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エリカ・アジアンタム子爵令嬢(18歳)に起きた出来事  作者: 青木薫


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1.エリカ、婚約破棄を言い渡される

目にとめていただきありがとうございます。


今年もいろいろ書いていきたいと思います。

どうぞよろしくお願いいたします。


最後まで書き上げていますので、毎日更新してまいります。

 エリカ・アジアンタム子爵令嬢、18歳、は部屋で一人、涙を流していた。


 昨夜の学園の卒業パーティーで婚約者だったムルチコーレ伯爵家嫡男のニゲラから婚約を解消された悲しみに。


 そして、どうしてもっとあの時に言い返さなかったのかと、エリカにしたら急な「婚約破棄」という言葉への驚きとニゲラの勝手な言い分への混乱のせいで、何も言えなかった自分への悔しさに。


 涙はなかなか止まらなかった。


*****


 昨夜。


 煌めく色とりどりの灯りの中、学園の卒業パーティーは始まろうとしていた。


 会場であるホールの入口でエスコートをしてくれるはずのニゲラを待っていたエリカだが、そこに現れたのは婚約者ニゲラ…だけではなかった。


「婚約者として、交流も社交も特に頑張らない、いつも研究漬けで、将来の伯爵夫人としての華やかさにも欠ける君とうまく家をもり立てていく自信がないんだ。


 すまないが婚約は破棄だ」


「えっ?それはどういう…(今ここでする話?しかも破棄って何?言うなら解消でしょ?)」


「そう、僕はやっぱり僕を愛してくれる人と幸せになりたいんだ。潤っているうちが君のところと縁付くのに大して利もないし」


「えっ、だって…(あなたから申し込まれた縁談だったけど?)」


「父にはもう話してあるから、明日にでも君の家に連絡がいくと思う。では」


「悪く思わないでねエリカさん、でも伯爵家の夫人になるのにそれじゃあ…」


 卒業パーティーでニゲラの隣に立って彼の腕をとっていたのはジニア・ジギタリス侯爵令嬢だった。


 何故か在学中に学園で何かとエリカを小馬鹿にする態度を取り、ニゲラとの距離を詰めていた彼女はエリカの頭の天辺から足の先まで見てクスリと笑って言った。


「ありふれた栗色の髪、薄い茶色の目、それさえはっきり見えなくする眼鏡…


 そしてそのドレス…子爵家で分不相応に豪華なのも感心しないけど、あまりにもみすぼらしいのではなくて?


 婚約者のニゲラがかわいそうよ。せめて今日くらいその眼鏡…まあ…もう関係なかったわね」


 エリカのドレスだって今日のために両親が準備してくれたものではあったが、まだ学生の身分だ、そこまで豪華なものではない。それに比べれば確かに、ジニアの着ているドレスは驚くほど美しい生地にキラキラと光る加工がされている。


 それはごく最近確立された技術で、高位貴族の間で流行し始めた最新のものだ。


 特殊な光る粒子を混ぜたインクで柄が印刷されている。高価でとてもじゃないが学生がぽんと買えるようなものではない。ジニアはそれを準備できるほど家が豊かだということだ。きっと侯爵家で大事に大事にされているのだろう。


 長身に金髪に青い瞳と揃って美しい二人は手を取り合ってダンスに行ってしまった。


 大声で宣言されたわけでもなく楽しいパーティーの賑やかな雰囲気の中だった…いや会場内ですらなかった…ので、人目を引くこともなく終わった婚約解消劇だった。


 会場は開発されたばかりの熱を伴わない灯りが音楽に合わせてゆっくりと色を変え、参加者たちのお祝いムードを盛り上げていた。エリカの目の前は真っ暗だったが。


 エリカの周りにいたほんの数名は


『おい、あれって…』


『エリカってあの…』


 とヒソヒソ呟いたが、相手は伯爵家のニゲラと侯爵家のジニアだ、騒ぎを起こすこともできず静かにパーティーに参加していった。


 呆然とするエリカはしばらくその場に立ちすくんでいたが、会場内で学長や生徒会長の挨拶に続き、最優秀賞のディル・ウッドラフ公爵令息の挨拶が終わった頃には我に返り、急いで会場を後にした。もちろん一人きりで迎えの馬車に乗って。


 御者はお嬢様の早い帰宅に驚いたようだったが余計なことは訊かず、揺れのない滑らかな走りで屋敷まで馬車を走らせた。


 エリカの心とは裏腹に、空には星が美しく輝いていた。


 もっとも衝撃を受けたエリカがそれを見上げることはなかった。


 実のところ、パーティーでは後でエリカと話したいと思っていた者も少なくなかったのだが、彼らがエリカを探し始めた時には既に彼女は会場を去っていた。


 そして事情を知っている数名は彼女を探している者たちに先程の事件について話して聞かせた。なんとも酷いことだと同情をもって。


 さて、家に帰ったエリカはすぐに両親に婚約解消のことを告げた。


 両親は憤慨したが、明日には知らせが来ると知り、


「こちらが子爵家だと思って見くびって。このままでは済まさん!」


「そうよ、そもそもはあっちからの申し入れだったのに!うちの可愛いエリカになんてことを!」


「姉さま、この仕返しは僕がきっと!!」


と2歳年下の可愛い弟のソレルまでカンカンになってくれた。


「ありがとう…迷惑をかけてしまってごめんなさい」


 今後の評判などを考えエリカが謝ると、三人共そんなことを気にする必要はないから、ゆっくり休むようにと慰めてくれた。


 一夜明けての今日。


 ムルチコーレ家からはしっかり書類が届き、婚約はあっけないほど簡単に解消された。


 本当は相手の有責になるところだけれど、


 家格やらいろいろな理由があるのだろう、怒ってくれた父親の気持ちも虚しく、解消という形になった。


 ムルチコーレ家は伯爵家の中でもかなり裕福な方だが、さらに格上の侯爵家からの嫁入りを大歓迎するに違いない。ニゲラもあれでなかなか成績は良いし、見た目も良いしで、昨日も似合いの二人ではあった。


 だからと言って、はいそうですかとはならないのは当然で。


 エリカの父はサインの時に力を入れすぎてペンを折ってしまった。


 いつもは穏やかな父が内心怒り狂っていることがわかり、エリカは自分を思う父の気持ちを嬉しく感じるのと同時に、申し訳なくて仕方がなかった。


 社交界で『女神の微笑みの淑女』と呼ばれている母親も今日ばかりは表情を無くし、整ったその顔で氷点下の視線を使者に向けていた。


 使者は父親のサインを待つ間、縮こまっていた。


 しかし、当主が来ることもなくそれなりの慰謝料のみで解消された婚約は相手にとって特に大事ではなかったということなのだろう。


 確かに婚約が結ばれたのも、小さい頃に、別の家のお茶会でニゲラがエリカを気に入ったという理由だったのだから。


 あの時はエリカも両親も驚いた。


 ニゲラがエリカに会った途端、『可愛い!この子と絶対に結婚する!』と宣言したのだから。


 ムルチコーレ家が裕福であったこと、またニゲラが子どもの頃から美しい子で人気があったため、他の家の女の子たちは


 『どうしてあの子と』


 『もっと可愛い子だっているのに』


 『子爵家じゃない』


 と散々な言われようだった。それは大きくなってからも続いた。


 だからこそ真面目なエリカはニゲラに、伯爵家に見合う人間になろうと努力し続けてきたのだ。


 努力するうちに少しばかり研究に没頭しがちではあったが、それでも勉強に人脈作りに励んだ。だがそれは徒労に終わった。

お読みくださりどうもありがとうございます。


皆様は18歳ってどんな感じだったか、覚えていますか?

自分は呆れるほど子どもでしたし、思い返すと穴を掘りたくなります。


少しずつ成長する、それでもまだまだ未熟なエリカの人生の一部分を切り取って書ければと思いました。

毎朝6時に更新予定、それほど長くありませんのでお付き合いいただければ幸いです。

どうぞよろしくお願いいたします。

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