君の最期を。
「……すん、すんっ。ふう、……よし」
やっと、涙が収まって目元がヒリヒリするようになったから。よいしょ、と立ち上がっては、机の日記を手に取った。
ペラペラリ。パラッ。
『センパイへ』
なーに。
『センパイ、そう言えばオレの下の名前のケイってやつ、どんな漢字で書くの? て結構うざかったすよね?』
お前が言うな。
『実はあれ恥ずかしくて言えなくかったんですよね。母さんが恵美って書いてめぐみって読むんすけど、そこから恵をとってオレは春野恵、恵をケイと読むんです。女子みたいじゃん、可愛いーって言われそうでいやだったんですけどー、』
ふーん、それで?
『えーと、それで終わりです。すみません。』
終わりかよ! なんだよ、まったくもー。
次のページを捲って、ようやく、白紙になって。もう、終わりか。
そう、寂しさをまた、覚えてしまった時。
さらにページをめくると、
『追伸』
……ん?
『やっぱ、付け足し。センパイ、こんなグダグダで悪いんですけど、本当は、先輩を最期まで幸せにしたかった。出会った時のようなぶすっとふてくされた顔も、見ていて癒やされるほがらかな笑顔も、どんなセンパイも大好きで、どの未来のセンパイと過ごすのも凄い幸せだった。……でも、オレが事故やら病気やらで死ぬとセンパイは、加害者に酷い報復をしたり、オレの後を追って自殺してしまった。センパイには、オレの家に来るまで酷いショックを受けていなければ、なにかしらの悲劇が起こってしまって……。』
そう……。だからって酷いよ、ケイくん。
『センパイがこの家に来るまでのこと見てました。色んな悲しい未来のセンパイを見て来たあとだと、きっと少しばかりの時間が必要だったんだなって。考える時間が必要だったんだろうなって。他にもセンパイのために、なにかしらの工夫があったかもしれません。でも、悲しい運命から遠ざける未来がこれしか見えなかった。もっと時間があれば、違う道を見つけられたかもしれないけれど。……でも確実にセンパイを普通の人生に導くにはこれしかなかった。…………ごめんなさい』
あんまりだよ、あんまりだよそんなの。ケイくんは悪くない……っ。こんな未来を、運命を決めた神さまが悪い……っ。
ひどい、許せない、いつだって神さまっていうやつは気まぐれだ。……でも神さまだって、その人の人生を用意してるだけで、その人の描く未来は決めてないのかもしれない。
やっぱり、悪いのは『高木柊』だ。
『でも、でも、オレは死ぬ事になっちゃったけど、……てか死んでるか。オレはそういう道しか辿れなかったけど、センパイは大丈夫。謝らないで、きっとあなたは今、オレにごめんなさいって謝罪してるんでしょ? 罪悪感を感じてるんでしょ? 大丈夫、センパイは悪くない。みんな悪くないよ。そうなっちゃっただけ。だから前を見て。空を見上げて。あなたの未来だけは、一通り見れたんだ。どんな未来も、みーんな幸せな人生を歩めてるからさ。心配しないでよ。もう、謝らないで。』
ひどい、ひどい人。私の未来を勝手に見透かして、心まで読んで。勝手に先に逝くなんて。
ごめんなさい、もうケイくんに謝るのはやめる。その代わり、あなたには、これからずっとありがとうって、お礼を言わせて。
『センパイ。もうあなたなら大丈夫。きっと、あなたが想像する幸せな人生を歩めるよ。だから、オレから最期に質問させて。今のセンパイはどんなセンパイですか? オレが見てきた暗かったセンパイですか? オレが未来を視て安心した、明るくて優しいセンパイですか? きっと、もう答えは決まってますよね。オレ、がんばりましたから。今のあなたなら大丈夫。これからを幸せに生きられる。やれる。やれる。やれるはずさ。オレが保証しますよ。あなたが死んだ先で不幸だったよー、ぴえーんなんて言うのならオレが叱りますから。そうなる前にオレが支えて、見届けますから。』
……ありがとう。春野恵くん。
『がんばれ!!!』
最後のひとページででっかく、そう走り書きされていて。
それを見ただけで、私はもう、大丈夫。
私は、孤独な『高木柊』ではない。醜い化け物の花に蝕まれる、要らない、つまらない、『高木柊』ではない。
そんな花を、食い千切ってでも生きようとする、幸せになって、誰かを幸せにする『高木柊』だ。
今の私なら大丈夫、大丈夫。
私は知っている、君の最期を。
私は知っている、君の全てを。
もう、大丈夫。
もし、これを見てるもう一人の『私』がいるのなら伝えたい。
もう大丈夫だよ、……って。
最後までお読み頂きありがとうございます…!
彼女たちの、彼らの純愛を見届けて頂き、作者として冥利に尽きます…!
あの子達の人生を見て、読者のあなたはもう大丈夫なのか、大丈夫じゃなくても、高木柊は大丈夫と言ってくれます…!
もう大丈夫なら、更に後押ししてくれるし、大丈夫じゃなかったら、慰めてくれるでしょう。
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