第七章 一筋の光、闇色の光
☆アーク☆
監視寮、アーク家。
とりあえずあのままにしておくのはさすがにまずいので、フレムと二人でルミアを家まで運んできた。今はベットに寝かしている状態にある。ひどく汗をかき、苦しそうに呻く彼女を見て、フレムはそばに近づき拳をグッ!と固めて俯いていた。何もできない自分が悔しい、その思いがアークにまで伝わってきた。
すると突然、ルミアに変化があった。
「腕が・・・・・、」
右腕がどんどん黒く変色していき、その付け根はブクッと膨れ上がり、最後は皮膚を突き破ってドス黒い翼が現れた。
「――――――――――ッ!!!!」
言葉にならない激しい痛みがルミアを襲い、彼女の耳をつんざくような叫びを聞いたアークは、思わず目をそらしてしまった。
その後もルミアの叫び声は続き、腕はあらぬ方向へぐにゃりと曲がり、表面はボコボコと形を変えていき、徐々に獣のそれに近づいていった。
「ゲオルギアスが彼女の中から出てこようとし始めてるデスぅ」
リンとランはベットの方へ移動すると、ルミアの肩に手を添えて目を瞑り、何か唄のようなものを唱え始めた。
「ルミアちゃんは一人分の生命力しか得られないにもかかわらず、ゲオルギアスと二体分の生命力を消費してしまっていたノヨ」
「しかも今、その一人分の生命力の供給すらも断たれはじめて、今こうして外に出てこようとしてるデスぅ」
いつの間にか部屋中に淡い光が現れてリンとランに集まっていき、二人の手を伝ってルミアへ流れ込んだ。
その神々しい様子をみたアークは、久しぶりに二人が天子であることを自覚させられた。
「これが、生命力なんですね・・・・、」
一年前と同じ風景がアークの脳裏によぎった。
鮮血が飛び散り、人が次々に倒れていき、今と同じように光が舞っていた。
二人を守ると、二人のいるこの世界を守ると誓った、一年前のあの日のことを思い出した。
「終わったデスぅ」
とそんなことを考えていると、ランが詠唱を終えた。光もすでに見えなくなっている。
「今ので不足していた生命力を補給していたおいたノヨ。これで二日はなんとか保つと思うノヨ」
「すまねーな、ありがとう」
まだ苦しそうにはしているが、ルミアの汗も自然と引いている。顔色も良くなったし右腕の変化も収まった。肩から生えた黒い翼もこころなしか小さく見える。
フレムは礼を言うも、下を向いた状態で止まったままだ。
「二日、か・・・・、」
フレムが呟く。
今の処置で二日は保つ。定期的にリンとランに生命力を補給させれば、なんとかやっていくことは出来るはずだ。だが、それでは根本的な解決にはならない。
それを理解してるからこそフレムは、礼を言いながらも拳を緩めることができずにいるのだろう。
「・・・・・やっぱり、病院に行った方がいいんじゃないですか?施設も揃ってるし、生命力を利用した治療も進んでるみたいですし」
「それはできねー。その方法も考えたが、病院も騎士団の管轄だ。俺が行動を起こしてからルミアも奴等にマークされてるはずだから、病院なんて行けば騎士団に拘束されて俺の居場所をはかせるために脅しとかしてくるだろうな。むしろリスクは増えるはずだ」
「そんな・・・・、というより、そこまでされるってフレムさんはどんな犯罪を犯してきたんですか」
騎士団にそこまでマークされるって、どんなことしたんだよと呆れてしまった。
「『電子図書館』にハッキング。未解原子の製造施設を爆破。パトカーを破壊して騎士団二人を重傷にした。」
ナルホドナットク。
ってこんなところで納得しててどうする。こんなことしてても意味はない。
(騎士団、生命力、聖獣。うーん・・・・、わからない。とにかく紅葉さんなら何か知っているかもしれない)
というより、あの人なら世界の『書き換え』でもして何とかすることはできるはず。それになにより、目の前で苦しんでいる人間がいて、どうすることもできない自分が腹立たしい。
とにかく動かないと始まらないか。
「少し用事があるので、いったん席を外します。フレムさんはゆっくり・・・・、できないだろうけど、とにかくルミアさんのそばにいてあげてください」
アークはスッと立ち上がるとそのまま玄関に行き、外に出た。
晴れてはいなかったが、さっきまで降ってた雨は止んでる。太陽が沈みだしているのか、あたりはすこし薄暗くなっていた。公園にある電灯も明かりを灯している。ここは人通りが少ないからやけにむなしく感じが、今はちょうどいい。
アークは寮を出て、公園入り口付近で足を止めた。
「紅葉さん、見えてますよね。話しがあるんですけど」
誰もいない公園に話し出した。彼女のことだ、きっと全部見ていたはず。今のだって聞こえてる、というより文章化して読んでいるはず。
「私を使うなんて、あなたも偉くなったものですね」
案の定、だれもいなかった公園から声が聞こえた。声を辿っていくと、ジャングルジムの上にスーツを着た金髪の女性がビシッと姿勢よく立っていた。
「紅葉さんに話しがあるんです。僕も一緒にトばしてください」
「そのつもりで来ているんです。紅葉様の命令ですから仕方ない。二人分は重いから嫌いなんですが・・・・、上半身だけでいいか?」
「お願いだから五体満足な状態でとばして!」
この人、目が本気だから怖い。目的地に着いたら足がないとか洒落にならん。
キキはため息をつくと、仕方ない、と一言だけ言ってアークの目の前に現れて、肩にポンと手をおいた。
と、その瞬間。
アークの目に映っていた物が全て不自然に歪んでいき、視界が元に戻っていくと思ったら、すでに白桃寺学園の旧校舎の中にいた。
これが点間移動。初めて体験したが、正直若干あった浮遊感に酔いかけたし、視界が歪んだときは吐き気がするぐらい気持ち悪かった。結論、点間移動は素人はやっちゃダメ。
「話しを聞くわけにはいかないので、私は席を外しておきます。一人で入れ」
「・・・・・はい」
最後の命令口調がどうも気に食わなかったが、一応客人に対する配慮なのか、それだけ言うとキキは姿を消した。
「失礼します」
アークは扉に手をかけて、ゆっくりと開けていった。
「なに改まった入りかたしてんの?別に初対面じゃあるまいし」
廊下より教室は窓がある分、外の光が入って少し明るく感じる。そんな中、一際明るい光を放っている幼女が机の上に座っていた。いや、光を放ってるのは彼女の持ってるゲーム機だが。
「その、今日は話しがありまして」
「え、なに、告白?」
「んなわけあるか」
紅葉は一瞬アークの方を向いたが、だよねー、とまたゲームに集中し始めた。
アークは何か違和感を感じた。いつもの彼女と少し違う。
「・・・・・・、」
「・・・・・・・・、」
薄暗闇の中で、カチカチカチという音だけが響いている。ゲーム中なのに珍しく紅葉が発狂していないから静かだ。
「・・・・モ〇ハン、ですか」
「まぁね、新しいの出たし。ナ〇ガは何回もやったからパターンできたしつまんない」
あっそ、と特にゲームに興味がないアークにこの会話は辛い。かといって、なぜか自分からは話し出せずにいた。なにかいつもと違う雰囲気が紅葉から出ていた。夜だから、というわけではないだろう。前に夜来たときはこんなんじゃなかった。
なんか怒ってるようにも見える。
「で、なんか話しがあるんじゃなかったの?」
「あ、はい!えっと、」
いつまでも話し出さないアークにしびれを切らして、紅葉が若干キレ気味で言うと、アークはつられて声を出してしまった。まぁいい、流れをはなそう。
「さっきの、見てましたよね?」
「あぁ、だいたい理解しているさ。で、この私に何をしろと言うの?」
やっぱりキレてる。納得できないようなことがあって不機嫌なのだろうか。でも、そんなことでめげてる場合じゃない。
「彼女、ルミアさんを助けてあげてほしいんです。必要なことがあれば僕が動きます。もしそれがダメなら、どうすればいいのかぐらい教えて下さい」
「なんで、赤の他人でしょ?なんでそこまですんの」
「苦しんでる人を見て見ぬふりできるほど、僕は高性能にはできてないんです」
「・・・・・・・・、」
紅葉が沈黙に入った。
なぜだ、なぜ素直に人を助けようとしないんだ。
普通の大学生が聖獣だのなんだのに巻き込まれるわけがない。フレムの周りで起きた事件も、おそらくは紅葉の仕業。それなのにそのままほったらかしはあんまりだ。
なんでそこで考える必要があるのか、今のアークは理解できなかった。
紅葉は渋々と言葉を発する。それはできない、と。
「おまえがどう言おうが無理だ。忘れろ」
「なっ!忘れろって、それこそ無理です!なんでそんなこと言うんです、素直に助けてあげればいいでしょう!?」
「何度も言わせるな、それはできない。忘れろ。もうフレム・リュングベルにもルミア・ベネットにも近づくな」
なんでそういうことを言うのか分からない。どうしてそこまで言う必要がある。
アークには紅葉の言ってることがまったく理解できなかった。
グッと奥歯を噛みしめる。これで本格的に解決策が見えなくなってきた。
「・・・・・分かりました、もうあなたに頼らない。僕一人で何とかしてみせます」
「ふん、勝手にすればいいさ。ただし、失うのはお前だ」
「失礼しましたっ!」
逃げるように教室から飛び出た。
そのまま速足で階段を下り、旧校舎から薄暗い外に出た。とその時、アークに立ち塞がるようにキキが現れた。
「なぜ紅葉様の忠告を受けない」
「あんな冷徹な忠告は受けられません。僕はそこまで残酷ではありません」
少し間を開けて、キキは無表情のまま続ける。
「あのお方は、未来を読むことも、書きかえることもできるような方なのです。それを理解した上でなぜ忠告を受けない。いくらあの人が未来を変えれても、過去は変えられません。過ちを犯せば元には戻れないかもしれない」
アークは一度旧校舎を見てから視線を戻し、キキをかわして歩いていった。
(そんなこと言われても、僕は僕のやり方で守って見せる・・・・・、)
「遅れてごめん、今帰ったよ」
両手が買い物袋でふさがってるので、足でドアを開けながら部屋に入った。
買い物を済ませて監視寮にやっと帰ってきた。時計を見ると、すでに八時を過ぎていた。
「時間なかったから、今日はす〇家の牛丼なんですけど、フレムさん大丈夫ですか?・・・・・ってあれ、二人は?」
部屋の中ではいつもと変わらない光景が広がっていた。リンとランが、腹を空かして死にそうになっているだけだった。フレムとルミアの姿が見えない。
「もう遅いからって帰っていったノヨ」
「なにかあったらまた世話になるとも言ってたデスぅ」
牛丼が入った袋をテーブルに置くと、早速二人が中身をあさって自分の分だけ取ってせっせと食べ始めた。アークは、ほらほら、そんなに急いで食べたら詰まらせるよ、と冷蔵庫からお茶を取り出して、コップに注いで二人の前に出す。オウジによく、お母さんか!とつっこまれるが、なんとなく癖がついてしまっているのだ。
「帰っちゃったのか・・・・。雨は降ってないにしろ、一人で大丈夫かな?」
カーテンをちょっとだけあけて、窓から外を見た。
二人はもう家についているのだろうか。
『失うのはお前だ』
紅葉の言葉が気にかかる。
妙な胸騒ぎがした。
☆フレム☆
「・・・・・・・・・、」
アークの家を出てから、眠ったルミアを背負って暗い路地を歩いていた。
雨が降っていたこともあってか、ヒンヤリとしていてクソ暑い夏に丁度いい感じになっている。
「・・・・・・・・・・フン」
自分の背中で眠るルミアを見たフレムから、自然と笑みがこぼれた。
さっきまで、文字通り死ぬほどの痛みに苦しんでいた妹が、いつものようにスヤスヤと眠っている姿を見て少し安心した。
と、その時、
「苦しむ妹を助けるために、法を犯してでもがんばる兄。うーん、泣かせるねぇ♪」
後ろから声が聞こえた。
バッと振り返ると、声のした方向にはスーツを着崩した男が立っていた。フレムはおもいっきり警戒心を高めた。が、ルミアを背負った状態の上、アークを追い払うときにライターをほとんど使ったので、ポケットに手を突っ込んだが一つしかなかった。より一層警戒心を高める。
「安心しろ、んな怪しいもんじゃないさ」
「相当怪シいっツーの」
ポケットに手を突っ込んだままライターを握りしめる。
「だから心配ないって。今日は良い話しを持ってやったんだからよ」
「・・・・・何のことだ」
フレムの言葉に、男はニヤリと不適な笑みを浮かべた。
「あんたの事情はだいたい聞いたさ。こっちの出す条件さえ達成してもらえば、あんたを助けてやるよ」
「取り引きってことか」
この男が出す条件さえ満たせば、妹を苦しみから解放してくれる。
信用できるわけがない。急に現れた男の言うことをすぐに信用できるほど、素直に育ってきてはいない。
しかし、
(手段を選んでいる時間は、もうないか)
どうにかしなければルミアは助からない。保険をかけている時間もない。どんなことをやってでも、ルミアを救いたい。
フレムは無言のまま頷いた。
それを見た男は、また不適な笑みを浮かべる。
「素直でよろしい♪」
「条件は何だ」
「ったく、もっと楽しめって。・・・・・ま、いいか」
男は少し冷めた感じに笑って続けた。
「俺様の指定した『モノ』を、ここまで持ってきてもらおうか」
気長にじわじわ見てくださってる方は久しぶり
ここまで一気に見てくださった方ははじめまして
色々できてなくて何が何だか~~~~な多趣味アキオでございます
色々説明しなくちゃいけないことをすっぽかして、自分のペースだけで進めてる
これじゃあ誰も読んでくれませんわな
一年前の話とか、その話から二年前の過去の事とか
今まで伏線敷きまくって回収する気なかったけど
さすがにそれじゃあだめだわってことで
フレムさんの話が終わったら、とりあえず一年前編やることにしますた
紅葉との関係とか説明しんどいし
なので、これを見てくださったそこのあなた!
ちゃんと最後までみてちょうだいな
でわでわ、これで失礼します
・・・・・実は、〇き屋は正直あんまり行かない多趣味でした