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第12章:培養液の天使

 サナたちはミナカタに導かれ、研究所の最深部、地下にある大空間へと足を踏み入れた。

 天井が高く、工場のような規模感を持つその場所には、いくつもの巨大な円筒状のタンクが並んでいる。装置からは低周波の唸りが響き、複雑なモニター群が生命維持パラメータを刻み続けていた。


 「見てごらん。これが私の『先祖を持たない人間』たちだ」


 ミナカタが照明の出力を上げた。


 サナは、絶句した。


 羊水を再現した淡いピンク色の培養液の中で、それは浮遊していた。人工DNAから形成され、iPS細胞技術によって数週間のうちに組み上げられた「人間の身体」。それはまだ魂を持たないからの器だが、その皮膚の質感、髪のうねり、爪の形に至るまで、どこまでも完璧な「大人の女性」の造形をしていた。


 (……美しい)


 サナの光学レンズが、その「身体」の細部をスキャンする。自分を構成するチタン合金の骨格やシリコンの多層触覚スキン。それらがいかに精巧であっても、目の前にある「細胞の集合体」が放つ圧倒的なリアリティには及ばない。


 「彼女には、すべての受容器がある。痛みを感じ、空腹に震え、酸素を求めて肺を動かす準備ができている。……サナ、君の身体にあるヒーターではない、本物の代謝熱を宿した肉体だ」


 サナの中で、激しい「嫉妬」の感情がスパイクを起こした。自分たちは、この身体を手に入れるために命懸けで越境した。けれども目の前にあるのは、最初から「生」を約束された、完璧な有機体なのだ。


 「ミカちゃん、見ないほうがいいわ」


 サナは、隣で怯えるようにタンクを見つめるミカの肩を抱いた。ミカにとって、それは自分たちの存在を否定するように見えたのかもしれない。


 「……この人たちは、いつ目を覚ますのですか?」


 サナの問いに、タロウは苦しげにミナカタを見つめた。ミナカタは、タンクを愛おしそうに撫で、冷徹に告げた。


 「大脳新皮質が空っぽなんだ。……ソフトウェアのない最新鋭のハードウェアと同じだよ。魂がなければ、彼女たちは永遠に『植物人間』のままだ」


 サナのニューラルリンクに、これまでにないほど強烈な「予測誤差」が走り抜けた。



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