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00:すれ違い

ねぇ、ソフィア。

私がこの世界に来て、右も左もわからなくて。

毎日毎日、心細かったとき。


あなたの笑顔に、とても勇気づけられたんだ。

あなたの優しさが、私に力をくれたんだよ。


いつも私を助けてくれた。

知らないことも、嫌な顔一つせず教えてくれた。


時にはのんびりお茶をしながらおしゃべりして。

「誰がかっこいい」とか「何が流行ってる」とか、くだらない話もたくさんして。


好きな物語もたくさん教えてくれたね。

素敵なお話を一緒に読んで、感想を語り合って。

夜更かしして、次の日の寝坊は二人ともいっしょに怒られたりして。


そのひとつひとつが、私にはかけがえのない時間だったよ。


だから、今度は私の番だね。

あなたが悩んでいるなら、力になりたい。


頼りないかもしれないけど、精一杯がんばるから。

また一緒におしゃべりしようね。また一緒にたくさん笑おうね。


ソフィアの幸せを、心から願ってるよ。





ドスッ…ドスッ…


魔力を固めて具現化した鈍器を、少女は何度も何度も振り下ろす。振り下ろすたびに血が飛び散って、床も、壁も、少女も汚した。絨毯は本来の淡い色を失い、どす黒い血の海に沈んでいる。

月明かりだけが差し込む部屋の中。少女は、なおも一心不乱に“それ”を殴り続けた。まるで何かにとりつかれているかのように。


鈍器を握る手に、もはや感覚はない。

感覚など感じる暇があっては、きっと彼女は殴り続けられなかった。自分のしていることが正しいと、信じていたかったから。


「な…んで…」


呻くように“それ” が呟く。その声にピクッと反応し、少女は動きを止めた。振り下ろす直前の恰好で、魔法にかかったかのように動けなくなってしまった。

“それ” はすでに身体の感覚を失っており、首すら持ち上げることができなかった。それでもなんとか視線だけ動かし、少女の顔を見ようとする。

だが少女の顔には影が落ち、表情は読み取れない。わかったのは、悲しみに歪んだ口元と、二筋の水の流れた跡が月の光に反射したことだけだった。


「ごめ…ん、ね。わ…たし……」

「ッ!?」


“それ” が絞り出した言葉に、少女は明らかに動揺した。謝罪を意味するその言葉は、しかし少女をさらに追い詰める。

鈍器を握る手に、一層力が入った。止まっていた腕を激情のままさらに振り上げ、


「貴女はどうして、こんなにも私に優しいのですか」


言い終わると同時に、“それ”めがけて振り下ろした。“それ” は今度こそ沈黙し、ピクリとも動かなくなった。


静寂が訪れた。

少女は静かに、動かなくなった“それ”を見つめ続けている。


部屋に残されたのは、鈍器を手に涙を流す少女と、先ほどまで人だった肉の塊。

そして二人の様子を部屋の片隅で見守っていた、下品な微笑みを携えた女だけだった。

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