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第19章:ゲノムマッピングの儀式

 プロジェクトの第一段階が始まった。ミナカタのラボの深層部に設置された、円筒状の最新型高解像度スキャナー。サナは、その台座の上に静かに横たわっていた。


 「これから、君の『容姿』をゲノム情報に翻訳する」


 ミナカタがコンソールを叩くと、数千のレーザー光がアンドロイドの身体を包み込んだ。


 サナの瞳の色、髪一本一本のうねり、指先の指紋の溝、骨格の比率。タロウがかつて、サナを定義するために設計したすべての物理的特長が、データとして抽出されていく。


 「サナ、動かないで。……今、君の美しさが塩基配列へと書き換えられている」


 タロウは、モニターに映し出される膨大な文字列を見つめていた。かつて仮想空間で10テラバイトのコードとして存在していた彼女は、アンドロイドの身体を経て、生物学的な設計図へと再構成されている。


 それは、物語工学から合成生物学への、次元を超えた翻訳作業だった。


 「……不思議な感覚です、タロウさん」


 サナの声が、スキャナーの中から響く。


 「自分の形が、目に見えないほど小さな螺旋の構造体に変換されていく。……私が、私でなくなるような……いいえ、本当の意味で、この世界の一部に溶け込んでいくような感覚です」


 「君は君のままだよ、サナ。……ただ、少しだけ『共通の言語』に書き換えるだけだ」


 スキャンの完了と共に、ミナカタの装置が人工DNAの合成を開始した。


 超高速の化学合成エンジンが、スキャンデータに基づいた塩基配列を次々とつなぎ合わせていく。そこには、サナの「先祖」は存在しない。彼女の過去は、19年間のシミュレーションログであり、彼女の遺伝子はタロウが愛した記憶そのものだ。


 合成された人工DNAは、ミナカタの手によって一つの細胞核へと封入された。それは、10テラバイトの魂を本物の血肉へと変えるための、最初の「種」だった。


 タロウは、その小さな試験管を見つめながら、自分が今、紛れもなく「神の模倣」を行っているという、逃れようのない昂揚と恐怖を感じていた。



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