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Innocent-Prides (1)


 ――これはこれは、皆さまの知る、シンデレラこと「灰かぶり」の物語――



 " やがてゆきがふり、あたりいちめんまっ白になって、おはかも銀いろにおけしょうをしました。でも、もうすぐ、はるがやってくるというころに、おひさまのひかりで、みんなとけてしまいました。ちょうどそんなときでした、お父さんはべつの女のひとと、けっこんしてしまったのです。この女のひとは、じぶんのむすめをふたり、いえにつれてきました。さんにんとも、みためはとてもきれいでしたが、こころはまっ黒だったのです。

 かわいそうに、少女にとっては、つらい日々のはじまりだったのです。"


【引用元】

 

 グリム兄弟作(大久保ゆう訳)・「アッシェンプッテル―灰かぶり姫のものがたり―」(青空文庫)・2014年4月3日最終更新・<http://www.aozora.gr.jp/cards/001091/files/46344_23172.html>・2014年12月10日訪問




――0――



 Once Upon a Time, (それは昔)

 There lived a rich man with beautiful wife and daughter. (美しい妻と娘のいる金持ちの男がいました)





 だんなさまはそれは美しい奥さまと娘を愛していましたし、奥さまと娘もそんなだんなさまを愛しておりました。

 しかしある日、美しい奥さまは病にかかり、日に日に弱っていきます。だんなさまと娘の必死の看病もむなしく、奥さまは天に召されていきました。もうながくはないと奥さまは思った時、娘を呼んでこういいました。


「どうかいつまでも思いやりのある優しい子でいるんですよ。私はそんな貴女を空の上からずっと、見守っていますからね」


 母である奥さまが天に召された後、娘は庭のお墓で泣きました。来る日も来る日も、お母さまが恋しくなって泣いていました。それでも娘は亡くなった彼女の言いつけを守り、いつでも誰でも親切で、素敵な笑みを絶やしませんでした。そんな彼女は皆からも好かれていましたし、娘も皆のことが大好きだったのです。


 時が経ち、だんなさまはある日こう言いました。


「私の娘よ、新しい母さまがやってくるから、彼女の言いつけをよく守り、良い子にするんだよ」

「はい、お父さま」


 娘は大好きなお父さまの幸せを誰よりも祝福しました。美しい2人のお姉さまもできるのだと聞き、彼女は飛び上がって喜んだのでした。ずっとほしかったお姉さまが一度に2人もできるんです、どうすれば彼女は落ち着いていられるのでしょう!


 しかし、それは彼女にとって、辛い日々の始まりでした。







 ――1――





 それは昔あるところに、早くにお父さまを亡くした娘が2人いました。上の娘も下の娘も、それはそれは美しい少女で、そんな彼女のお母さまはいつも2人を自慢の娘とほめたたえていました。いつかは必ずどちらかの娘が王子さまに嫁ぐものと信じていましたし、娘たちもそうなることを夢見ていました。



 まもなく春がやってくるある日、2人のお母さまはお金持ちのだんなさまと再婚することになりました。長い間お父さまがいなかった娘たちはそれはそれは喜びました。そしてお母さまは更にこんなことをいうのです。


「お前たちに妹ができるよ」

「聞きましたかお姉さま、私たちに妹ができるんですって!」

「そうよ、私たちにお父さまと妹ができるのよ。なんということでしょう!」



 娘たちはそれはそれは楽しみに、お母さまの後について、だんなさまの家にやってきたのでした。もちろんお姉さまとなった2人の娘もそれはそれは美しかったのですが、だんなさまの家にいた義理の妹は、もっと清らかで美しい娘でした。2人は妹が美しいことに喜びましたが、少しだけ羨ましくも思うのでした。


「お姉さま方、ようこそお越しくださいました」

「まぁなんて可愛らしい妹なのかしら」

「ぜひ仲良くしてね」

「はい」


 お姉さまたちは妹がとてもかわいらしく笑ったので、一目見るなり大好きになりました。そしてこれからはこんな可愛らしい妹と、優しいお父さまと暮らすことができるのだと嬉しくなりました。





 しかし、お母さまは義理の娘である妹にとても辛くあたるのです。


「一体いつまで寝ているの!そんな怠けている娘にご飯などあるものですか! 皿洗いくらいしてもらいたいものだ」

「……はい継母(おかあ)さま……」



 そしてその度にお姉さまたちにこう言いました。


「私の美しい娘たち、あんな小汚い娘など放っておきなさい。貴女方はお外に行って素敵な殿方とお話をしていればいいのです」と。


 お姉さまたちはあまり勉強が好きではありませんでしたから、外に行ってもいいとお許しがでたとたん大喜びで出て行きました。そしてすっかり可哀想な妹の事など頭からおいだしてしまったのです。











「君たちはとても良い妹を持ったものだよ」


 外に行けばお姉さまたちはあっという間に人気者になれました。妹が今までとても親切にしてきたので、近所の人は皆妹が大好きでしたから、彼女の姉であるお姉さまたちもすぐに好きになってくれたのです。そして2人が綺麗なドレスを着て外を歩いていれば、いつも近所の娘たちはそれを褒めたのでした。


「可愛い妹ちゃんのお姉さまたちは、いつも綺麗なおめしものね」

「私もあんな風に美しくありたいわ!」


 近所の青年たちも、美しいお姉さまたちに今日は湖に遊びに行こう、明日は草原にと誘いました。お姉さまたちはそんなお誘いにあっという間に舞いあがってしまって、家に帰ればその話を妹にするのでした。







「ねぇ妹ったら! 今日はお隣の殿方に街で買ってきた髪飾りを頂いたの、どうかしら?」

「私はお向かいのお兄さまから森に行こうと誘われたわ!」

「お姉さま方、それはなんて素敵なことでしょう……私も嬉しく思います」



 しかし妹の顔色はなんだか優れません。それはそのはずです。お姉さまたちは知らないのですが、今では彼女はぼろぼろのワンピースを着て、まるで召使いのような仕事をお母さまから命じられているのですから。妹は心配するお姉さまたちに何もありませんと言って微笑むので、お姉さまたちはまた自分の明日のお召しものを考えるのにいっぱいいっぱいになるのでした。



「今日は森に行ってくるわ!」

「私は街に行って新しいお帽子を見てくるの」


 そう言って出かけていくお姉さまたちは、毎日がとても幸せでした。













 そんなある日、下のお姉さまはお向かいに住むお兄さまからこんな話を聞かされました。


「妹ちゃんは僕がどんな贈り物をあげても喜んでくれるんだ」

「まぁ、それはどういうものなんですか?」

「森の中に生えていた小さな花をプレゼントしたけれど、それはそれはとても喜んでくれたよ」

「まぁそれはとても小さなプレゼントね!」

「でも僕はそういう妹ちゃんがとても好きなんだ!」


 下のお姉さまはそういうお兄さまを見て笑ってしまいました。なんて小さなプレゼントだろう、と。上のお姉さまも下のお姉さまも、そんなちっぽけで粗末な贈り物など、貰ったことはなかったのです。するとお兄さまは残念そうに言いました。



「妹ちゃんは心もとても清らかな、美しい娘さんなんだ。近頃は見かけないけれど元気にしているのかな?」

「……そうなのね」

「でも君もとても美しい娘さんだから、皆が好きになるのは当然だよ」


 下のお姉さまは、自分が一緒にいるのに妹の話ばかりをするお兄さまを嫌いになってしまいました。

 その夜、家に帰って上のお姉さまにそれを言えば、彼女もこんなことがあったと話しをしました。


「お隣の殿方もね、こんなことを言うの。妹ちゃんは"欲張り"を言わないし、いつも皆に親切な"器量よし"だって!」

「まぁ! まるで私たちが"欲張り"で"不親切"みたいな言い方ね」

「いやになっちゃうわ」

「まったくね」


 次第にお姉さまたちは、いつも近所の人の口から洩れる「妹ちゃん」の言葉が嫌になってしまうのでした。



 こんばんは、たまごです。

 今回からは少しずつ「シンデレラの姉2人」視点で物語を進めていきたいと思います。一作目「白雪姫のお妃さま」視点の物語とは違い、まだ全てを書き終わらずに投稿していますので、続きはもうしばらくお待ちください。


 お妃さまのお話は綺麗な終わりに仕上げられたと思います。

 今回は小悪党のようないじわるなお姉さま2人、どのような結末を迎えることになるのか。その目で是非確かめていただきたいと思います。


 感想をくださいました方、また評価、ブクマをしてくださった方にはただただ感謝でございます。期待に添えるよう、少しでも皆様の心に何かを訴えかけられるような"悪役の物語"を紡がせていただきたいと思います。


たまご(Someone's Egg)



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