霧が晴れない
予定が狂ってしまった。まだ転生しきれてない。
ぱちり。
そんな擬音がお似合いなくらい、勢いよく目蓋を開いた。そう、ぱちり、と開いたのだ。私の目蓋が。なのに周りは濃い霧に包まれたかのようにボヤけて何も見えない。辺りから生活音らしき音だけ聞こえてきていて、不愉快極まりない。
もしかしたらこれが死後の世界なのだろうか。幽霊になってしまったのか。だとしたら、幽霊ってこんなに不自由な生活を送っていたなんて可哀想すぎる。今まで怖がっててごめんね、知らなかったの許してね。でもこれは、本当に不自由すぎる。なんだか声もうまく出せない。だけどなんか可愛らしい気がする。幽霊ってもうちょっと怖めな声じゃなかったのかな。死後の世界って難しいな。
それにしても眠い。どうしたんだろう。さっき幽霊として覚醒したばかりなのに、眠すぎる。せっかく開けた目蓋がくっつきそうだ。むむむ。ダメだ、眠い、覚醒に力を使いすぎたのかもしれない。人を怖がらせられる一人前の幽霊になるにはまだまだ時間がかかるのかも。ああ、眠い。寝てる間に彼がこちらに来てくれるだろうか。1人で幽霊なんて大変そうだし、なにより彼が一緒にいてくれたら幸せだ。
ダメだ、限界だ。寝よう。起きたら彼がいますように。一緒に一人前の幽霊になって、有名になりたいな。
おやすみなさい。待ってるね。愛してる。
転生はしたと思います。一応してるはず。ただ主人公が気付いてないだけ。主人公バカだから。だから幽霊。……どうしよう。ここから転生したって気づかせられる気がしない。