転生したらスケルトンでした…って、生きてない!
異世界転生っていったら、目が覚めたら見たこともない豪華なベッドで寝ていて、鏡には美女が映ってる……これが私? ってなるものじゃないの?
目覚めたら薄暗く、むき出しの地面で壁も土。スケルトンや大ガラス、コウモリ、角の生えた熊なんかの魔獣が跋扈する洞窟だった。手には古びたやたら豪華な飾りのついた剣を持ってるけど、戦い方も分からない。
魔物たちを避けて、こそこそとしていた。魔物は私に気づいても襲ってこない。湖を見つけて水を飲もうとした時、理由が理解できたわ。
水面に映るのは骨。スケルトンだった。
どうりでお腹が空かないし、喉も渇かないと思ったわよ。飲み食いしなくていいわけね……。転生? 転生なの? 生きてないのに転生なの……?
元の私は日本人だった。人間と会いたい、話したい……。しかし呼吸する器官もない。口を開けてもカクカクと音がするだけで、声すら出せない。そもそも人間に遭遇したら、退治されるんだよね……。切ない。
スケルトン仲間と意志疎通ができないか考え、名前をつけて呼んでみたりした。ノブナガ、ヨシヒロ、イットウサイ、ヒミコ……。お前はヒサヒデね。言葉が喋れないので心で呼び、握手を試みたりジェスチャーで表現してみたり、コミュニケーションを取ろうとした。
全て徒労に終わったわ。
無駄な努力を続け、どのくらい時間が経過したのか。その日はいつになく騒がしかった。
大ガラスがグギャーグギャーと騒ぎながら飛んでいく。ヒマだったし、好奇心で魔物が集まる方へ向かってみると、なんと戦闘が繰り広げられていた。
人だ! 人間だ!
冒険者パーティーとか、そんなのだろうか。女性二人と男性二人のグループだわ。どんどんと魔物を倒している。私はどっちを応援したらいいんだろう。
眺めているうちに、女性が一人、熊の魔獣にすっ飛ばされて壁に激突した。そのまま地面に倒れたところを、スケルトンが剣でとどめを刺す。
あー、死んじゃった。
「レイリン! すぐに復活を唱えるわ!」
聖女っぽい衣装の女性が叫び、杖をそちらに向ける。
リザレクション!? もしかして、生き返れるの? 私も肉体が持てるかしら!
考えるより先に体が飛び出していた。
レイリンと呼ばれた、倒れている女性の前に立ちはだかる。ちょうど唱えられたリザレクションの光が、私の体を包んだ。
「きゃああー! リザレクションを骸骨にいいいぃ!!!」
「落ち着け、アシュリー。アンデッドには効果はない、回復アイテムを使ってもう一度唱える……んだ???」
唱えた女性、アシュリーを宥めようとした男性の言葉が、疑問形になる。
体が熱くなって、なんだか重くなったような。自身の鼓動や、呼吸音を感じた。
「えええ? アンデッドが、ひ、人に……?」
アシュリーの杖を持つ手が、震えている。
「リザレクションは死後すぐ使わないと効果がないはず……、しかもあの姿は……」
「女王陛下にどことなく似ていらっしゃるような……?」
魔法使いのローブを着た男性が、眼鏡を治しながら私をつぶさに観察している。
どうやら人間に戻れたみたい!
やってみるもんねえ。頭を触ると髪があるわ! 長い髪を梳って、指の間を流れ落ちる束を見た。綺麗な黒髪だ。前世と同じかぁ。異世界なのに、変わった色じゃなくて残念。
「うー、あー。喋れる! やったあ、ありがとう! 助かったわ。気がついたらスケルトンになってたの、あなたたちのお陰で文字通り生き返ったわ!」
声も出る! 私は戦意がないと示す為、剣を投げ捨てて両手を軽く挙げた。
地面に転がった剣を魔法使いの男性が拾い上げて、目を大きく見開く。
「これは……王家の紋章が刻まれています! 女王陛下の妹君、マーセイディズ・シンフィールド様が行方不明になられた時に共に紛失されたとされる、王家の剣ですよ!」
「母上の……妹? と言うことは、私の叔母上ということか!??」
叔母……? 私ってば叔母さんなの? 女王陛下の息子ってことは、王子様。その叔母。女王陛下の妹……?
待って、この名前や設定、聞いたことがあるわ。
「聖女と黄昏の国」じゃない!
十六歳で行方不明になった女王の妹の呪いが蝕む国を、聖女でヒロインのアシュリー・ハクサムが救うゲーム。てことはここは、トゥルーエンドの為のラストダンジョン?
ここで呪いの原因となっている、女王の妹の悪霊を退治すると、王子ブランドンとヒロインのアシュリーが結ばれるの。ヒロインは聖女だけど平民出身だから、この功績がないと王子とは結ばれないのよね。
ちなみに他のキャラとのエンディングなら、このラストダンジョンはクリアしなくても、学園を卒業すれば自動的に迎えられる。ただし、呪いによる瘴気を放置しすぎると、国が崩壊するバッドエンドになっちゃうのよ。
もうゲームも終盤かあ。
で、倒されるはずの私が生き返ったって、どうなるんだろ? まさか、国の呪いを解くために倒されるわけじゃないわよね……?
「アシュリー、早くレイリンを蘇生させなきゃ」
「そうだったよね、ウォーレン。手遅れになる前に……!」
アシュリーは回復アイテムを飲んで、再びリザレクションを唱えた。すぐに体が光って、女剣士レイリン・シューブリッジが起き上がる。
リザレクションはMPの消費が激しいから、MP回復アイテムがないと一回しか唱えられないの。
無事に復活し、喜び合う四人。
この先どうしたらいいか分からず、ぼけっと眺めていたら、四人が一緒にダンジョンを脱出しようと誘ってくれた。
疲労困憊な私たちに襲いくる魔物を、私が倒したわ。現実になると、クリアしたらエンディングじゃないんだな~。生前の剣技を体が覚えていて、古めかしい剣を使ってもかなり強かった。
ついに洞窟を抜け出したわ! 日差しが眩しい、灰になりそう。
住んでたはずの国も町も、ほとんど記憶にない。むしろ前世の日本と重なって、かなりの違和感を感じてしまう。本当にここで生きていたのかな……。
その後は目まぐるしかった。
女王の妹マーセイディズ・シンフィールド本人なのか、神官だの乳母だの、宰相や当時を知る貴族と面会し、いくつも質問をされた。まるで政治家のように、「記憶にございません」と答え続けた。
唯一記憶にある人物は、宰相だけ。ゲームで女王陛下に会いに行った時に、よく見たグラフィックそのままの姿だわ。ただ宰相だけ覚えているのも不自然なので、知らない振りをしておいた。
魔法塔では、リザレクションが骸骨を復活させることが可能かの検証が行われた。
リザレクションは、一定時間以内に死んだ者を復活させる神聖魔法。肉体と魂が離れる前に、魂を体に戻して再びリンクを繋げることによって、生き返らせるらしい。魂が肉体……いや肉はなかったんだけど、まあ体の側にいたので復活できた、という結論になった。
ちなみに他のスケルトンにもリザレクションの使用実験がされたが、復活はしなかったそうだ。私が転生者なのと関係あるのかな。
難しい話はどうでもいいわ。今は王城の客室に住んでいる。元がスケルトンだったもので、護衛という名の監視つきで。なお両親は死亡、姉である女王とはまだ会えていない。危険だと止める声が多いらしい。
いつまでこの暮らしができるか分からないので、美味しいものをたくさん頂いちゃうよ。
「失礼します、マーセイディズ様」
「どうぞ」
「お加減はいかがですか?」
「快適よ。過去は全然思い出せないけど」
リザレクションを使ったヒロインのアシュリー・ハクサムが、私の見舞いに来てくれた。彼女は担当医みたいな感じだ。
「記憶は戻られないんですね……」
「長い間、骸骨だった後遺症かしらね」
骸骨だった期間は二十年。姉との年齢差の分だけ、骸骨だった。こんな私に姉が会いたくないのも理解できる。お金でももらって旅に出ようかな……。
アシュリーは王太子妃になるらしい。私は退治されなかったが国の呪いは解かれ、平和になったからだとか。トゥルーエンド確定ね。
ただ、ゲームの中でもなぜ私がダンジョンで死んだのかは、説明されていなかった。勝手に挑んだのか、殺人犯が潜んでいるのか……。アシュリーが出て行ってから考え込んでいたら、また訪問者が。
宰相だわ。グレーの髪をオールバックにしている。
「失礼します、マーセイディズ様。この暮らしには慣れましたか?」
「まあなんとなーく。で、何か用?」
「……実は、内密の話がありまして。今晩月が中天にかかる頃、バラ園へ来ていただけますか?」
「いいわよ」
元スケルトンだからか、太陽より月光が好きだ。月光浴のついでだし、私は快諾した。
食事とお風呂を済ませてそっと抜け出し、バラ園へ足を向ける。盛りが過ぎて花びらが散り、枯れかけの花が仄かな月明かりに姿を晒している。
「……やはりいらっしゃいましたね」
「そりゃ呼ばれたから……」
「面通しの反応で、すぐに分かりましたよ。殿下は私を覚えていて、知らない振りをしているのだと」
ゲームで知ってたって言えなかっただけなのよ。呼び出しまでして確かめる? 誤魔化せる雰囲気でもないし、適当に相づちを打っておこう。
「……まあね」
「……さすがに自分を殺した相手を忘れないものですね。あなたに顔の割れていない者を刺客に使ったのに、聡明なあなたの目は誤魔化せなかったのでしょう」
殺した? 自分からダンジョンに挑んだんじゃなかったのね?
私は肯定も否定もせず、次の言葉を待った。
「あなたの執念も大したものだ。まさかスケルトンになり、復活まで果たすとは……」
「……私を殺した目的は、なんなの?」
遠回りな話が続きそう。単刀直入に尋ねた。
「それが聞きたくて、死にきれなかったんでしょうね。……貴女は優秀すぎたのです。女王陛下の即位を脅かすほどに。ですから私が災いの根を絶ったまで」
つまり、姉が女王になる邪魔だからダンジョンで殺したと……?
私は女王の座を望んでいたんだろうか。今となっては、もう確かめる術もない。
「それを私に話すってことは……」
「今度こそ確実に、死んでいただきます。出ろ!」
なんとバラ園には宰相の手の者がたくさん潜んでいた。
私の武器は、護身用にいつも身に付けている短剣だけ! 護衛にも知られないように来ちゃったよ、失敗したわ。無駄に有能な自分が憎い。多勢に無勢だ。逃げようとしても、完全に包囲されていた。
「見上げた愛国心ね、宰相!」
「これで最後だ。なんとでも言うがいい!」
宰相の手下が襲いかかる。バラ園に血を残したら、所業がバレそうのに。それだけ切羽詰まっているのか、揉み消す自身があるのかね。
「誰かー! 来てー!!!」
私は叫びながら敵の剣を受け、なんとか防いだ。別の相手の剣が、二の腕を掠める。ひいい、一気には無理!
「うわあああ!」
包囲網の一角で叫び声がした。気付いて助けに来てくれた人がいるのね!
希望が湧いたわ! せっかく生き返ったんだし、生きるんだ!
助けてくれたのは誰か……。私の瞳に写るのは、スケルトンだった。骸骨仲間が洞窟を出て、助けてくれた……!??
「なぜここにスケルトンが!??」
「こっちからも来た!!!」
「ミツヒデ、カツイエ、イモコ!」
みんなが来てくれたわ! スケルトンはザッシュザシュと、無慈悲に人を倒していく。友情って素晴らしい!
形勢逆転したところに、新手が登場した。
敵か味方か……、あれは近衛兵の肩章だわ。近衛兵を引き連れているのは、三十代半ばの女性。
「……宰相、あなたを信じていたのに……」
月明かりの夜に沈む、黒い長い髪。私とどことなく似ていて、年は親子ほど離れている。姉である女王陛下に違いない!
「女王陛下! 私は陛下の為にしたのです。マーセイディズ様は優秀で、貴族の間でもどちらが即位すべきか、意見が分断されていました。あのままでは内乱が勃発した恐れもあります。しかし王族としての気質と気品を備えていた陛下こそ、女王に相応しいお方でした!」
宰相は私を始末するべきだと、女王に訴えかける。女王はふるふると肩をふるわせた。
「……マーセイディズは、わたくしの大事な妹です! 彼女は私の助けになると誓ってくれていました。わたくしの剣となるべく、ダンジョンを攻略すると言っていたのです。その想いを利用して妹を死に追いやったあなたを、どうして許せましょう……!」
「私は陛下を女王にするために、何でもする所存です。陛下の許しさえも要りませぬ!」
女王の言葉にも、宰相は揺るがない。近衛兵はスケルトンと宰相の手下、どっちと戦えばいいのか困惑気味だ。
「あなたが私を誰より想ってくれていたのは、気づいていました。あなたを疑いたくはなかった……、この気持ちが事件の解決を遅らせてしまったのね。ですが蘇ったマーセイディズが、あなたを見た時の反応で確信しましたわ。彼女は他の全てを忘れても、自身を死に追いやったあなたを覚えていると! そして今も、許してはいないのだと……!」
二人とも私の知らない私を読み解いてるゥ! 妄想が逞しすぎるわ!
私はただ、「あー、ゲームではこの人がいる時は、女王は不在ですって会わせてもらえないんだよな~」って、思い出してただけだから!
っていうか、女王はどこかから私を見てたの? 全然気づかなかったよ。
「あ、スケルトンは私の味方です!!!」
危なく近衛兵に倒されるところだったので、攻撃しないようにお願いした。
あとは人間に任せましょう。私はスケルトンたちに、下がるように呼びかけた。なんとなーく伝わるような、そうでもないような。
私の言葉が理解できたのか、スケルトンはカクカクと口を動かし、闇にそっと消えていった。ありがとう、みんなー!
スケルトンを見送りつつ、近衛兵が宰相一味を捕えるのを高みの見物していた。
いつの間にか王である姉が隣に立って、泣きそうな瞳で私を見ている。
「マーセイディズ……、まさかまた会えるなんて」
「……女王陛下、私は本当に自分が誰かも覚えていないんです」
切なそうな彼女に、下手な嘘はつけない。本当に妹なのかも分からず、悔しいような悲しいような気持ちがあふれる。
「あなたは私の妹のマーセイディズよ。いなくなった時の姿、そのままなのよ。あなたを失って、父と母がどれだけ嘆いたか……。心を弱くされて、病に負けてしまったのね。数年で崩御されたの。あなたの呪いだと騒ぐ人もいたけど、私の妹はそんな人間じゃないと知っていたわ」
女王は私を優しく抱き締めて、確かめるように背中を撫でた。頬から涙がこぼれ落ちる。
「……宰相は、どうして私を殺す選択をしたんでしょう」
両親が悲しむのだって分かってただろうし、即位なんてまだ後の話だったのに。十六歳だよ、日本なら高校生よ。
「そうね、十六歳と言えばお父様が立太子された年齢だったの。それで焦ったのね……」
なるほど、指名される前に片付けたかったのか。そんな時に、私が呑気にダンジョンに挑んじゃったから、今だと思っちゃったのかな……。
……いやいや、同情できないわ。
その後、私は女王陛下の妹と認められたが、二十年前の姿のまま公に出られるわけもなく。表向きは行方不明のままになった。
身元引き受け人として、魔法使いウォーレンの実家であるリネカー公爵家の養女となり、貴族令嬢としての必要な知識やマナーを教わっている。この世界についてはゲーム知識しかないから、ちゃんと知っておかないとね……。
宰相は死罪。本来なら反逆罪は一族に類が及ぶのだが、今回は恩情が与えられた。罰がないわけではない。女王陛下は宰相の奥さんとも親しかったらしいし、辛いだろうな。
王子ブランドンと聖女アシュリーの婚約は大々的に公表され、国はお祭りムードになっている。二人は幸せそう。
女剣士レイリンとは仲良くなって、たまに一緒に稽古をしているよ。
魔法使いウォーレンはスケルトンから甦った私に興味を持ち、スケルトン時代の話ばかり聞きたがった。研究対象として、見られてるような……。
ちなみにスケルトン達は、今もダンジョンで平和に暮らしている。私がダンジョンに行くと集まってきて、楽しそうにカタカタ顎を鳴らすようになった。すっかり友達感覚だわ。スケルトン軍団を作るのもいいかもなあ。
ま、そんなわけでクリア後のゲーム世界でぼちぼち暮らしているよ。
城にも慣れたし、次は色々な町を訪ねるのが目標! 楽しみだなあ。
お読み頂き、ありがとうございます!
カクヨムの短編コンテストの、お題「骨」で書いた作品です。
少しでも楽しんで頂けたら幸いです。