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エリカ・アジアンタム子爵令嬢(18歳)に起きた出来事  作者: 青木薫


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2.エリカ、奮起する

2話目となります。

どうぞよろしくお願いいたします。

 学園の卒業パーティーで婚約破棄を言い渡されたエリカ…


 そんなこんなで、昨日のことを思い出して悲しくて悔しくて泣いていたのが冒頭のエリカであったが、当然のことながら徐々に怒りが占める割合が大きくなってきた。


「そうよ!交流も社交も頑張らなかったって、それはニゲラが


『在学中は距離を取り、お互い自分自身の力で学業や人脈作りに励もう』


 って言ったからじゃない!」


 それでもエリカは誕生日や街場の恋人たちの星祭ほしまつりには贈り物を準備してきた。ニゲラからは来なかったけれど。


 時々家に花が届いたらしいけど、こうなるとそれって単に伯爵家からの季節のご挨拶だったのでは?と思ってしまう。


「それに『愛する人』って何よ。私という婚約者がいながら他の人と愛を育んできたってこと?そんなの単なる浮気じゃない!」


 エリカは交流がさして無くてもそれなりにニゲラが好きだった


 時折屋敷で会う時の笑顔やエリカを気遣うような言葉にはドキドキした。


 何せエリカは男性と話す機会がほとんど無かったから。


 それだってニゲラが


「僕はあまり社交にかこつけて異性と距離が近いのはどうかと思うな」


と言っていたから、それもそうだと従っていたのだ。


 ニゲラが嫌がらないよう、目立たぬよう、地味に静かに学園生活を送っていた。


 それが苦労だったかと言われればそうでもなく、気楽で都合が良かった。


 本当はかけなくてもたいして支障のない眼鏡をかけていたのも、彼がお洒落にうつつを抜かすなと言ったからだ。


 レンズのせいで母親譲りの美しい金色の瞳が隠れて地味な色に見えてしまうことにメイドたちは嘆いていたが、エリカは大して気にしていなかった。


 それでも同性の友達はたくさんいる。


 エリカの素直で真面目で優しい人柄や勉強熱心で良い成績を取り続けていることに多くの人が注目していたし、教師陣もまたエリカが卒業してすぐに結婚することには難色を示していたほどだ。



 先生方はよくエリカに声をかけてくれた。


「本当にすぐに家庭に入ってしまうのかい?君の成績ならどこでだってやっていけるよ?


 それにほら、あの研究はどうするの?」



「ありがとうございます、先生。


 でも私はニゲラと共に伯爵家をもり立てるという大切な仕事がありますし、研究は後輩のみんなが頑張ってくれると思いますので!」


「いや、まあ君が良いなら…でも研究は後輩には無理だろ…」


「大丈夫ですよ、彼らはとても努力家ですし!」


「努力だけではどうにもならないこともあるんだがなぁ…」



 特にエリカの努力を評価してくれていたバーベイン先生とのやり取りを思い出し、エリカは考えた。


「結婚もなくなってしまったし、このまま家にいたらお父様やお母様に心配をかけてしまう。


 それにソレルの今後に悪い影響があるかもしれないわ。


 そんなことになったら大変!」


 悲しさはニゲラへの怒りでちょっとだけ薄れ、この先の心配へと変わった。


「こうしてはいられないわ!


 婚約は解消されてしまったのだし、泣いてばかりいてもどうにもならない。


 私はアジアンタム家の長女よ、しっかりしなさい、エリカ!」


 エリカは自分の頬を両手でパチンと叩くと机に向かい、これからの計画を立て始めた。


 次の日の午後。


「お父様、お母様、ちょっとよろしいですか?」


「ああ…って、エ、エリカ、その顔はどうした?」


「まあ…!どれだけ泣いたらそんなに目が腫れるの?すぐに冷やさなくては」


 計画を立てる間も、時々パーティーでの解消劇を嫌でも思い出しては涙していたエリカの目はパンパンで開かないくらいだった。


 エリカだって、さすがに長年の婚約者にいきなり破棄だと言われて泣かずにいられるほど図太くはなかった。深く傷ついたエリカだった。


 ようやく部屋から出てきた娘の酷い顔に慌てた母親の言葉にメイドたちが濡らした布を準備し、冷やしながらの説明となった。


「私、先生方が勧めてくださったように、研究所の試験を受けようと思います」


「研究所って、あの研究所か?」


「はい、総合科学研究所です」


「まあ…変人…いえ、優秀で研究熱心な人達が集う研究所、と聞いているけれど」


「はい、優秀な人ばかりです。


 なのですぐに合格して入れてもらえるかどうかわかりませんが、もしも受け入れていただけたら、雑用でもなんでもやらせてもらえることを頑張ろうと思っています」



「そうか。


 まあ卒業したばかりで勉強のブランクがあるわけでもないからな、働きながら試験の準備をすれば…」


「はい、こうして家にいても先行きが不安ですし、自分にできそうなことは何でもやっておこうと思います」


「そうか。思慮深いお前の考えなら尊重するが、無理はしないでくれよ?


 私達はな、エリカ、お前が幸せならそれでいいんだ。


 なんならずっと家に、私達の側にいればいいんだ」


「そうよ。研究所への就職だって、無理しなくていいのよ?


 確かにここ最近あなたの研究は認められるようになってきたけれど、ああいうのもなかなか大変なのではなくて?」


「お父様、お母様、ありがとうございます。


 ええ、研究に関しては好きでやっていることですので、大変でも楽しいんです。


 それに、それが人のために役立つのならなおのこと。研究半ばものものもありますし、明日にでも学校へ行って先生に相談してこようと思います」


「そうか、くれぐれも無理はしないでくれよ」


「そうね、まずはその目の腫れをなんとかしないと、先生方もびっくりしちゃうわね」


「もう、お母様っ!」


 三人で泣き笑いみたいになっていたら学校から帰ってきた弟のソレルが


「何?三人で楽しそうにしちゃって。僕も仲間に入れてよ!」


と入ってきた。


 夕食時、ソレルによると卒業パーティーでの婚約解消は誰かが聞いていたのだろうそれなりに話題になっているようで、


「僕、随分とみんなから心配されたよ。知らなかったのは僕らだけでニゲラとジニアは学内でだいぶイチャイチャしていたらしい」


「イチャイチャ…」


「子どもがそんな言葉、使わないで、ソレル」


「全く、姉さまも母様も真面目なんだから…。僕、もう16歳なんだけど?


 まあとにかくあの二人の評判は良くないよ。


 僕なんて友達から


 『気の毒ではあるけど、解消して良かったと思うよ?』


 って言われちゃったんだから。


 先生方からもこれから姉さまはどうするつもりかって訊かれたし。心配してた」


「そうなのか。では結婚前にわかって別れることができたのは良かったのかもしれないな」


「そうねえ、結婚ってしてからが長いのだもの。ものは考えようだわね」


「姉さま、明日学園に行くんでしょう?行ったらきっと先生方に歓迎されるよ!


 ああ、僕はこの先、姉さまにもっと似合う人が現れるのが楽しみだなぁ」


「だといいけど。とにかく明日は授業の邪魔にならないようにしなくちゃね」


 家族のお陰で少し心が明るくなったエリカだった。

お読みくださり、ありがとうございました。

次話もどうぞよろしくお願いいたします。

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