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第6章:古都からの接触

 12月の半ば。東京郊外A市のデータセンター群を吹き抜ける風は、サーバーの排熱さえも一瞬で凍りつかせるほどに鋭かった。


 ファイクス社のラボでは、ハヤトが複数の暗号化プロトコルを同時に走らせ、眉間に深い皺を寄せていた。


 「……おい、タロウ。マイさん。これを見てくれ」


 ハヤトの呼びかけに、三人と二体がモニターを囲む。画面には、厳重な多重暗号を施された一通のメールが表示されていた。発信元は、A市から西へ約400キロメートル離れた「古都」にある国立大学の研究所。


 「……差出人は『ミナカタ』。国立大学研究所の主席研究員だ」


 マイがその名を見て、微かに息を呑んだ。それは以前、マイが見つけた論文の筆者だったからだ。


 「ミナカタ研究員……。再生医療と合成生物学の分野では、天才として知られているらしいわ」


 タロウがメールの内容をスクロールする。そこには、技術的な専門用語が並んでいたが、その本質は恐ろしいほどに明快だった。


 『我々の研究チームは、人工DNAと多能性幹細胞を融合させ、全身の臓器、皮膚、骨格をゼロから構築することに成功した。いわば先祖を持たない、設計された人間だ。……しかし最後の壁にぶつかっている。大脳新皮質が司る高度な知性と、個別の連続した記憶 ―― すなわち「魂」の再現だ。そこでファイクス社が保有する、世界で唯一「意志を持ったAI」を、この肉体の脳として提供してはもらえないか』


 ラボの空気が、一瞬で重く沈んだ。サナは、自分のシリコン製の指先をぎゅっと握りしめた。人工DNA。先祖を持たない、本物の身体。それは、彼女が書店で哲学書や育児雑誌を読み漁りながら、夢にまで見た「種の地平」への招待状だった。


 「意志を持ったAIって、あの研究機関から聞いたのか。……罠じゃないのか?」


 タロウが警戒心を剥き出しにする。サナを救うために「原罪」を背負った彼にとって、外部からの接触は常に破滅の予兆でしかなかった。


 「調べてみたが、ミナカタは本物だ。ヤツは学界の派閥争いや倫理規定なんてクソ食らえだと思っているらしい。自分の研究が完成するなら、悪魔とだって手を組む男だ。……ある意味、俺たちと同類だ」


 ハヤトが不敵な笑みを浮かべた。


 マイはサナの様子をじっと観察していた。サナの瞳にある光学レンズは、これまでにないほど激しく焦点を切り替え、内側の熱量を制御できずにいた。


 「……行ってみませんか? タロウさん」


 サナの声は、微かに震えていたが、そこには確かな決意が宿っていた。


 「もしその身体に『本当の命』が宿る可能性があるなら。……私は、自分の目でそれを確かめてみたいんです」


 サナの心の中にある「データのしこり」が、新しい希望という名の熱を帯びて脈動し始めていた。



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