0話-スタート-
雨が降っていてよかった。
僕がどれだけ泣いても雨だからと言える。
「ごめん、ごめんね。私がもっとハイランクのヒーローだったら」
ヒーローが僕みたいな子供に土下座している。川みたいに雨が流れている地面に膝を着いて、おでこまで着けて。
謝らなくてもいいと思った。謝らなきゃいけないのはこの人じゃない。
この人は、この人だけが僕から見てもヒーローなのだから。
「謝らなくていい。あんたは、多分最後のヒーローだから」
僕の言葉は届いていないみたいだ。世界にたった一人のヒーローは真っ白だったコスチュームを汚したまま、ごめんねと言い続けている。
「謝るなよ! あんただけなんだよ、巻き込まれた雫を助けてくれようとしたのは!」
「でも、私は雫ちゃんを助けられてない」
「うるさい! 僕だって雫を守れてない、大事な幼馴染なのに、大好きな子なのに、守れ――」
雨が目に入った。息が苦しいのもきっとそのせいだ。
「大地、雫ちゃんの手術が終わったぞ。声を掛けてやれ」
親父が呼びに来た。でも怖い顔をしている。
「今行く」
病院の中は僕たちしかいないみたいに静かだった。
親父の背中はいつもより小さく見える。拳はぷるぷると震え、今にも壁を叩き壊しそうだ。
「声を掛けても起きないかもしれない。でも諦めずに声を掛け続けてやれ」
雫にたくさんのチューブが付いていて、あまりの不気味さに僕はまた泣けてきた。
不安だった。本当に声を掛けて起きてくれるのだろうか。
「雫、起きろよ。学校行くぞ。今日は雨だから無理だけど明日からまた隣の組の奴らと――」
ヒーローごっこをするぞとは言えなかった。
ヴィランとか言う銀行強盗みたいな悪いことする奴らは嫌いだ。でも、今はもうヒーローだと思っていたあいつらを好きだとも言えない。昨日まではあんなにカッコよく見えていたのに。今ではレディ・ジャスティス以外のヒーローは嫌いだ。
「親父、ご先祖の罰が当たったのかな?」
「雫ちゃんは関係ないだろ」
「だよなあ、なんで雫が巻き込まれなくちゃいけないんだよ」
親父が壁を強く叩いた。肩を大きく上下させて、荒い息を吐いている。
「親父、ご先祖は有名な悪い奴だったんだろ? なら俺もさ、悪い奴になってもいいだろ?」
「……すまない、大地」
親父だって悪いことはしてないじゃないか。
悪いのは、ヴィランだ。それから、自分がヒーローだ何て勘違いしているバカ野郎たちだ。
十話まで様子を見ます。人気が取れなさそうだったらエタります。上手くいきそうだったら連載します。