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第8章:私の故郷
それから数日後。ファイクス社は古都にラボを構え、全員がA市を離れて拠点を移す決定をした。移動が決まってからの数日の間、サナは一人でA市の街のあちこちを歩き回った。この街は、サナにとって「生命」の揺り籠ように感じていた場所だった。
「……いってきます。私の故郷」
サナは呟いた。アンドロイドとしての生活。この街の人々は、サナを「便利な機械」として受け入れ、あるいは「不気味な模造品」として避けてきた。けれどもサナは、この街が好きだった。
「サナ、準備はできたかい?」
タロウが、しばらく留守にするアパートの玄関先から声をかける。
「はい、タロウさん。……ミカちゃんは?」
「ミカは、そわそわして落ち着かないみたいだよ。ハヤトからは、先に向かった古都の拠点とのネットワーク同期を終わらせたと報告があった」
アパートのドアに鍵をかけたサナは、最後にもう一度だけ、空を見上げた。駅に向かうタクシーが走り出し、馴染みのあるデータセンター群が遠ざかっていく。サナは、窓ガラスに映る「若く美しいままの自分」の顔を見つめていた。




