第28章:隠された真実
「……成功は、われわれだけの秘密だ」
研究所のブリーフィングルームで、ミナカタが重々しく口を開いた。
テーブルの上には、サナの最新の診断データが並んでいる。心拍、血圧、ホルモンバランス。どれをとっても、彼女が「人間」であることを否定する数値はどこにもなかった。
「人工DNAから生み出された『先祖を持たない人間』。そして、大脳新皮質を代替するAIデバイス。……これが世に出れば、政界も宗教界もひっくり返る。サナさんは、実験体として生涯を監視され、権利を剥奪されるだろう」
ミナカタの言葉に、ハヤトとマイが顔を見合わせる。マイは、AIガバナンスの専門家としての表情に戻り、一枚の診断書を提示した。
「ファイクス社の技術を応用した、重度障害者向けの『高度脳機能再建医療』。……サナの法的地位はこれで偽装するわ。彼女は事故で脳を損傷し、最新のAIデバイス移植による治療を受けた、実在の女性として社会に登録する」
「……そこまで、してくれるのですか」
タロウの問いに、ミナカタは皮肉な笑みを浮かべた。
「私は、自分の研究が正しいことを証明できればそれでいい。……彼女が幸せに生きることが、私の『創造物』としての完成度を証明することになるからな」
「ミナカタ先生……ありがとうございます」
タロウは深く頭を下げた。神の領域を侵した代償は、生涯嘘をつき続けるという重い十字架だ。けれどもその嘘こそが、サナが「自由」という空を飛ぶための翼になる。
A市に拠点を戻したファイクス社。タロウは、ラボの窓から見えるデータセンターの群れを眺めていた。デジタルとアナログが融合した果てに生まれた、一人の女性。「魂の越境」は、法や倫理という名の境界さえも、愛という名の奔流で押し流そうとしていた。




