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たった一人のヒーロー  作者: ちゅん
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31話-燃えるヒーロー協会-

 この世界で唯一鋼龍号だけが空を飛んでいる。

 跳んでいるのではなく飛んでいる、だ。

 高度としては俺でも跳んで届くから無敵ではない。

 しかしそれでもそのアドバンテージは大きいだろう。

 地形も、そして透明化により接敵の心配もほぼなく、速度は俺が走るよりも速い。

「今日の鋼龍号は機嫌がいいみたいだね」

「そうだな。適性があるって言っても地中暮らしは性に合わないんだろ」

「長かったですからね~、ほとんど一年」

「無駄話はここまでだ。着くぞ」

 モニターに湾岸が映った。ヒーロー協会までは後数分といったところだろう。


 港を越え、山を一つ越え、そして映りこんだ。

 それは燃えるヒーロー協会だった。

「どういう、こと?」

「まずい、あそこには転移装置と冷凍刑になってるならお爺さんもいるかもしれない。親父、降ろしてくれ」

「落ち着け、まずは状況を把握する」

 パネルを叩く音のすぐ後で、テレビ放送のモニターが増えた。

「ハッハー。ヴィランと通じていたヒーロー協会最高評議会の議員は全て捕らえた。安心してほしい」

「発覚からのスピード解決、さすがMr.ジャスティスですね!」

 モニターの中では、Mr.が昔から変わらない笑みで白い歯に光を浮かべていた。

「親父、複製体か?」

「Mr.の複製はまず無理だ」

 ならばProf.はMr.に一矢報いることなく敗れたということだ。

 それほどまでにブリリアント・ハートの効力は高いものなのだろうか。

「――行って来る」

「私も行くよ」

「いや、Mr.なら透明化してる鋼龍号にすら気づいて来るかもしれない。白藤はここにいて。お爺さんは絶対に連れて帰る。だから、待ってて。親父、俺を降ろしたらすぐに転回、Mr.から距離を取ってくれ」

「了解」

 久しぶりに見る。早よ行けの手振りだ。

「大地!」

「白藤、早くしないとお爺さんを探す時間がなくなるんだ」

「……帰って来てね?」

 当たり前だ。そう肯くと、今度は雫の視線に気づく。

「行ってらっしゃい」

「行ってきます」

 俺と雫はまだ昔の関係に戻れていない。

 親父が診てもまだ雫の記憶は戻っていないし、雫は白藤に遠慮してか俺と積極的に会話をしようとはしてくれない。


 艦橋から続く階段を下ると白い球体がいくつも並んでいる。

 その一つに手を触れると身体がそれに沈み込む。

 全身が包まれれば後は自動で運ばれていく。

 運ばれる先は鋼龍号の尾の先端だ。そしてそこから射出される。

 弾丸のように射出された白い球体は鋼龍号の卵にも見えるだろう。


 着弾。

 それと同時に球体はスライムのように弾け飛んだ。

 テレビクルーが吹き飛び、その悲鳴を耳に、目線はそれらを一瞬のうちに助け他のヒーローに預けたMr.に。

「テレビクルーが現界人だったらどうするつもりだったのかね?」

「どちらにせよ今みたいにあなたが守りますから」

「ハッハー、頼りにされてるね。それで、一年振りだね大地君、変わりないかね?」

「ええ。あなたも?」

「うむ、変わりないよ。それにしてもまずはヴィランからだと思っていたがね」

「あの程度ならいつでも潰せますから」

 Mr.は俯いたが、その口は笑みに歪んでいる。

 ヴィランの芽を受けるような男ではないだろうが。


「最高評議会に手を下すとは思いませんでした」

「ヴィランの芽に蝕まれている証拠が出たからね。ディテクティブ・マンが命を賭けて掴み取ってくれた」

「ヴィランの芽を受けた覚えは?」

「私という土壌では育たんよ。それにもう一つ根拠がある。一度ヴィランの芽を克服した人間にヴィランの芽は利かないよ。だからこそ私は大地君の相手をせねばなるまい。あの日、君はヴィランの芽を受けたのだろう?」

 ヴィランの芽の影響を受けているのなら同情の余地、というか何か手立てがMr.にはあるというのだろうか。

 Mr.の眼は爛々と輝いていた。

 それはきっと何かを誤魔化そうとしている。

「酷い傷を負ってますね」

「何、君と戦うのに支障はないよ。まったくタダヒロも人が悪い。あんな切札を持っている何てな」

「ヒーローが変身しないまま力を蓄える。それも何年もだなんて普通しませんよね」

「ああ、今思えば片目を瞑って数年生活していたこともあったよ」

 随分と、らしい。そう思えた。

 俺が笑うと、Mr.も笑う。


「お爺さんと転移装置を頂きに行きます」

「タダヒロは君を気に入っていた。君の馬鹿げた計画も手伝ってしまうかもしれない。だから渡せない。転移装置もあれはもうない方がいい。異世界人はもう現界人なんだ。だからあちらも渡せない」

「異世界人は異世界人ですよ。今もほら、あなたはヒーロー協会を燃やした」

「燃えたのだよ。タダヒロ、転移装置の件もあるから鎮火をしようとはしないが」

 価値観の違いを指摘してやるつもりはない。Mr.が見落としてる問題を教えてやるつもりも湧かなかった。

「お互い、わかりあえませんね」

「私と君はね。これで異世界人と現界人はわかりあえないとするのは些か傲慢が過ぎるのでは?」

 正論だ。わかっている。

 きっと俺が白藤たちに対して情があるように、誰かも異世界人に対して情があるだろう。

「時間がありません。行きます」

「タダヒロと装置を救いにかね? 行かせんよ」

 なら取るべき手段は一つだ。

「凝着。この身は怪しき者なり」

「百五十年前の続きをしよう。輝け、ブリリアント・ハート!」

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