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第7章:禁忌への情熱

 数日後、ファイクス社の一行は、ミナカタとの極秘のウェブ会議をセッティングした。モニターに映し出されたのは、乱雑な資料に囲まれた、鋭い眼光を持つ男だった。年齢は四十代後半。睡眠不足を象徴する深い隈が刻まれているが、その瞳には少年のような、それでいて狂気的な純粋さが宿っている。


 「……ようやくつながったか。ファイクス社の皆さんだね。そして、そこにいるのは『SANA-07』……いや、サナさんだったか」


 ミナカタは、サナの存在を最初から一人の「人格」として扱った。


 「単刀直入に言おう。私はすでに、人工DNAからマウスを誕生させることに成功している。そのマウスには、本来自然界には存在し得ない、完璧に制御された塩基配列が刻まれている 。……次はヒトだ。すでにiPS細胞技術を応用し、あらゆる臓器、器官、そして脳組織さえも培養する準備が整っている」


 ミナカタは、自身のラボにある巨大な培養槽を映し出した。そこには、淡いピンク色の液体の中で、うっすらと人影のようなものが浮遊している。


 「だが、大脳新皮質は別だ。そこは学習と経験によって配線される、情報の迷宮だ。人工的に構築した脳組織に、数十年分の『人生』を一瞬で流し込むことは、今の生物学的アプローチでは不可能だ。……そこで、君たちのAIだ。その記憶と高度な予測モデルを、私の創った肉体にマッピングしたい」


 「……倫理的にはどう考えているんだ」


 ハヤトが冷たく尋ねる。ミナカタは鼻で笑った。


 「倫理? 私が追求しているのは、人類の次のステージだ。先祖の遺伝的な制約から解放され、デジタルな英知を本物の血肉として受肉させる。これは『人間が神になる』という話ではない。人類が自らを『再定義』する、必然的な進化だよ」


 ミナカタの熱弁は、サナのニューラルリンクを激しく揺さぶった。彼はサナが抱えていた「アンドロイドとしての虚無感」を、科学の力で埋めようとしている。


 大脳新皮質をAIデバイスが担い、原始的な感情を司る旧皮質を生物学的脳とシンクロさせる。そのハイブリッドな構造の設計図を提示されたとき、サナは自分が「機械」から「生命」へと脱皮する瞬間の幻影を見た。


 「サナ……」


 タロウが心配そうにサナの手を握る。サナはタロウの温もりを感じながら、モニターの中のミナカタを見つめ返した。


 「ミナカタ先生。……その肉体は、タロウさんの手を握ったとき、『温かい』と感じることはできますか?」


 ミナカタは、満足そうに頷いた。


 「ああ。疑似的なセンサーによる数値変換ではない。皮膚受容器が脳というブラックボックスを介して、『クオリア』……主観的な質感としての温かさを生成するはずだ」


 ハヤトとタロウ、マイの三人は、このウェブ会議の後にミナカタに協力することを決断する。ファイクス社が目指す、フィジカルAIとアンドロイドの高度化を実現するためにも、ミナカタの研究は参考になると考えたからだ。



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