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たった一人のヒーロー  作者: ちゅん
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27話-神峰島-

 海は凪いでいて、走り易かった。

 ときおりイルカや魚が跳ねて、雫が驚嘆の声を上げている。

「二人とも、今の俺の姿が怖くない?」

「「何で?」」

 雫は記憶を失っているからいいとして、白藤のその物言いは少しだけおかしかった。

 前は泣いたくせに。とは言わないでおこう。

「しかし、まさか大地に背負われる日が来るとはな」

「白藤に親父をおんぶさせるわけにはいかないだろ」

「当たり前だろ、んなカッコ悪い真似がしたいって言ってんじゃねえよ。ただ、よくここまで育ったな」

「いつ死んでもおかしくなかったって? 親父のおかげだよ。気付薬もそうだし」

 そういうことじゃねえよ。そんなふうに背中側から聞こえた。

「見えて来たよ」

「待った、白藤。俺が先に行く」

 レーダーを前方方向に集中させた。

 なんとなく、何かがいる気がする。その勘は正しかった。

「マサトだ」

「重変身だっけ? それ使われたら私どうしたらいいかな?」

 移動中に白藤が知っておいた方がいいと思ったことは話してある。

 重変身の件もその一つだ。

 正直、重変身後のマサトたちは俺たちが知っている頃とは強さが段違いだった。

 白藤は勝てないだろう。

「俺が怪人化して即行で倒す。だから二人をお願い」

「うん、わかった」


 足元が海水から砂、土、草へと変わっていく。

 凝着を解き、藪を抜けたその先で煙がもくもくと上がっていた。

「うお、大地に白藤じゃねえか! そっちの二人は――忘れたわけじゃねえんだけどあれだ、よ、よう。久しぶりじゃねえか? 元気してたか?」

「たぶんマサトはあったことないんじゃない? 私も最近ご挨拶したばかりだし」

「だ、だよなー」

 口の周りに油を跳ねさせ、てかてかさせながらマサトが乾いた笑いを上げた。

「しょうがねえな、お近づきの印ってことで少しだけだぞ」

「いらないよ」

「こんなに美味いのにか!?」

「ねえ、大地。確かおかしくなってるって話じゃなかったっけ? どっからどうみても普通のマサトなんだけど?」

 確かにこれまで妙なところはない。

 だけどあの時会った二人は明らかにおかしかった。

「ねえマサト。俺たちを見て何か言うことないの?」

「ん? ああ! そう言えばヴィラン共の巣窟から逃げ出せたのか! お前らさすがだな! 助けられなくて悪かったな。これからはリ・ジャスティスさまが守ってくれるから安心しろよな。俺たちも付いてる」

 おかしいだろ? そう視線を送る。

 白藤は少しだけ目を細め、肯いた。

「マサト君だったかな、そのリ・ジャスティスは今どこに?」

「ああ、何か秘密基地だった海底都市がヴィランにぶっ壊されちまったから今新しいの作ってるぜ。くそ、あそこには何万ものヒーローが住んでいたのによ、許せねえ」

 ヒーローは、何万もいない。

 マサトの頭の中では単純にヒーローとヴィランの立場が入れ替わっているのか、それとももっと複雑なことになっているのか。

「マサト君、ヒーロー協会やMr.について何か知っていることはあるかな?」

「んあ? Mr.っていやあ――あれ?」

「そこまでにして貰えますか? バカにあまり難しいことを聞かないでください」

「ちょ水鏡、酷くね!?」

「事実だからな」

 オールバックに真鍮製の眼鏡。いつもヒーロー学園で見ていた水鏡だ。

「大地、白藤、二人ともよく無事だった。こないだは悪かったな、Sランクヴィランとはいえまさか俺たち二人が遅れを取るとは思わなかった」

 Prof.と戦った日のこと、だろうか。

「せっかくリ・ジャスティスから貰った重変身までしたのにね」

「まったくだ。おかげで随分絞られたよ」

 見やった親父が首肯した。

 重変身はリ・ジャスティスの技術で間違いない。

 だけどおかしいところもある。

「レディ・ジャスティスの力はオカルト的な医術だったと思うんだけど、よくそんな技術的なこと出来たよね」

「そうだな、しかし彼女はもうレディ・ジャスティスではないからな」

「水鏡らしくないね、その説明だとマサト並だよ?」

「むぐ、うう、無知を認めることも大事か。すまんな、俺も原理はよく知らないんだ。ところでお前たちよく俺たちの居場所がわかったな。喜ばしいことだから深くは問わんが、リ・ジャスティス様にお会いするか?」

 目的はご先祖の遺した空中要塞だ。

 だけどこのままこの二人を素通り出来るものだろうか。

 雫は何も考えてない。白藤は俺に任せてる。

 親父を見ると肩を竦めた。

「わかった、じゃあ案内しても――」

「白藤を残して殺せ」

 久しぶりに聞いたその声は、Mr.に向けたものと相違なく、冷たい刃物みたいだった。

 唐突に現れたその姿は、既に変身済みで黄色いコスチュームに身をつつんでいる。

「あ? なに言ってんだお前」

「バカに同意だ。どうした、華らしくもない」

「そいつらが海底都市を壊した犯人一味だ。昔私らが滅ぼし損ねた黒装一味っていう悪党共の子孫だ。それにこれはリ・ジャスティス様の命令でもある」

「……悪ぃな、大地。命令とあっちゃ仕方ねえ」

「そうか、お前が海底都市を」

 二人は怒気のようなものを見せて立ち上がる。

「「変身」」

 赤いコスチュームに青いコスチューム。

「ちょっと待って皆、なんで私たちが戦わなくちゃいけないの?」

「白藤、下がってろ。私はあんたまで殺したくない」

「華ちゃん!」

「無駄だよ、白藤。たぶん皆ヴィランの芽を埋め込まれてる」

「引っこ抜けばいいんだよ、ね?」

 白藤の瞳が揺れ始める。

 首を縦に振ってあげたいけど、それは出来ない。

「ヒーロー協会医術部の資料を見たことがある。彼らは初期状態であれば引っこ抜ける事実を知らなかったけど、のちにヴィランの芽を外科的手術で取り除いたことがあった。結果は、全患者が死亡した」

 親父が淡々と告げた。医者としての親父が話す時の声調だ。

「そん、な」

「白藤、お前はそこで大人しくしてろ」

 華の絶壁が白藤を拘束し、そして。

「「重変身」」

 マサトと水鏡のコスチュームがくすむ。


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