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初夜。マンション。

 死んだ。一部の迷いもなく俺は死んだのだろう。最後の記憶じゃ俺は路地裏で会った女に胸を食われていた。きっと一杯血も出たし、凄い痛かったし、あの女もあそこまでやって俺を生かすなんて事はしないだろう。もう死んだんだしせめて天国が良いな。悪い事してないんだから、その位は神様許してほしい。

目を開けると明るかった。

「うわぁ、どっちか判断できねぇ…」

 なんか天井が見えるし壁紙っぽいし視界の端っこに蛍光灯が見えてる。案外天国も地獄も、俺たち人間が考えているような雲の上に立つとかそんなマジカルな話じゃなくて、現実と似ているのかもしれない。

 で、結局どっち?

「どっちでも無いから安心しなさい」

 俺は声のする方を向くと、あの路地にいた女がマグカップもって椅子に座ってた。

「うわぁ!」

 距離を取ろうとしたが、恐怖と驚きで腰が抜けて無様に後ずさる事しか出来なかったし、壁が近くてすぐ詰まってしまった。色々聞きたい事があったが恐怖で声が出てこない。

 女は「ふむ」と頷くと、一度部屋を出た。女が居なくなった事で、少しだけ冷静になれた。周りを見渡すと、どうやら此処が何処か解らないが、窓から見える景色が高い所だった事と、地元の観光名所であるタワーが見える事から、俺の町のマンションの一室な事がわかる。さっきまで俺がくたばってた場所は布団だったらしく、状況から考えてあいつがワザワザここに寝かせた様だ。後着ている服が学生服からバスローブへと変わっていた。

 何が目的なんなのだろう。俺を食っといて俺を助ける理由がわからない。

「って、あれ?」

 食われたのに生きてる。それに傷なんか一つも無かった。潰された腕も食われた胸も普通にある。強いて言えば頭が少し痛い位で、もしかしたら悪い夢でも見てたのかもしれない。確かに、帰りに女から暴行を受けて腕と胸を食われましたなんて現実感なさすぎる。

 10分ほどして女が帰ってきた。その手にはマグカップが握られていて、俺に近づくなりそれを渡してきた。

「ブラックよ。砂糖とミルクが欲しくてもそのまま飲みなさい」

「はぁ…。別にブラック平気なんで大丈夫です」

 飲んでみたら普通においしかった。

「結構高い豆だからおいしいでしょう」

「はい、おいしいです」

……

……

「じゃなくて」

 別にコーヒーおいしいとか言う話よりも聞きたいことがいっぱいあった。この女のはなしとか胸のはなしとか此処がどことかあの死体はなにとか。

「質問してもいいですか?」

 女はどうぞと言った感じで手を振った。取りあえずマグカップは床に置いといた。

「じゃあ…俺がここに寝てる経緯とか教えてください」

 女は少し考えた後に「どこまで覚えてる?」と聞いてきたので、取りあえず胸を食われた所までを説明した。結構冷静に話が出来ている自分に驚いた。それを聞くと女は「ふふーん」と足を組んで、

「それ自分で言ってて本当だと思う?」

 と質問で返されてしまった。それを聞いて少し力が抜けた。そうだよな、あんな事現実に起こるわけがないんだから。でもそうすると俺はなぜバスローブ姿でここに居るのだろう。

「やっぱり、変な夢だったんですね。て言うかじゃあ俺ってなんで此処にいるんですか?」

「いや、現実だったよ。アレ」

 シレッと言いやがった。解りにくい冗談か何かの類なのか判断つかないが、取りあえず俺が生きてて、傷もないんだから多分冗談だろう。そんな冗談のオチなんかよりも、ここにいる方が気になる。

「冗談だと思い込もうとしてるなら無駄よ。アレはもう起きた事なんだから」

 そしてまたまたシレッとぶち込んできやがった。

「私はあの男を殺した後、君を食べたの」

 そう言って、女はポケットから煙草を取り出して優雅に煙草に火をつけた。部屋が急に煙草臭くなる。

 まぁあの時感じた痛みとかはリアルに思い出せるんだけど、本当にそんな事があったなら俺はもう死んでいて、天国か地獄かどっちか解らないがそう言った場所に居なければいけないはずだ。

「まぁ本当だとしたら、なんで俺はピンピンしてるんですか?」

 女は天井に向かってゆっくりと煙を吐き出すと、一拍おいてから話し始めた。とてもじゃないけど信じられないような話を。

「私に食べられちゃったからよ。…本当は痛いから嫌なんだけど、取りあえずコレを見てから話に納得して頂戴」

 そう言って女は机から妙にごっついナイフを取り出して、近くにあった猫柄のゴミ箱を下に置き、その真上で自分の腕を削いで見せた。

「あ、ちょっとあんた!」

「いったぁ…。まあ見てなさい」

 もう本当によく解らなかった。急に腕を切ったかと思えば見て居ろなんて。趣味なのだろうか? そういうお茶目な。

「はぁ!?」

 驚いた。信じられない事に、女が切り取った腕の部分がもの凄い速さで再生していく。20秒もしない内に腕は完全に治っていた。

「と、言う事よ。多少エネルギーを使うけど、この位の傷はすぐ治っちゃうの」

「治っちゃうって…」

 エネルギー? よくゲームで出てくる単語が出てきたけど、この後の女の話はもっとファンタジーチックな話になっていった。ホラーかな?

「取りあえず人間離れしたこの能力は見たわよね。理解した? これが私たちの能力の一つよ。」

「はぁ…私達って事は他にも同じ事が居るんですか?」

 女はティッシュで血まみれの腕を拭きながら、こっちを見て「あなた」と言ってきた。

「いや、俺そんな特異体質持ってないです」

 柔道やってるから良く傷が出来るけど、そんな早く傷治んないし。とか思っていると女は首を振って「持ってなかったけど、今はあるわ」と、俺に近寄って手を取ってゴミ箱の所まで引っ張った。すげぇ力だ。

 まぁ嫌な予感はしたんだけど、女はその予感通りに俺の手を削ぎやがった。

「いって! 何しやがる!?」

「動かすな!」

 反射で引っ込めようとしたら、両手で止められた後に床が汚れると一言加えられた。ビクともしないのが少し悔しい。

「うっそお…」

 本当にすぐ治った。え、俺そんな特異体質なかったよね。グジュグジュと治って行く自分の腕を見ていたらなんだか気分が悪くなってきた。

 女は「わかった?」などと言いながら丁寧に俺の腕を拭きながらまた話し始めた。

「とりあえず自分が人間離れしちゃった事は理解できたでしょうから、本題に入りましょう。でも、もう大体予想がついてるわね。多分それは正解。そんな風に仲間を増やすなんて解りやすいものね。あなたはもう人間じゃないわ」

 言葉を続けるほどに女の語調が興奮していくのがわかる。俺は視線を自分の腕から女の顔に移すと吸い込まれそうな妖艶な笑顔をしていた。

「人間卒業おめでとう。あなたは立派な吸血鬼よ」



読んで頂きありがとうございます。

ベタなお話ですが、よろしければこれからもよろしくお願いします。

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