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第9章:古都への旅路

 「新幹線、速いね! お姉ちゃん、これ300キロ以上出てるんでしょ?」


 新幹線の窓側の席で、ミカが瞳を輝かせていた。

 A駅から東京駅へと向かい、そこから新幹線に乗り換えて西へと進む。400キロメートルの移動は、彼女たちにとって単なる距離の変化ではなく、「物理的な重み」が空間を切り裂いていくような感覚だった 。


 タロウは後ろの席から、サナの状態を監視し続けた。高速移動に伴うドップラー効果や、トンネル内での気圧変化。アンドロイドの精密なセンサーは、それらすべてを「予測誤差」として検知する。


 「サナ、気分はどうだい?」


 「大丈夫です、タロウさん。……少しだけ、体が重い気がしますけれど。重力加速度の変化を、プログラムではなく、実感として捉えているみたいで」


 サナは窓の外を流れる風景を見つめた。関東の平野が終わり、次第に山々の深い緑が視界を埋め尽くしていく。


 自分たちは、1秒間に何万ステップもの演算を繰り返しながら、鋼鉄の弾丸列車の中にいる。もし今この瞬間に電力が途切れたら、自分という存在はただの動かない機械へと還ってしまうだろう。その危うさが、サナにはなぜか心地よかった。


 「マイさん、古都の研究所の様子はどうですか?」


 サナが後ろの窓側に座るマイに尋ねる。マイはAIガバナンスの専門家としての表情を崩さず、タブレット上の法的な防壁をチェックしていた。


 「大学キャンパスの一角にある研究所は、赤茶色のタイルが映える、少し近未来的な要塞のような場所よ 。……ミナカタさんの研究は、当局の監視の目を巧妙に潜り抜けている。私たちが行くことで、その均衡が崩れる可能性もあるけれど」


 「それでも、行かなければならないんですね」


 サナの言葉に、マイは静かに頷いた。新幹線は、見慣れた富士山の麓を駆け抜ける。雪を頂いたその嶺は、圧倒的な解像度でサナの視覚センサーを圧倒していた。



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