28話-同窓-
「凝着」
身体に力が漲る。白藤を囲う絶壁を強く叩けばそれは容易く砕けた。
「白藤、行くならあんたももうお尋ね者だかんな。冷凍刑にされてるProf.も処刑されるだろうね」
「冷凍刑?」
止まるな白藤。とはもう言えなくなった。
本来白藤は俺たちと行くメリットがないんだ。
ただ、その好意に甘えて頼らせて貰っているだけだった。
選ばせてあげるのが、本来俺たちのするべきことだろう。
だけど、それを先延ばしにしたのは俺だ。
「もらった!」
水鏡の水の剣が俺の腕に迫る。
それを受け流した拍子にスーツの一部が切り裂かれた。
やっぱり相当力が上がっている。いつもの水鏡の剣ならこのスーツには傷一つ付かないはずだ。
「いよっしゃー」
マサトの拳もいつもより速く、そして重い。
スーツが軽くひび割れ、その攻撃力はMr.並かもしれなかった。
「この身は怪しき者なり」
スーツが開き、変形し装束となる。
「それが怪人化ってやつか。きったねえ恰好だな」
挑発は無駄だ。俺は親父の作り上げたこの姿が何よりもカッコいいことを知ってる。
「重変身よかマシだよ、華」
華の顔が歪む。
先に挑発してきたくせに随分と勝手な仕草だ。
「白藤、ここから先は好きにしてほしい。だからこれから言うことは俺の勝手な話。……俺は、お爺さんの孫にヴィランの芽なんか埋め込まれてほしくないよ」
守りたい人が増えたと思う。
初めは雫だけだった。戦闘能力を得た俺は親父も守れるようになって親父も守りたくなった。
異世界人は根絶しようと思ったのに、お爺さんと出会ってそれは変わる。
そのお爺さんの身内で、愛した孫なら、白藤だって守ろう。
装束の肩が開き、連節剣が伸びる。
念で自在に動くそれが水鏡とマサトに斬りかかった。
「たぶん、楽しかったよ」
一年の一学期末、マサトは三位だった。
『やるじゃねえか! 戦闘科目で負けたのは生まれて初めてだ!』
一年の二学期末、水鏡が三位だった。
『二期連続で上に行かれるとは思わなかった。それも二人にもだ』
「甘いんだよ!」
マサトの特異能力で生まれた爆風が連節剣を弾く。
背分を開き、念動機雷を向かわせた。
「無駄だ」
水鏡が水の壁を張り、機雷を濡らす。
腕を二人に向け、縄を発射。
「うげ」
「な、斬れないだと?」
元よりマサトに切断系の技はない。
水鏡の剣も弾力性に富んだこの縄は斬れるものではなかった。
縄で拘束した二人に腕を向けたまま、足の装束から伸ばした杭が地面に刺さる。
「だけど、俺はお前たちとはいられない」
電撃。
資料によるとジャスティス・ワンですら初見では感電したと言われている。
重変身していても、耐えきれるものではなかった。
二人分の倒れる音が、周囲に響く。
「ちっ、主席の座は顕在かよ。頭に来るくらい強えな」
「それで、華はどうするの?」
「私が引いたらそいつらどうするつもりだよ?」
「もちろん」
殺す。そう口にしようとして、雫が視界にはいった。
倒す。としか言っていない。たぶん、それは命までは奪わないということだと思っているだろう。
「――見逃すよ」
「はっ、とんだ甘ちゃんだな。海底都市のヴィラン共は全部殺した癖によ。ああ、手前の親父たちを誘拐しようとしたチームもか。なのに昔ちょっと知り合っただけのヒーローさまには手出し出来ませんかあ? マジでなめてんな手前」
「ヴィランは悪事を働くからでしょ。大地を悪者みたいに言わないで」
「庇わなくていいよ」
俺はヒーローだっていつか殺す。
もうこれ以上異世界人の誰かに心を許すことはない。
お爺さんと白藤。その二人だけが例外だ。
「白藤、行って」
どこにでも好きな方へ。
「わかった。それじゃあおじさんと雫ちゃんも連れて先行くね。あんまり待たせるようだと先に起動しちゃうからね!」
それでいいのかと尋ねる暇も与えてくれずに白藤は遺跡方面へと足を進めた。
思わず、白藤の背中に頭を下げる。
「ちっ、いいのかよ白藤!」
これで誰にも隠す必要がなくなった。
連節剣、念動機雷を宙に浮かす。
「華、悪いけどここで全部終わらせるよ」
「は、誰もいなくなったら速攻で殺すってか。大したタマだよ」
「どう思ってくれてもいいよ。俺はもう迷わない」
異世界人を滅ぼすと言いながら例外を作る。そんな勝手な存在だ。
誰に恨まれようと呪われようと構わない。全部切り捨てて俺は進む。
甘い夢を夢にしたのはお前たち異世界人だから。
連節剣が三人を貫き、縄でひとまとめにする。
そこに念動機雷が集束していく。
「げほっ、速――」
華の泣き言を最後まで耳にする前、起爆。
無数の爆発元が生んだ衝撃波は周囲の自然をも巻き込む。
舞い上がった土煙で三人がどうなったかは見えなかった。
腰の連節剣を走らせ、横凪にすると薄い膜をいくつか砕く気配がする。
「そう来ると思った」
肩の連節剣の内部に秘められたドリルを突きだし、おそらくあると思われるMr.の拳すら防いだ結晶へと穿つ。
それはあの日デパート内で耳にした音によく似て、様々な物が砕けるようだった。
「もう迷わないって決めたんだ」
右手から土の力で金属を生んだ。火の力で熱を加える。
左手から水の力で冷水を生んだ。風の力でそれをさらに冷やす。
金属も水も、それぞれの手から前方へと広がっていく。
それが三人のいる地点まで届いたところで、その金属と水を触れ合わせた。




