Innocent-Prides (3)
この言葉を聞いているのは動物たちだけ。
"「やさしいハトさん、スズメさん、おそらにいる鳥さんたち、みんなきて、わたしがまめをひろうのを、てつだって。
いいものは、はちの中へ、
ダメなのは、たべちゃって。」"
幸せな気分でお城に向かっているお姉さまたちは、なーんにも知りません。
【引用元(""内)】
グリム兄弟作(大久保ゆう訳)・「アッシェンプッテル―灰かぶり姫のものがたり―」(青空文庫)・2014年4月3日最終更新・<http://www.aozora.gr.jp/cards/001091/files/46344_23172.html>・2014年12月10日訪問
――3――
ある朝上のお姉さまは裏庭で誰かが「くすんくすん」とすすり泣く声を聞いて戸口に向かいました。台所で寝起きする妹の姿が見えなかったので、お茶が飲めなかったのです。そっと裏の戸口から覗けば、地面に座り込んで泣く妹の姿が木の陰に見えました。
心の中は少しだけ痛みました。いつもひねくれた言葉ばかりしかかけないというのに、妹はいつも笑っていたからです。彼女にも当然心はあります――上のお姉さまにも、そして美しい妹にも。
お父さまから豪華なドレスや宝石をいただいてから随分と経っていましたが、妹のもらった小枝はすくすくと育って木になっていたので、彼女の顔はよく見えませんでした。それでも心が辛くなったので、そっと顔をそむけます。
お茶を頼むのも忍びなくなり、部屋に戻ろうとすると、興奮ぎみに声をかけてきたのは下のお姉さま。白い封筒を持ってこう言いました。
「王様がパーティーを開くんだそうよ!」
「まぁ!それは一体どうしてなの?」
「若い娘は皆招待されていて、王子様の花嫁が選ばれるんだそうなの、お姉さま」
「それは素敵!さっそく準備をいたしましょう」
小さいころからお母さまはいつも言っていました。いつかお姉さまたちのどちらかは王子様と結婚するのだと。その夢がかなう日がとうとうやってきたのですから、喜ばずにはいられません!
上のお姉さまは先ほどまでの考えごとなどあっという間に頭の中から抜けてしまい、台所から姿を現した妹に用意を手伝うように言いつけるのでした。
「灰を被った哀れな「妹ちゃん」一体どこにいるの!?」
「お姉さま、こちらにいます」
「良かったわ、私たちお城のパーティーに行くから手伝って」
「髪をゆって、靴にブラシをかけて、こしおびもしめて欲しいわ」
「おしろいも忘れずに、あ、香水はどこにあったかしら」
「……はい、お姉さま方」
妹は何か言いたそうでしたが、"うちょうてん"になっているお姉さまたちは何も見えませんし聞こえません。ドレスはどれがいいかしら、あのネックレスがいいわと大騒ぎをしながらクローゼットに飛び込みました。
そしてすぐにお母さまの怒声が聞こえ部屋から飛び出せば、そこには涙をこぼす妹の姿と、それを詰るお母さまの姿があったのでした。
「あんたなんか靴もドレスも宝石もないのに、そんなみっともない格好でパーティーにいけるわけがないだろうよ!」
「でも……」
お姉さまたちがいることに気がついた妹は、一瞬下のお姉さまを見ました。かつては彼女が可哀想な妹にドレスを貸していたのです。でももう下のお姉さまがそんな妹にドレスを貸すことはありません。代わりにふん、と鼻を鳴らして、香水を振りまきながらクローゼットの中に戻ってしまいました。残った上のお姉さまも、妹に腰帯を結んでもらい、あとはいいわ、とクローゼットの中へ。
2人はこそこそとクローゼットの中で言いあいました。
「もしも妹がいったら、王子様は私たちを見てくれないのよ」
「すごく癪ではあるけれど、あの子は見た目はとても綺麗だし、親切だものね」
「少しくらいお城のお料理を持ち帰ってきてあげようかしら」
「そうね、でもドレスだけは貸せないわ!あの子にはこの家にいてもらって、私かお姉さまのどちらかが王子様に選ばれなければいけないんですから!」
「いってくるわね」
「いってきます」
「いってらっしゃいませ、お姉さま方」
お迎えの馬車の時間になって、お姉さまたちは馬車に乗り込みます。その馬車が進み始めた時、窓の外に白い鳩たちが見えました。数がとても多かったので下のお姉さまは「気味が悪い」と嫌がりました。
「まぁ、ただの鳩じゃない」
「でも白ばかりが私たちの家に向かっていくわ」
「いいじゃない」
鳩を気にしない上のお姉さまは言いました。
「鳩なんて、地面に落ちたおまめを啄ばむだけしかできない鳥なんだから!」
3話目まで勢いで投稿しました。7件のブックマークに気分が舞いあがってしまったからです。でももう本当にストックはないですし、丁寧にお姉さまたちの心を描きたいので、白雪姫のお妃さまのお話よりも少し長めの、全10話以内でおさめる予定です。残り、長くても7話、お付き合いいただければと思います。
たまご(Someone's Egg)