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やりとりを聞いていたので、優志は売り切れだということは承知していた。それでも女性店長の様子が気になってしまい、キッチンカーに「すみません……」と近づく。
「ごめんなさい、いま売り切れで……」
女性店長は優志の顔を見て言ったけれど、ぽろぽろと涙を流していた。優志は驚き、
「大丈夫ですか? 良かったらこれ使ってください!」
とハンカチを差し出す。さっきのオッサンが原因だなと優志は悟った。
ベンチに移動し、優志はひと通り女性店長から話を聞く。落ち着いたタイミングで女性店長が優志に
「ハンカチを洗って返したいので、連絡先聞いても良いですか? 彼女さんとかいらっしゃったらごめんなさい」
と連絡先の交換を持ちかけてきた。まさか相手から連絡先を聞かれるなんて思っていなかったので、優志は驚く。それでも優志は了承し、女性店長とLINEを交換した。そこで初めて女性店長の雪代葵唯というフルネームや、27歳であることを知る。
さっそく葵唯から、土曜日の夕方にハンカチを返したいのでカフェで会えないかとLINEが来た。優志がこれを快諾すると、「お茶代は私が出しますね」と葵唯から返信が来る。それは良いですと断るも、ハンカチのお礼としてお金を出したいとのこと。じゃあお言葉に甘えて、と優志は返事を返した。
*
数日間仕事を乗り切り、土曜日になった。夕方に葵唯とカフェで会うことになっているので、それまで優志は自宅でのんびり過ごす。そうしているうちに時間が過ぎていき、優志は葵唯の指定したカフェに向かう。葵唯は先にお菓子を買って席に着いているらしい。
店内は広かったけれど、優志は葵唯がどこにいるかすぐにわかった。葵唯を見るなり、優志は
「雪代さん! お待たせしました」
と言う。
「全然大丈夫ですよ。飲み物買いに行きましょうか」
葵唯に誘われ、2人はレジに並ぶ。優志はコーヒー、葵唯はキャラメルラテを注文した。事前に話していた通り、代金は葵唯が支払う。どうしてもお礼がしたかったのだそう。
「ハンカチありがとうございました。洗濯してます」
葵唯はそう言って、優志にハンカチを返却した。丁寧にも袋に入れた状態で。
「いえいえ、こちらこそ。俺たちが連絡先交換したのって、このハンカチがきっかけでしたもんね」
優志は葵唯と連絡先を交換したきっかけを回想する。このハンカチがなければ、葵唯と連絡先を交換することはなかったと思うと奇跡に近い。葵唯に次回キッチンカーが来る日を教えてもらい、優志はまたメロンパン買いに行きますと約束する。さらに、今度の日曜日に水族館に行くことも決まった。