初夜。自宅。
その後、家に帰って時間を確認したら、既に午前2時を回っていて、両親は寝ていたが、キッチンには晩御飯が用意されていた。
ご飯に掛けられたラップの上に、お疲れ様と書かれたメモがあり、連絡の一つも入れて無かった事に気が付く。遅くまで母さんは待っていてくれたのだろうか? 申し訳ない。
おひつからご飯を注いで、リビングでご飯を食べていると、後ろのドアからヒョロっと顔を出した人が居た。
「帰ったんだ」
「ああ、遅くなったよ」
姉さんだった。俺よりも3つ上で大学生2年生。高校生までは真面目だったのだが、大学に入ってから、お酒の味を知って、よく飲み歩いている。弟の俺が言うのもなんだけど、中々可愛らしい顔立ちと、可愛らしくない女らしい身体なので、夜中に飲み歩きは止してほしい所だけど、もう姉は二十歳だし言えなくてヤキモキしたりする。
「柔道部ってこんな遅くまでやってるの? そんな訳ないって事は何かしらね。子供には早い事でもしてたのかしら」
「姉さんもこんな時間まで良く起きてたな。明日早いんじゃないの?」
「代返してくれる子いるからへーき」
そう言ってキッチンからウイスキーを持ってきて、グラスに注いでいた。足を組んでウイスキーが入ったグラスを手の中で転がしてる姿はなんかアンバランスでおかしかった。
「微妙に似合わないな」
「私の童顔は恰好つかないから使いどころが難しいのよね」
そう言って足を組むのは止めてグラスを両手で持ち、チビチビと飲むようにしてた。多分これが素なんだろうけど。
「そっちのが良いよ。売れないキャバ嬢みたいな、哀愁があって」
「そうねー。キャバ顔だったらそういう仕事もやって見たいとは思うけどさ。なんか煩わしいとおもうから却下」
「やるなら言ってよ。遊びに行くから」
「私の事指名してくれるってか」
「いや、ヘルプでお願い」
「弟がほかの女とイチャイチャする手伝いさせる気!?」
「いや、姉さんとイチャイチャするのもおかしいだろ」
うん、というか姉さんと話すなら家でもできるし。わざわざ高いお金を払うなら、他の綺麗な子とイチャイチャしたいし。
「私と惚れさせ合いゲームとかしようよぉ」
「しねぇよ!」
「ポッキーゲームとかする?」
「なんで二人で合コンみたいな事しなきゃいけないんだよ!」
合コンした事ないけどさ。
「ポッキーゲームってさ、丸を点にしたらいいよね」
「姉からの下ネタは心に刺さるからやめろよ!!」
確かに男は反応しちゃうかもしれないけどさ。……そういうドキドキって男だけが味わう物なのかな? 大学生になったら普通に出来るのかな? 相手は選べるのかな?
「まぁ冗談はほどほどにするとして、あんた柔道部やめなさい」
「え、なんで? 話飛びすぎじゃないか」
酔ってる時の姉の話は良く飛ぶ、酔っ払いを構うのは面白いからいいけどさ。
「私の弟だけあって顔も良いんだし、サッカー部とかだったら女が寄りつくじゃない。大学に入る前に女慣れしとかないと秋になっちゃうわよ」
「まだ2年だからなぁ…。っていうか何で秋?」
「葉が落ちる時期になるともう彼女作れないって言う迷信。でも案外そうなのよ。人間関係とかでね」
なんか実感こもってるのが嫌だよ。
「姉さんに彼氏が居ないのを他の所為にするなよ」
「さすがに二十歳で処女で趣味がお酒って嫌じゃない。さっさと捨ててしまうのも有りっちゃ有りだと思うのよね」
そんな物なのかね。別に男からしたら処女もらえたら嬉しいと思うけど。なんか自分専用みたいな感じで。これって女の人からしたら侮辱なのかな?
「別に良いと思うけど。ただ彼氏が出来たら認めないけど」
「心せまいな。弟よ」
いや、弟なんて皆そんな物じゃないの? 別に近親相姦の気はないけどさ。やっぱ嫌な気分? 寂しい気持ちになるのは普通でしょ。
「シスコンは程々にしないと女の子に気持ち悪がられるわよ」
「ブラコンは男から好感触だから卑怯だよな」
ていうかシスコンじゃないし。
「いいけどね、勇人は明日早いんだから寝なさいよ」
「ああ、姉さんも早めに寝ろよ。肌に良くないぞ」
「いやいや、良い女は腐らないのよ」
そんな事をいって20年彼氏ができない良い女は自分の部屋に戻っていった。
茶碗を流しに持って行って風呂に入ろうと、服を脱ぐ。鏡で自分の体を見ても傷一つない身体で少し安心した。それどころか、もの凄い綺麗な肌になっていた。
これも吸血鬼になった恩恵なのか? いつも柔道でボロボロになってる指先まで綺麗だった。自分で言うのもなんだけど、指先が綺麗な男が柔道やってるって気持ち悪いな。
「うーん…」
シャワーを浴びながら少し考えると、実際柔道を続けない方が良いような気がする。
力が強くなるのは良い事だけど、人間の力じゃなくなるって言うのは卑怯だし。
でもまだ平気っぽいから、なったらなったで考えればいいか。全国優勝とかも、全然可能になるかもしれないし。というか、楽勝かもしれないし。
とりあえず明日またあのマンションに行ってそこ等辺きかないとな。