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エリカ・アジアンタム子爵令嬢(18歳)に起きた出来事  作者: 青木薫


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4.エリカの年度末

お付き合いいただき、どうもありがとうございます!

どうぞよろしくお願いいたします。

 エリカは入所前から研究所に通うようになって、楽しい毎日だったが、彼女の周りはなかなか騒がしくなった。


 それまで学園では『実力のある(地味な)学生』だったのが、卒業した途端に『収益が見込まれる(しかもかなりの)研究成果をもった美しい令嬢』になったのだ。


 彼女にとって不運だったのは、研究所に、侯爵家のとても口の軽い次男がいたことだった。彼は人は悪くないのだが、同じく侯爵家で交流のあるジニアから聞いていたエリカの婚約についての事情を、卒業パーティーの次の日には周りに話していた。


「いやぁ、何だか昨日の学園の卒業パーティーで婚約破棄された令嬢がいたらしいよ。それがさ、ほら、最近研究成果がいくつか商品化された子だっていうんで、研究所うちはその子を引っ張ってこようって必死みたい。まぁ優秀な研究員が路頭に迷うのは良くないよね。婚約破棄されただけあって、地味な子らしいけど」


 その『「地味で華やかさに欠ける、あまり社交的でない、婚約破棄(本当は解消だが)をされた令嬢」が将来に困って予定外に就職してくるらしい』という噂から、勝手に彼女エリカについて想像していた研究所の所員たちは、現れたエリカに驚いた。


 ディルに連れられて研究所を訪れたあの日、エリカはミアたちメイドによって磨き上げられていた。


 彼女によく似合う、シンプルだが彼女の細身の体型を生かす紺色のベロアのワンピースを着て、綺麗に編み込まれた髪はワンピースと同じ色のリボンが結ばれていた。その栗色の髪も香油を馴染ませこれでもかと整えられ、いい香りの上にツヤツヤしている。


 眼鏡を外したことでよく見えるようになった母親譲りの明るいアンバーの瞳は光の加減で金色に輝く。メイドたちがキャアキャア言いながら産毛を処理した肌は滑らかだ。


 そんな、『女神の微笑みの淑女』と呼ばれる母親の美貌を譲り受けながらも自覚に欠けるエリカは相手の決まっていない男性陣ばかりでなく、女性陣からも『やたらと可愛い新入社員がきた!』とすぐに注目の的となった。


 だが、そこは真面目で大人な、そして何よりも研究が好きすぎる研究員たちだ。彼女エリカとは研究の話、仕事の話に明け暮れ、婚約や見た目のことで失礼なことを言う人は殆どいなかった。


 まあ、女性陣からは


「髪いい匂いよね〜どこの香油使ってるの?うちでも開発できないかな。私、香りにアプリコット使いたいのよね」


「研究の時にかけてる眼鏡、もう少しレンズ薄くできるといいわよね。その瞳の色がクリアに見えるように反射も抑えたい!」


「エリカさんはどうして太らないのかしら。一日の運動量調べたいから計測器着けて過ごしてくれないかしら?」


「え、それなら私、エリカさんの食事量と内容も調べたい!」


といった感じで、困らせられることもあったのだが。


 それでも時折、


「ねえ、エリカ嬢、君、決まった人がいないんだろう?もしよければ、僕なんてどうかな」


 そんな不躾な誘いがないわけではなかった。でもエリカは『ありがたいのですが、今は新しい環境と仕事に慣れるので精一杯ですので…』と丁寧に断った。


 冗談めかして誘う割には断られると機嫌が悪くなる先輩もいて、エリカは学園では経験しなかった苦労に驚いたものだった。


中には、


『お高く止まって、あれじゃあ婚約破棄されても仕方がない』


などと悪口を言いふらす者もいたが、既にエリカと接した者はそれを信じることはなく、噂が広まることもなかった。



 その頃、ニゲラは予定通りジニアと婚約した。


 このことは周りは知っていたが、今のエリカに聞かせる必要はないとみんなが判断し、耳に入れるようなことはなかった。それよりもエリカとはやっぱり研究の話をするほうが有意義だと考えたし、実際にエリカと研究の話をするのは彼らにとって楽しいものだった。


 そもそも、わざわざ他人を傷つけたいと思うような暇な人はいなかったし、才能があり且つ努力できる一生懸命なエリカならなおのことだった。そんなわけでエリカは心配していたのが嘘のように年度末を過ごしたのだった。

お読みくださりどうもありがとうございました!

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