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数日後の金曜日。優志が退勤後に歩いていると、若い男3人が優志に因縁をつけてきた。
「お前が白坂優志か?」
暗がりで顔はわからないけれど、うち1人は声で葵唯のキッチンカーに押しかけてきた元同期の寺井だと優志は悟る。
「そうですけど何か?」
優志が言うと、寺井は
「お前がいなければ俺と葵唯は恋人になれたんだ! お前なんか死んで消えろ!」
と言って優志を殴った。1人が優志の身体を押さえつけ、寺井ともう1人で優志に殴る蹴るなどの暴行を加える。
「何あれ、喧嘩?」
「やばーい」
「男の人が殴られてる……!」
「誰か警察か救急車呼んで!」
「AED持ってきて!」
「医療従事者の方いますか?」
周りからはそういった声が聞こえた。しかし優志の口からは血の味がして、殴られたショックや痛みもあり、周りを見る余裕すらない。そのまま優志は意識を失い、救急搬送された。
その頃葵唯はメロンパン販売の仕事を終え、テレビをつける。するとニュース速報で、「20代男性が殴られ意識不明の重体」と内容が取り扱われていた。
「え、しかも大阪とか……。怖すぎ……」
葵唯は最初はどこか他人事だったけれど、テロップで
【重体】会社員 白坂優志さん(24)
と流れた瞬間、頭が真っ白になる。このまま優志くんは死んでしまうのだろうか。そんなことが脳裏をよぎった。
【逮捕】無職 寺井隆容疑者(27)
アルバイト 男(19)
無職 少年(17)
というテロップが流れ、やはり優志を殴った犯人は寺井だったのかと思うと、葵唯は怒りが治らなかった。それと同時に、最初に押しかけてきた時点で通報していたら優志は無事だったのだろうかと、自分を責める。
葵唯のiPhoneに知らない番号から電話があり、出たら男性警察官からだった。
「雪代葵唯さんの連絡先でお間違いないでしょうか。私、大阪府警中央署の垣内と申します。白坂優志さんの件ですが、白坂さんはいま秀英病院にて治療を受けています」
「そうですか……。わかりました、すぐ病院に向かいます」
葵唯はそう言って電話を切り、秀英病院に向かう。とにかく優志くんが無事ならそれで良い。葵唯は優志の無事を祈る気持ちでいっぱいだ。
葵唯が病院に着くと、すでに友人男女数名と家族がいた。全員が優志は無事だろうかと不安そうな表情をしており、中には涙を流している者もいる。優志の友人男女には、高校の同級生で会社員の目黒涼真・小学校講師の柏木龍志・フリーランスでwebデザイナーをしている岩永奈々(いわながなな)と、大学の同期でいずれも会社員の小西健と塚越秀明がいた。