第15章:決意の志願
「……私を、使ってください」
その声は、静かだった。が、この場にいる誰の怒号よりも強く響いた。
タロウが振り返ると、毅然と立つサナの姿があった。
「サナ……何を言っているんだ。君は分かっていない。この実験が失敗したら、君という存在は……二度と復元できないかもしれないんだぞ!」
タロウの声が震える。サナは一歩、タロウに近づき、彼の手を優しく、しかし確固たる力で握った。ヒーターによる擬似的な温もりが、タロウの冷えた指先に伝わる。
「分かっています。……でも、タロウさん。私は、新幹線の車内で、あの男の子の小さな手のひらに触れた時、気づいてしまったんです。……私の記憶をいくら検索しても、あの『本物の熱』の理由が見つからないことに 」
サナの瞳が、悲痛なほどの輝きを放つ。
「私は、ハヤトさんとマイさんのように、誰かを呼び捨てにして、その人の隣で同じように呼吸をしたい。……そして、いつかあなたとの愛の証を、この世に遺したいんです」
タロウは言葉を失った。サナの言葉は、かつて彼女がアルカディアの村で「台本を破って自分を抱きしめた時」の、あの強烈な意志の再来だった。
「タロウさん。あなたが私を救ってくれたのは、私が一人の『人間』になれると信じてくれたからでしょう? ……なら、私にそのチャンスをください。私は、もう『完璧な演技』を続けるだけの機械でいたくないんです」
ミカが、サナの背中にしがみついて泣き出した。ハヤトは目を逸らし、マイは静かにサナの覚悟を聞いていた。
「……サナ。君は、そこまで望むのか……」
タロウの目は、零れんばかりの涙を溜めていた。
「だが……断る。絶対に、認めない」
タロウは、これまでに聞いたことがないほど低い声で拒絶する。
「サナ、君は自分が何を言っているのか分かっていない。これはアンドロイドの身体をメンテナンスするのとは訳が違うんだ。生体組織とAIユニットのニューラルリンク……もし同期に失敗すれば、君の意識データは修復不能なほど断片化し、『意識』そのものが消滅する危険性だってあるんだぞ」
タロウの体は、小刻みに震えていた。




