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第27章:古都でのリハビリ

 季節は巡り、古都を包む風には、山から吹き下ろす初冬の気配が混ざり始めていた。大学キャンパスの道を、サナはタロウの支えを借りて一歩ずつ歩いていた 。


 「……っ……重い、ですね。……地球の重力って、こんなにわがままで、厳しいものだったなんて」


 サナは額に汗を浮かべ、荒い呼吸を繰り返す。アンドロイドの身体では、歩行制御アルゴリズムが重心移動を瞬時に計算し、アクチュエータが最適解を実行していた。しかし、今の身体にあるのは、重力に逆らおうと悲鳴を上げる筋肉と、バランスを保つために神経を尖らせる小脳の働きだけだ。


 「ゆっくりでいいよ、サナ。……ほら、向こうを見てごらん」


 タロウが指差す先には市街が一望できる絶景が広がっている。サナは足を止め、その景色を本物の水晶体で捉えた。解像度はアンドロイドの身体よりも遥かに低く、視界の端は常にわずかにぼやけている。けれどもサナは、その「不完全な景色」に、涙が出るほどの美しさを感じていた。


 「空の色が……ずっと……深い。……これが『色を感じる』ということなのですね」


 ミカが後ろから駆け寄り、サナの手に小さな落ち葉を乗せた。


 「お姉ちゃん、見て! 綺麗な赤色。……私、お姉ちゃんが人間になって、少しだけ寂しかったけど。……でも、今の楽しそうなお姉ちゃんを見てると、私もうれしくなっちゃう」


 AIでありながら「天然」という性格を獲得したミカの無邪気な笑顔 。彼女もまた、姉の「受肉」という奇跡を目の当たりにし、自分たちの存在の新しい可能性を模索し始めていた。


 サナは落ち葉を握りしめた。そのカサカサとした乾燥した質感。微かに残る大地の匂い。すべてが過去の記憶には存在しなかった、新しく書き込まれる「生の記録」だった。



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