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たった一人のヒーロー  作者: ちゅん
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22話-過去・1-

「親父の誕生日プレゼント?」

「うん。お世話になってるから」

 たぶん親父は雫にいつもありがとう。とでも言って貰えればそれで満足しそうだ。

 だいたい親父は自分の欲しい物は自分で買ってる。

「いいけどさ、買う物決めてあんの?」

「うん、薬用養命万身酒。身体にいいんだって。おじさんいっつもお酒飲んでるから身体壊しちゃいそうだもん。同じお酒なら身体にいいお酒飲んでほしい」

「バカだなあ、俺たちはお使いでもお酒買えないんだぜ?」

「うん、知ってる。だから前にお買いものに行った時の委任状を取っといたんだ」

 委任状? 首を捻る。

「おじさんからお使いを頼まれましたっていう紙だよ」

「え、何それカッコいいじゃん」

 親父から頼まれごと何てされたことなかった。

 それさえあれば一人前? になった気分だ。親父は雫に甘いと思う。

「でもさ、金あんの?」

 そんなすごい酒、高いに違いない。

「うん、調べたもん。ずっと貯めてたんだ」

 雫が首からぶら下げたがま口財布の中には俺が見たこともない量のお金が入っていた。

 まさかのお札コンプリート。

 そして駄菓子屋で無双出来る五百円玉がいっぱい。

「ど、どこでこんな金を……」

「大ちゃん、私たちのお小遣いもの凄く多いんだよ?」

 言われてみれば他の奴らは駄菓子屋で箱買いなんてしてない。

 ということはもしかして俺は無駄遣いしているのだろうか。

 最近洗い物やふろ掃除なんかも雫ばかりがやっている気がする。

 最近覚えた穀潰しという言葉が頭をよぎった。

「一緒に買いに行くか」

「うん!」

「午前中は確かMr.ジャスティスが担当だから行くなら午前中かな」

 Mr.ジャスティスがパトロールしている時間を選んでわざわざ暴れるヴィランもいないだろう。

 いてもあっという間に捕まるだろうし。

「じゃあ行こ」

 学校でもこうやって笑ってれば俺以外の友達も出来るだろうに。


「~♪ ~♪」

「雫、手ぶらぶらさせるなよ」

 外を出掛ける時には手を離しちゃいけないことになっている。

 おかげでやたらとご機嫌な雫が俺の手を握ったままぶんぶん動かしていても口で文句を言うしかない。

「だって楽しいんだもん」

「必死に貯めた小遣い空っぽになるんだろ?」

「うん、でもいいんだ!」

 雫は親父のことがすごい好きだ。

 おかしくないけど。親父はすごくカッコいいからな。

 でも俺だって大きくなったら親父並にカッコよくなるはずだ。

 あそこまで頭よくなれるかはわかんないけど。

「ふ~ん、俺も親父のこと好きだけどそういうのはわっかんねーな」

 誕生日なんて、背中流してやるよ! で大喜びするような親父だ。

 わざわざ頑張って何かするような必要あるのかわからない。

「いいの!」

「文句はないって」

 握った手をぶらぶらさせるのには文句があるけど。

 止める気がなさそうだから仕方ない。

「あ、あそこ!」

「なんたら酒が売ってるとこ? げ、デパートじゃんか。子供だけで行っていいのか?」

 あそこはお菓子一つでも信じられないくらいお高い店だ。

 しかも案外美味くない。あそこのお菓子買うくらいなら駄菓子屋で大量買いした方が絶対賢い。

「大丈夫だよ、たぶん」

「おい、聞こえたぞ。最後たぶんって言っただろ」

 仕方がない。雫がダメって言われたら俺が何とかしよう。


 自動ドアを通って大人にいらっしゃいませって頭下げられて落ち着かない気分だ。

「何階?」

「催事場だから、八階」

「お前、催事場って漢字読めるのな」

 俺は読めるけど雫は成績そこまでよくないはずなんだけどな。

「読めるよ! 私だって大ちゃんと暮らすようになってから一年経ってるんだから」

 一年前雫のお父さんお母さんは亡くなってしまった。

 息子が生まれていたらキャッチボールをしてみたかったって言ってキャッチボールに付き合ってくれたおじさん。

 優しくていつ行ってもお菓子を作ってくれてたおばさん。

 ちょっと思い出しちゃってしんみりした。

「どうしたの?」

 雫が泣いてないのに俺が泣いていてどうするってもんだ。

「何でもねー」

「そう? うん、大丈夫だよ、大ちゃん」

「何がだよ?」

「何でもだよ!」

「あっそ」

 本当は雫がどういうつもりかなんてわかりきってる。

 それが的を射てるからこっちは気恥ずかしい。


 そんなこんなで八階まで上がった俺たちはすぐに目当ての物を見つけた。

 何やら毒々しい色をしたビンだ。親父が普段飲んでる酒のビンの方が遥かに綺麗だし健康そうに見える。

「なあ、本当にあれ買うの?」

「か、買うよ?」

 あれー? みたいな顔を雫はしてる。間抜けでちょっと可愛い。

 さておき決意が揺らぎきらない内に買った方がよさそうだ。

 これから別のプレゼントを探していたら遅くなっちゃうだろう。

「すみませーん、あれください」

「はい、かしこまりました」

 俺みたいな子供にもおばさんは丁寧にお辞儀をしてくれた。

 誕生日プレゼントだと伝えるとにこりと笑い、それから包み紙を取り出してくれる。

「あれ? 委任状出せって言われなかったな?」

「うん、あれ? おかしいなあ」

 見合って顔は斜め。

 まあ、いっか。

「あれ? 大地君に雫ちゃんじゃない?」

 いつもの学生服じゃない近所の姉ちゃんだ。

「こんにちは」

「たはは、雫ちゃんは相変わらず丁寧だね」

「俺だってちゃんと挨拶出来るぞ」

「そうだね、ごめんごめん。それより二人だけ? 海斗さんは?」

「親父の誕生日プレゼント買いに来たんだから親父がいるわけないだろー」

「これこれ、うーん、大地君は小生意気だねー」

 頭を掴んでぐるぐる回された。

 目が回りそうだ。

「や、やめれ」

 くすくすと、笑い声が聞こえてきて、それからおばさんが俺に親父のプレゼントを差し出した。

 雫を指差すと、おばさんは改めて雫にそれを渡してくれる。


 そしてその瞬間、大きな地震が起こった。

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