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第14章:大脳新皮質の空白

 研究は1週目にして、大きな壁に突き当たった。大脳新皮質を担うための「クリーンなAIモデル」をプロトタイプの身体に搭載し、テスト稼働させようとした時のことだった。


 「……ダメだ。予測誤差が収束しない。学習時間が圧倒的に足りないんだ」


 ハヤトが苛立ちを隠さず、キーボードを叩く。人工的に構築された身体に、まっさらなAIを組み込んでも、それは「新生児」以下の反応しか示さない。人間社会の複雑な文脈、言語の機微、愛という感情の重みを理解するには、数十年の実体験が必要になるのだ。


 「ミナカタ先生。ゼロからの学習では、この肉体を『人間』として動かすには間に合いません。……プロジェクトは、ここでデッドロックだ」


 ミナカタは腕組みをし、培養タンクの中の「天使」をじっと見つめた。


 「……解決策は一つしかない。すでに完成された、世界で最も豊穣な経験を持つ既存の『魂』を、この空白の脳へ転写トランスファーすることだ」


 タロウの背筋に、氷のような戦慄が走った。既存の魂。それは、今この場にいるサナかミカのことを指している。


 「馬鹿を言うな! サナのデータを転送するなんて、そんな危険なこと……!」


 タロウは激昂し、ミナカタの胸ぐらを掴みかけた。アンドロイドの身体へのマッピングとは訳が違う。生体組織への神経接続は、一歩間違えればデータの全破損、あるいはサナという意識の永遠の「死」を招く。


 「タロウ、落ち着け。……ミナカタ先生の言う通りだ。モデルの『経験』こそが、この肉体に命を吹き込む唯一の触媒なんだ」


 ハヤトがタロウを制するが、タロウの瞳には絶望の色が濃くなっていた。サナを救うために5年を捧げ、ようやく手に入れた平穏。それを、再び「禁忌の実験」に晒すことなど、彼には到底許容できなかった。


 ラボには、死のような沈黙が流れた。モニター上のエラーコードが、命の不在を嘲笑うように、冷たく明滅を繰り返していた。



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