30話-鋼龍号-
神峰島は今日も快晴だった。
ただヒーロー協会のある東京は今日も雨らしい。
「大地、行こ」
親父の改良した白いコスチュームから光の粒が生まれては消えていく。
一年が過ぎて、白藤はまた少し大人っぽくなった。
「うん。行こうか」
「街に戻るのは一年振りくらいだね~」
「そうだね」
最後に街に行ったのは親父の研究室を鋼龍号に移した時だ。
雫も白藤も本当なら街で学園生活を過ごして、おしゃれして、そんな日常を送っていたはずだった。
それなのに現実は世間から隠れ、能力を鍛える日々に追われ、今に至る。
「後悔、してる?」
「してるって言ったら大地は何してくれるのかな~?」
白藤がリボンを揺らしながら楽し気に言ってくれた。
バカだバカだと思いながらも俺はそのバカを繰り返す。
「大地は後悔してるの?」
「してない」
白藤やお爺さんを巻き込んだ癖に言える自分には反吐が出る。
「異世界人にはこの世界からいなくなってもらう」
「私とお爺ちゃんを除いて」
「うん、そうだよ」
他にもいい異世界人というのはいるかもしれない。
きっといる。だけど選んでいったらいくら時間があっても足りない。
「……行こっか」
ぱっと明るい顔を見せた白藤の背中には一年の修行を経ても抜けない桃道院白雪がある。
「うん、行こう」
藪に隠れた隠し扉を開いて、滑り込めばもうそこは鋼龍号の中だ。
「生体認証完了。艦橋へとご案内します」
部屋ごと移動する気配に白藤も初めは戸惑っていたが今はただ目を伏せ、黙すだけ。
「鋼龍号の守りを頼むよ」
「私も前線に出るよ。心配し過ぎだって」
「今の白藤なら重変身にだって負けないよ。だからこそみんなの帰る場所を守ってほしい」
「雫ちゃんもおじさんもいるんだから大丈夫だよ。それとも二人がそんなに心配?」
白藤を心配しているんじゃなくて、二人を心配しているのか、そう訊かれたのはわかる。
たぶん取り繕えば白藤はそれを受け入れてくれるだろう。でも。
「うん、ヴィランもヒーローもあの二人を狙うだろうからね」
「大地、私があの二人を人質に取ったらどうする?」
「許さないかな」
きっと全力で殺しに行く。
だけど白藤はそんなことはしないだろう。
白藤も二人を気に入ってるだろうし、白藤は性格上邪道を歩めない。
「ヴィランの芽を植えこまれたら?」
「引っこ抜くよ」
「間に合わなかったら?」
「親父に任せるしかないな」
「どうにも出来なかったら?」
「どうにか出来るようになるまでポッド行かな? ――戦うのが怖い?」
かつて仲間だった勢力と、かつての仲間がいる勢力との戦いが。
もっともヴィランに関しては仲間がいると思われる勢力だけど。
俺が三人を爆殺した日以降、三人の姿形をした存在には会っていない。
「艦橋に着きました。出口は右側です」
俺と白藤は左側へと足を進める。
「怖くないよ」
鋼龍号は身体の大半を機械化された龍だ。
異世界から迷い込み、死ぬ直前だったそいつをご先祖は手術したらしい。
だからこいつもある意味で怪人と言える。
全長50メートル、その体内に艦橋その他施設が存在している。
「来たか」
親父は黒装一味の首領だったご先祖の服を着ていた。
たぶん無駄にはなると思いつつ責任の所在を明確にしているのだろう。
「始めるぞ?」
どこからも異論は起こらなかった。
鋼龍号が地面を押し上げ、咆哮する。
すぐに空へと飛翔し、その目が捉える光景が艦橋のメインモニターに映った。
表面の鱗のいくつかが外れ、それが周囲に浮かぶ。
その分宙に浮かぶ映像が艦橋内に増えた。
親父は手元にある仮想パネルを何度か叩き、それから顔を上げる。
「目標神峰島、主砲発射」
最後にもう一度パネルに触れ、ご先祖の作り出した暗号を口にした。
はたから聞いていてもその意味はわからない。
モニターに、三十六の水晶が鋼龍号の口から放出されたのが映る。
「綺麗だね」
白藤の言う通り、それは日の光を反射し、輝いていて綺麗だ。
だけどご先祖が見栄を張るか親父がミスをしていない限りそれは。
水晶が神峰島の豊かな自然に触れたと思われた瞬間、大破壊を巻き起こした。
瞬間的に木々が灰も残さないほど燃え尽き、その炎が他の水晶を巻き込みさらに大きくなる。
空へと浮かんだ鋼龍号の、それも内部まで振動が伝わるほどのエネルギーが発生した。
そしてこの日、神峰島は消滅した。
これでまずは異世界人の持ち込んだ外来種が大幅に減ったこととなる。
「目標ヒーロー協会、全速前進」
親父がそう告げると、鋼龍号は再び空を駆けた。
30話まで着ました。
ここまでお付き合いくださっている読者の皆さま、ありがとうございます。
最近更新ペースが落ちていてすみません。反省の多い日々ですが、それでも書き続けますので最後までお付き合い頂ければ幸いです。




