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火曜日は葵唯のキッチンカーが来る日だ。この日は秀樹が有給休暇で不在なので、優志は1人でキッチンカーに行くことになる。昼休み開始のチャイムと同時にダッシュでキッチンカーに向かい、列に並んだ。優志の前に何人か並んでいたけれど、タイミングが良かったのもありそこまでの大行列ではなかった。
「雪代さん、お疲れ様です!」
優志は葵唯に対し開口一番にそう声をかけ、前回秀樹が食べていたチョコ入りメロンパンを注文する。抹茶メロンパンとは違ったおいしさがチョコ入りメロンパンにはあった。あまり葵唯と言葉を交わすことはできなかったものの、優志はそれでも満足げに会社に戻る。
翌日、秀樹が出社してきた。秀樹も優志より後に葵唯のキッチンカーでメロンパンを買って帰ったそう。それも前回優志が食べた抹茶メロンパンを。
「前に白坂くんが買ってた抹茶のやつにしたんだけど、抹茶もなかなかおいしかったよ」
秀樹が言うと、優志も
「僕も昨日チョコ入りのやつ買ったんですけど、あれはあれでうまかったです」
と感想を語る。葵唯といい感じであることは内緒にしたかったけれど、秀樹になら言っても問題ないかと優志は考えた。
昼休み、優志は葵唯とLINEを交換した経緯を秀樹に語る。
「あの美人な店長さんとLINE交換?」
秀樹は驚いていた。身近な者が美人店長とLINE交換していると知ると、驚くのも無理はない。
「クレーマーのオッサンに怒鳴られて泣いてたんで、ハンカチ差し出したんです。それがきっかけでLINEするようになって、次は水族館に行こうと話してて」
優志が葵唯との進捗を話すと、秀樹は「そうか、白坂くんもうまくいくといいな」と言ってくれた。
*
いよいよ日曜日。優志と葵唯は水族館に向かった。多くの人で賑わっていたものの、幻想的な雰囲気に2人とも魅了されていく。館内を歩き回った後はペンギンショーを見に行ったけれど、ペンギンを見て少女のようにはしゃぐ葵唯を見て優志はどんどん惹かれていった。
夜は個室居酒屋でご飯を食べる。お酒が入っていることもあり、葵唯はキッチンカーでのメロンパン販売を始めたきっかけを語り始めた。
24歳の時に高校時代から交際していた2歳上の先輩男性・植村航と婚約破棄し、航から受け取った慰謝料300万を起業資金に充てたのだという。しかも航は「好きな女ができた」という内容の書き置きを残して家を出たらしい。
「そんなことがあったんですね……」
優志はかける言葉が見つからず、これ以上は何も言えなかった。それと同時に、俺なら雪代さんにこんな思いはさせないのにと思う。個室居酒屋でお互いの深い話をし、3回目のデートの約束も取り付けた。