

飛びつかれた少女が驚いた声を上げたがフェンリルは気にした様子もなくぺろぺろと少女の顔中を舐める。


見かねた雛鳥がフェンリルを抱き上げてベッドの下におろす。

フェンリルが落ち着いたところで少女に話しかける。


「私は苹果、この人は雛鳥、記憶がないって聞いてるけど何か思い出せた?」


「いえ…」


「名前は?」


「たぶんですけど…ミーゼル」


「ミーゼル、まぁ今は記憶のことはいいわ今日は別の話があるから」


「別の話?」


「ええ、まずはこの子とはどこで出会ったの?」

私はフェンリルを指さす

少女は

「その白い犬は昨日街中で怪我しているのを見つけたんですけど…それが?」


「この子、犬じゃなくてフェンリルよ」


「へ?フェンリルってあの魔物のフェンリル?」


「ええ、だから少し気になったんだけど問題はなさそうね、とりあえずあなたが退院しても連れ帰ったりはできないけど、うちの隊で引き取るから会おうと思えば会えるわ」


「そうですか」

フェンリルの頭を優しくなでるミーゼル


「あとこの子の名前なんだけどあなたが決めてくれる?」


「名前ですか…」


「この子を拾ったのはあなただしね」


「シリウス…」


「大犬座の恒星の名前か…いい名前ね」


そういってたった今名前の決まったシリウスの頭を撫でてやると嬉しそうに尻尾を振った。


「今日はそのことを?」


「いいえ、あとはあなた自身の話なんだけど…両親のことは?」


「聞いてます、というより私が目を覚ましたときに見ましたから…」


「そう…、それでもしよかったら私たちの養子にならない?」


「え?」


「今すぐに答えを出さなくていいわ、このままでもあなたの生活は保証されるからこの話を受けても何が変わるというわけでもないでしょうし」


「わかりました」


「じゃあ私たちはこの辺で失礼するわ、なにか必要なものがあったら買ってくるけど?」


「いえ、特には」


「そう、じゃあ時間があるときにまた来るわ」


「はい」







ミーゼル視点



私は苹果さんと雛鳥さんが病室から去ったあと一人で頭を悩ませていた。

考えなければならないことはたくさんある、そのどれもに共通しているのは自分のことだが…さっきの二人は特に大きな爆弾を置いて行ってくれた。


このことを考えるには別のことから順番に考えていかなければならない、シリウスのことはあれがフェンリルだとは知らなかったけれどどういう扱いになるのかは前から聞いていたので特に驚きはなかった。



私自身のことの問題は欠損した右腕についての話、昨日この病室のベッドで目が覚めてすぐに持ちかけられた話が私の従軍を条件に最新の電筋義肢をメンテナンス費を含めて全額軍が負担してくれるというものだった。

細かい話は聞いてないが要は義肢の運用試験をするついでにそのままくれるということだろう…。

正直私には昨日以前の記憶がない、だから退院しても復学というのもあまり実感がなかったからある意味願ったりかなったりかもしれない。

ここまではそう悩むことではないかとも思う。


だが二人が置いていった爆弾はどう考えていいのかわからない、親がいなくなった私に保護者が必要というのはまぁ年齢的に仕方のないことだけれど、なぜあの二人がそんな提案をしたのか…。



どれだけ考えても結局私はその日養子の提案について結論を出すことはできなかった。






苹果視点



アマレット軍曹と雛鳥と三人で昼食を摂った後、シリウスの登録申請の手続きをするためシリウスを連れて研究棟へ行く途中雛鳥が尋ねてきた。

「そういえばどうしてあの子を養子にしようと思ったんですか?」


「言ってなかったっけ」


「言ってませんよ」

とぼけてみたらジト目で突っ込まれた。

「んー、だってあの子可愛いじゃない?」


「それだけですか」


「それだけよ」


話している間にサクヤの部屋の前に着く、ノックして部屋に入るとと丁度休憩中だったようでコーヒーを出された。

雛鳥と並んで出されたコーヒーを飲みながらシリウスの事を話すと数分ほどで申請書類の作成が終わる。

「これで明日には承認通知が来ると思うわ」


「ありがとう、それじゃあ私たちはここで」


「あ、ちょっと待って」

立ち上がろうとする私たちを止めるサクヤ

「帰る前に、貴方の刀完成してるから見ていって」


「え、もうできてるの?」


「まぁ試作段階だけどね、持ってくるわ」

そういってサクヤが持ってきたのは鞘に納まった指定通りの大きさの刀、渡された刀を鞘から抜くと緋色の刀身に目を奪われる。

「これ本当にタイタンの素材?」

タイタンの表皮は今目の前にある刀の刀身とは違いカーキ色だった為そう尋ねると

「あぁ、それは耐熱加工で表面を緋緋色金で覆ってあるからよ、壊れちゃったロングソードは熱で曲がっちゃってたしね」


「なるほど」


「早速試し切りする?」




そういうわけで前回と同じ性能試験室で試し切りをすることに


「今ターゲット出すからちょっと待ってて」

そういってモニタールームでサクヤがコンソールを操作すると目の前に3体の人形が床から生えてくる。


「ふー…」

呼吸を整えて腰に下げた刀の柄に手を触れる。


1度の踏み込みで距離を詰め刀を抜く、抜刀の勢いのまま振りぬいた刀はほとんど斬った感触を返すことなくターゲットの首を撥ね飛ばす。


そのまま首から上がなくなったターゲットを踏み台にして2体目のターゲットの真上に跳び上がる。

刀に魔力を通して2体目のターゲットを落下の勢いで斬り下ろす。

魔力を通した刃はさらに切れ味を増しターゲットを両断しても斬った感覚がなかった。

想像以上の切れ味に笑ってしまいそうになる。


3体目のターゲットの前で一度刀を鞘に戻すと呼吸を整える。

抜刀して振り抜くまで一瞬、刀を払って鞘に戻す。

納刀しても鍔鳴りが響くことはなく鯉口に緩みがない事が分かる。

納刀したままの刀でターゲットをトンと突くと上半分だけがバタンと床に落ちる。



「刀の出来はお気に召した?」


「ええ、時代が時代なら間違いなく国宝級だわ」


「調整は?」


「このままでいいわ」


「そう、素材も人工的に作れそうだから壊れたりしたら同じものを作れるわ、まぁそうそう壊れることなんてないと思うけど」


「じゃあもう一振り作ってもらえる?」


「2本使うの?」


「ええ、もともと私の使ってる剣術は二刀流の技が多いから」


「わかったわ、明後日までには作っておくわ」

そう言うとサクヤは仕事に戻るとのことなのでそのまま性能試験室で別れた。




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