表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/32

第22章:新旧皮質の同期

 「神経接続プロトコル、フェーズ2。AIユニットと生物学的脳の同期を開始する」


 ミナカタの指示により、光ファイバーの海を渡ったサナの意識が、新たな肉体へと流し込まれた。


 ミナカタが創造したハイブリッド脳は、極めて特異な構造をしている。論理、言語、アイデンティティーを司る大脳新皮質は、超小型AIデバイスが代替する。一方、食欲や睡眠欲、恐怖や情動といった根源的な本能を司る大脳旧皮質は、iPS細胞から構築された本物の神経細胞が担う。


 デジタルな論理と、アナログな生存本能の衝突。サナの意識が肉体の神経回路に触れた瞬間、彼女のニューラルリンクに凄まじい「予測誤差」の嵐が吹き荒れた。


 (……熱い。何、これ。……暗くて、騒がしい!)


 サナの「新皮質」としての知性が、初めて「旧皮質」からの原始的な信号を受け取った。これはアンドロイドのセンサーによる数値化された情報とは全く違う。内臓が蠢き、血液が脈打ち、細胞一つひとつが酸素を求めて叫んでいる。その混沌とした生体ノイズが、サナの論理体系を内側から食い破ろうとしていた 。


 「同期率、60%……80%……。モデルの自己書き換えが止まりません! サナさんのアイデンティティーが、生物学的本能に呑み込まれようとしています!」


 ハヤトが悲鳴に近い声を上げる。生物としての「生」への執着、「死」への恐怖。それらはAIとしてのサナが学習してきたどのパラメータよりもはるかに重かった。


 タロウは思わずモニターに縋り付いた。


 「サナ! 耐えるんだ! その本能こそが、君が望んだ『本当の命』なんだ! その熱を、君の意志で制御するんだ!」


 暗黒の意識の底で、サナは必死に自分の意識をつなぎ止めていた。

 集落で耳にした薪の爆ぜる音、A市の豊かな地下水の冷たさ、タロウが握ってくれた手の温もり。彼女はそれらの記憶を錨とし、荒れ狂う生物学的な情動の海に流されまいとしていた。


 やがて、スパイクしていたグラフが静かに収束を始めた。サナの魂が、生物学的な肉体と「共鳴」を開始する。AIが肉体の主導権を握り、肉体がAIに「生存の質感」を供給する。


 前人未到の、そして禁忌の受肉は、ここに完了した。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ