11話
ゆっくりとこっちに近づいてくるタイタンを建物の陰から覗きながら考える。
光剣の刃ですら傷一つつかない岩の体、目であれば多少は効くかもしれない?
試してみる価値はあるだろう。
雛鳥に無線を飛ばす
「ガウスライフルは撃てるか?」
「残りの弾は5発バッテリーは3発分です」
「私がタイタンを振り向かせたら目を撃て、1発でいい」
「了解」
タイタンを一度見てから深呼吸。
4つ数えて息を吸う、4つ数えて息を吐く、2回繰り返して気持ちを落ち着かせる。
建物の陰から飛び出すとタイタンへ向けて走る。
突き出された拳を飛び越えその腕を踏台にしてタイタンの肩へ飛び乗る、逆側の手で叩き潰される前にそのままタイタンの背後に飛び降りて転がる。
私が転がった勢いのまま立ち上がって振り向いたのと同時に銃声が響いた。
タイタンがこちらに振り向きかけた状態のまま動きを止め…そのままこちらへ振り向く。
雛鳥に撃ち抜かれた左目は潰れているものの弾丸は眼球を貫通することすら出来なかったようだ。
「雛鳥、撤退しろ」
「ですが」
「鬼を出す」
「わかりました…時間稼ぎは?」
「必要ない」
「了解」
雛鳥に撤退を指示する。
私は?
光剣を抜き、タイタンを見据える。
タイタンが殴りかかってくるのと同時に私は正面へと走る、同時に詠唱。
「死と絶望が我が身を焼き尽くす!」
股下を光剣で斬りつけながら潜り抜けてそのまま後ろへ、光剣で切りつけた部位はやはり無傷。
「お前が死の苦しみを与えないならば」
姿勢を低くし足の指の付け根を軸に体の向きを変えつつハンドガンで牽制射撃、潰れた左目を狙うとさすがに目を庇う様に手を翳す仕草を見せる、そのまま向きを変えた方向に走る。
「そう、お前はもはや私の神ではない」
残った予備バッテリー二つをタイタンに向かって投げハンドガンで撃ち抜きながら走る方向を変える。
タイタンが爆風で怯むのを尻目にタイタンの下を潜り抜けたコースと平行に走り抜ける。
「復讐の神々よ、鬼の呪いを聞け!」
詠唱が完了と同時に立ち止まり動作詠唱が完了。
完成した式にありったけの魔力を流し込む。
術式の完成と同時に周囲に魔力が溢れ陽炎のように景色を歪ませる。
真っ黒に染めていた筈の私の髪は次第にその色を灰桜へと変えていく。
発動したのは草壁流陰陽術『羅刹』大量の魔力を消費して魂に封印した鬼の力を自身に宿す術だ。
陽炎のような魔力の塊は鬼火の形をとり私の周りを漂い、私の額からは魔力の角が生える。
ハンドガンと光剣から手を放しロングソードを構えると魔力の鬼火がロングソードを覆う様に集まる。
タイタンが体勢を立て直しドスドスと足音を響かせながら此方に向かって走り出す。
地面を砕き粉塵を巻き上げながら突進してくるタイタンを無拍子で躱し横を通り抜ける瞬間脇腹を撫でる様に斬る。
今までの弾かれるような金属質の音が響くことはなく空気の焼ける匂いだけが残り斬った箇所は岩のような表皮が溶岩の様にドロリと溶けそこから大量の血液が流れる。
直後に振り向きながら薙いでくる腕を体を倒すように躱し
(草薙流長剣術変型五ノ型ーー風車--)
その勢いのまま体をひねり回転し剣を振る。
肘のあたりから両断されたタイタンの腕が宙を舞う。
足を引いて体を起こし片手を地面につけそのまま滑るように回転を止め、残った左腕で叩き潰そうとしてくるのを横に転がって躱し立ち上がる。
そのまま地面を抉りながら横に薙いできた腕をバックステップで避け
(草薙流長剣術抜刀二ノ型ーー斬駆--)
着地すると同時に前傾姿勢で振り切ったタイタンの腕に突進、すれ違う瞬間に一閃。
今度はタイタンの左腕が宙を舞う。
「ゴアァアアアアアアアアアアアアアアアア!!」
両腕を失ったタイタンが憤怒の叫びを上げる。
タイタンの全身を魔力が覆い、力をためる様に身を屈める。
正面に見据えられた私も姿勢を低く構える。
(草薙流長剣術突進一ノ型ーー烈風--)
地面を砕き踏み込んだのは同時、互いに一歩目で眼前まで距離を詰める。
タイタンが私を潰そうとそのまま二歩目を踏み込む寸前
(混成接続ーー打上二ノ型ーー夜駆けーー)
地面を蹴ってタイタンを股下から斬り上げながらタイタンの頭上まで跳躍する。
地に足をつける寸前に斬り上げられたたらを踏むタイタンに落下
(草薙流長剣術落下一ノ型ーー落突--)
ロングソードを抱え込むような形でタイタンの脳天に落下の勢いのまま着地。
「グォオオオオオ!!」
叫び暴れるタイタンにロングソードを突き刺したまま振り落とされないように耐え、詠唱。
(草壁流陰陽術ーー火焔ーー)
「グアァアアアアアアアア!!」
内部を火炎で焼かれ口から火を噴きだしながら尚も暴れ続けるタイタン。
なかなかどうしてしぶといじゃないか
(草壁流陰陽術ーー火焔ーー)
さらに温度を上げてやると、全身から火が噴きあがり燃えだす。
「熱っ!!」
何とか熱気に耐え詠唱を続け
(草壁流陰陽術ーー火焔ーー)
さらに温度を上げたところで
(追唱ーー水克ーー)
体内に放つのは水…狙うのは?
そう、みんな大好き水蒸気爆発だ。
次の瞬間タイタンの全身が爆ぜる、爆発の衝撃をもろに受けて私自身も錐揉みしながら吹き飛ぶ。
あまりの大音響に音が消え耳鳴りがする…あぁ先に離脱するべきだったなこれ…。
そんなことを考えているうちに浮遊感は落下の感覚に変わり
「フガッ…いったた…」
無事墜落、起き上がると同時に羅刹を解くと魔力の鬼火と角は最初から存在しなかったかのように掻き消える。
だが灰桜に変わった髪の色だけはそのまま、それを確認して「はぁ…」と溜息を吐いたところで隊長から無線が入る。
「少尉、タイタンの撃破見事だった。先ほど要救護者と雛鳥少尉と合流した、そこから東に500mほどの場所の建物の屋上にいる」
「東…見えました」
「もうすぐヘリが迎えに来るそこで待機していろ」
「いえ、要救護者もいることですし急いだ方がいいでしょう、そっちに合流します」
「了解」
羅刹と先ほどの落下の衝撃で痛む体をさすりながら、よたよたと小隊員の元へと歩き出した。