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Innocent-Prides (2)

 お姉さまたちは笑います。



 "まっていたのは、つらいしごとのれんぞくでした。おひさまが顔を出すまえにめをさまして、水くみ、かまどのたきつけ、ごはんづくり、皿あらい。それだけではありませんでした。ふたりの姉は、少女をいろいろいじめたあげく、わらいものにしました。"  


 でもその笑いの裏には、比べられることに対する悲しみの顔を隠していたかもしれません。



【引用元(""内)】

 グリム兄弟作(大久保ゆう訳)・「アッシェンプッテル―灰かぶり姫のものがたり―」(青空文庫)・2014年4月3日最終更新・<http://www.aozora.gr.jp/cards/001091/files/46344_23172.html>・2014年12月10日訪問


 ――2――





 お母様とお姉さまたちがだんなさまの家に越してきてしばらくすると、今までお姉さまたちの新しいドレスを見ては褒めていた娘たちも、彼女たちをいつもデートに誘っていた青年たちも妹ちゃんと彼女たちを比べるようになりました。


勿論お姉さまたちも、困った方がいれば手を差し伸べましたし、ドレスやアクセサリーを褒めてくれる娘たちや贈り物をしてくれる殿方には丁寧にお礼を言いました。それでも何かと「妹ちゃんはこうだ」とか、「妹ちゃんならああだ」とか、そんなことを言われ続けてはたまったものではありません。しばらくすると、殿方もお姉さまたちを外に誘うことは少なくなり、彼女たちは家の中にいることが多くなりました。




「お姉さま方、今日もお出かけなさらないのですか?」

「殿方たちもお忙しいのよ」

「そうよ、私たちも今日は家で勉強するの」


 ただでさえ「妹ちゃん」の話で嫌な気分になっているというのに、妹はボロボロのワンピースを着て毎日こんなことを聞くのです。最初はそんな可哀想な妹にドレスを貸してあげていた下のお姉さまも、なんだかそれに腹がたってつんとそっぽを向いてしまいました。可哀想な妹に午後のおやつを分けてあげていた上のお姉さまもついつい同じことをしてしまいます。すると妹はそんなお姉さまたちに怒るわけでも悲しげに笑うので、2人はますます腹が立ちました。


「なんでいつもヘラヘラ笑っているの?」

「誰にでもいい顔をして、なによ!」

「私はただ、亡くなったお母さまからの言いつけを守っているだけですわ」

「それにしてもいつもいつも近所の人は貴女の話ばかり!」

「そうよ、私たちは貴女のようにこれができないあれができないって、なんだか馬鹿にされているみたい!」


 欲しいものを正直に欲しいということはいけないことでしょうか。

 小さな花の贈り物も嬉しいけれど、やっぱり髪飾りを送られたり、豪華な花束を貰えばもっと嬉しいのです。

 お姉さまたちがそう言いあっていると、妹は何かを言いたそうにしながら、首をかしげていました。


「何か言いたい事でもあるの?」

「いいえ何も、お姉さま……」


 まるで何かを知っているような妹の口ぶりは、彼女と比べられて苛立っているお姉さまたちをますます苛立たせます。もう2度とドレスなんて貸してあげるものか、と下のお姉さまは思いましたし、もう内緒で午後のおやつをあげたりなんてするものかと、上のお姉さまは決めたのでした。

 







 ある日夕ご飯を食べている時にお父さまが言いました。


「今度遠くの街でお祭りがあるから行ってくるのだが、娘たち、一体何が欲しいのかな?」


 真っ先に聞かれたお姉さまたちは嬉しそうに答えます。お母さまもそんな娘たちを見ながらゆったりと微笑んでいました。


「私は綺麗なドレスが欲しいの!」

「私は真珠と……とにかくたくさんの宝石が欲しい!」


 最後に妹がこう答えます。


「私は、どんなものでもかまいません。お祭りの帰り道……お父さまのお帽子に引っかかった小枝でかまいません」

「本当は貴女だって欲しいでしょ?どうして言わないの」

「何小枝だなんてそこらじゅうに落ちているじゃないの」

「……私は飢えている子供たちがそこらじゅうに居るのに、豪華な宝石など要りません」



 遠慮をする妹を、お父さまは優しげな顔をして抱きしめます。お姉さまたちはお父さまのいる手前、何も言わずに笑っていましたが、心の中では腹が立って仕方がありません。


「お前は本当に欲のない心清らかな娘だ」





 下のお姉さまも上のお姉さまも、そんなお父さまの言葉はまるで、自分たちは欲張りで心の汚い娘と言われているような気がして悲しくなりました。何も言わずに席を立って、お姉さまたちはそのまま眠ってしまったのです。するとそんな実の娘の姿を見たお母さまは、義理の娘である妹をますますひどくいじめるようになりました。





 お姉さまたちは妹のこぼす涙と悲しそうな笑みが、自分たちをますます意地の悪い娘だと言わんばかりに見えたので、見ないふりをするようになりました。それからというものお姉さまたちは、よくないとは思いつつ、次第に心の底では床に這いつくばって灰まみれになる妹を笑うようになったのです。



 "ぎぜん"の言葉ばかりで、私達と比べられて「良い子だ」と言われることが、妹の楽しみなのだと、お姉さまたちはいつしかそう思うようになり、その思いを疑うこともなくなりました。





 お姉さまたちの気持ち、私はよくわかります。

 偽善――は本当に心清らかだったとしても、周りからはそう見えてしまうこともあるでしょうし、誰もが綺麗な(もの)しか持っていないとしたら、世の中に悪役とヒーローヒロインの分かれる物語など存在しないでしょうから。

 お読みいただきとても光栄です。


 たまご(Someone's egg)


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