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Innocent-Prides (5)



 “王子さまはアッシェンプッテルを見うしなってしまい、どこに行ったかまったくわからなくなりました。アッシェンプッテルのお父さんがかえってくると、王子さまはこういいました。「いっしょにダンスをおどった、なぞのおひめさまがきえてしまったのです。たぶん、この洋なしの木の中にかくれているとおもうのですが。」

「もしかして、アッシェンプッテルが?」とお父さんはおもって、おのをもってきました。えいと木を切りたおしましたが、ひとのかげもかたちもありませんでした。

 みんながだいどころへ行くと、アッシェンプッテルはやっぱり灰の中でよこになっていました。

 どうやったというと、アッシェンプッテルは、木のはんたいがわからとびおりて、きれいなドレスをハシバミの木の鳥さんにかえしてから、灰色のちいさなワンピースにきがえた、というわけでした。”




 もしも斧を持ってくる父に気づき外にでた姉たちが、一番下の妹の姿を見ていたとしたら、どれだけ驚いたことでしょう。


「あの木、あの木が、あの子をお姫様にしていたのね」と。




【引用元】

 グリム兄弟作(大久保ゆう訳)・「アッシェンプッテル―灰かぶり姫のものがたり―」(青空文庫)・2014年4月3日最終更新・<http://www.aozora.gr.jp/cards/001091/files/46344_23172.html>・2015年8月28日訪問






---(5)---





 舞踏会もとうとう三日目。最終日を迎えました。


 今日も変わらず再び現れた妹――いいえ、"なぞ"のお姫さまの姿に、下のお姉さまは悪態をつきました。しかしその悪態を聞いた上のお姉さまは、それを諌め、静かに噂のお姫さまに近づきました。


 それは、お姫さまと直接話をしたかったわけではありません。そっとその豪華なドレスに触れるためです。持ってきていた「(べに)」を、その袖口に近づけたのです。それはこのお姫さまの正体を確実に知るための、おべんきょうが好きではないお姉さまなりの、頭を使ったくにくの策だったのでした。



「ねぇお姉さま?いったい何をしていたの?」


 紳士ふたりを横に、一番上のお姉さまを待っていた下のお姉さまが聞きます。また家に帰ったら教えてあげるわ、と言うと、上のお姉さまは今日は最後だからと言わんばかりに、踊り明けるのでした。








 今日も話題のお姫さまは、家路に急ぎます。今日は踊り明けようとしていた下のお姉さまは、そんなお姫さまがいなくなると同時に、上のお姉さままでいなくなってしまったことに驚きました。



「あら?お姉さまがどこかに居なくなってしまわれたわ」

「うーん、ではお嬢さん、君も帰ってしまうのかい?」


 素敵な舞踏会は今夜で最後。下のお姉さまはそれを残念に思い、そして惜しくなりました。ずっとこのような舞踏会に参加するためには、貴族にでもならなければいけないのですから。そこでふと、下のお姉さまは目の前の殿方に目を向けました。



「公爵さま?」

「ん?なんだい?」


 そう、下のお姉さまの美しさにほれ込んだのは、この国の王さまをお支えする公爵という、貴族の一人。今まで三日三晩踊り続けた彼の存在に、下のお姉さまは改めて神に感謝するのでした。


「公爵さまに出会えたこと、大変光栄に思います。神にも感謝いたしますわ」

「あぁ、君はなんて心優しく信心深い娘さんなのだろう」

「どうか公爵さま、わたくしを見つけてくださいませ」

「あぁ、もう行ってしまわれるのかい?」

「どうかわたくしを、迎えに来てくださいまし、公爵さま」






 上のお姉さまが帰ってしまわれたことで、下のお姉さまも帰らなければならなくなりました。だから下のお姉さまは最後に、と自分を見初めてくれた公爵さまに、それはとてもきれいな別れを済ませて、この舞踏会を去りました。












 その頃、すでに上のお姉さまはなぞのお姫さまに追いついていました。灰にまみれた服をまとった妹は台所にいましたが、上のお姉さまはそのきれいなドレスに灰が付くのも構わず、妹の左腕を持ちます。



「あら私のかわいい妹、この赤い紅はいったいどこでつけたの?」



 なんてかわいそうな妹でしょう、色の白い肌を更に青白くさせ、唇を震わせています。ひじについていた紅は、上のお姉さまがなぞのお姫さまの、ドレスの袖口につけたもので、急いで着替えたためにその紅は服の袖から彼女のひじについてしまったのでした。



「かわいい妹、私はね、昨晩見てしまったの。貴女が――木からボロボロの服を着て降りてくるところを」




 そう、二日目の夜は、王子さまがなぞのお姫さまを追いかけ、この家の近くまでやってきていたのです。夜なのに斧を取り出しているお父さまを見た上のお姉さまは、そっと裏庭に先回りしたところ、そこにあわてた様子の妹の姿を見たのでした。



「私や妹は、本当はあなたがあのお姫さまだということはわかっていたわ。でも、あの場所でそんなことを言ってしまっては私たちの家の恥になってしまう。そう思って、後で聞こうと思っていたの」

「お姉さま……」

「ねぇ、訳を話してちょうだい?あのドレスはどうやって手にいれたの?どうやってあなたは舞踏会へ?」

「お、お姉さま……慈悲深いお姉さま……どうか、お見逃しください。わたくしは決してお姉さまを差し置いて王子さまにお答えするつもりはございません。ただ一度だけ、あこがれた舞踏会に行きたかったのですっ」



 理由を尋ねているというのに、妹は答えようとしませんでした。そして妹はその目に涙をいっぱい浮かべ、こんがんします。




 上のお姉さまは、すぐにでもお母さまに告げぐちしてやろうと思っていましたが、そんな妹の涙に、その動きを止めました。なぜだか自分のやっていることが、とてもいじわるなことだと思い始めたのです。





「そんな顔をして、私を見ないで、かわいい妹……」




 嫉妬に狂ったわるいお姉さまの心が、一瞬だけ純粋で少しだけおべんきょうが苦手な優しいお姉さまのものになりました。お姉さまはくるりと背を向けると、何も見なかったといわんばかりに、お部屋に戻っていかれました。













 下のお姉さまが帰ってきて、上のお姉さまがいったい妹に何をしたのかを尋ねましたが、上のお姉さまは寝たふりをして、何も答えてはくれません。



「お姉さま、いったい何があったって言うんですの?」

「……いいのよ」

「でも、あの子憎たらしい妹ちゃんを、厄介払いできる機会ではありませんか」

「あの子は」

「お姉、さま?」

「あの子はいつも、笑っていたわ。なのに、あの時だけ……涙を見せたのよ。私たちはいつもいつも、あの子に世話ばかりさせて、あの子があこがれている舞踏会にすら、連れて行ってあげられなかったのに……」



 美しく純粋な妹の涙は、嫉妬の吹雪で凍ってしまったはずの上のお姉さまの心を溶かしたのです。そんなことを知らない下のお姉さまでしたが、彼女は彼女で、いまだに公爵さまのあのお姿を忘れられずにいたのでした。









 下のお姉さまはただ一心に公爵さまを。

 上のお姉さまはただただ、今までの自身の卑劣な態度に。


 それぞれがそれぞれの心を抱えながら、夜はしっとりとふけていきました。






お久しぶりです。

たまご(someone's egg)改め、むあでございます。


今後の予定としまして、しばらくは週1以上の更新で、こちらのInnocent-Pridesを完結させ、その後はまたしばらく、プロットを練るため更新をストップさせます。一段落する時点で一度完結とさせていただきまして、その後再び更新させていただくような形で参りますのでよろしくお願いします。


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