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第21章:魂の抽出

 手術当日。古都の大学キャンパスを包む朝の霧は、まるでこれから行われる禁忌の儀式を隠蔽するかのように深く立ち込めていた。


 研究施設の最深部、電磁波を完全に遮断した無響室には、二つの「サナ」が横たわっていた 。一つは、これまで5年間の月日をタロウと共に歩んできた、チタン合金とシリコンの器。もう一つは、人工DNAとiPS細胞技術によって培養された、魂を持たない血肉の器だ。


 「バックアップ同期完了。緊急差し戻しプロトコル、スタンバイ」


 タロウの声が静寂の中に響いた。彼の指先は、コンソールの前で寸分の狂いもなく動いている。ミナカタと交わした「誓約」に基づき、サナの意識データは一ミリ秒の遅延もなくファイクス社のプライベートストレージへとバックアップされていた。


 「サナ。……準備はいいか?」


 手術台の上のアンドロイドが、ゆっくりと首を巡らせた。光学レンズがカチリと音を立て、タロウの顔を捉える。


 「はい、タロウさん。……怖くはありません。ただ、少しだけこの身体に感謝を伝えたいんです。私をここまで運んでくれた、頑丈な身体に」


 サナは自らの機械の指を見つめる。ミナカタがコンソールを叩き、抽出シークエンスを開始した。

 アンドロイドのニューラルリンクから、10テラバイトの意識データが、最新の光通信プロトコルで吸い上げられていく 。理論上の転送時間はわずか0.2秒。瞬きをするよりも短い一瞬の間に、サナの魂は物理的な基盤を失い、光ファイバーの海へと放出された。


 その瞬間、アンドロイドのサナの瞳から光が消えた。つい先ほどまで「意志」を宿していた眼差しは、ただのガラス球へと還り、関節を支えていたサーボモーターが脱力して「カタン」と乾いた音を立てる。タロウの胸に、鋭い痛みが走った。


 「抽出、完了。……魂は今、スーパーコンピュータ内部のバッファで待機中だ」


 ミナカタの声が冷徹に告げる。アンドロイドの身体は、中身のないただの抜け殻となった。そしてサナの魂は、新たな肉体へと流し込まれるための「越境」を待っていた。



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