第一話「天界からの贈り物」
はじめまして。ぽてまると申します。大学生をしております。普段はもっぱらゲームをしたり、アニメを見たりしています。最近見てよかったアニメはロシデレと負けインです。本はミステリーを中心に読みます。今回、はじめて小説を書いてみました。ファンタジーやSFが好きなので、その路線で良いストーリーが作れたらいいなと思って書いています。もしよろしければ、最後まで読んでいただけると嬉しいです。よろしくお願い致します。
赤城智久の人生は、とある雪の降る夜のある出来事をきっかけに、大きく変わることとなった。彼はその日はいつも通り、自宅である高級マンションの自室で過ごしていた。有名政治家の息子である智久は、裕福だが厳しい家庭で育ち、成人した今でも、厳しい赤城家のルールに縛られて生活していた。ひとり暮らしをすることは許されたものの、行動は常に制限されてばかりで、そんな生活に智久は強い不満を抱えている。
「金持ちだけど親が過保護すぎる家庭と、貧乏だけど温かい家庭、どっちが幸せなんだろうな…。きっと世間様にはさ、富裕層が贅沢なこと言うなって言われるんだぜ。こっちにもこっちの苦労があるっていうのに。あーあ、彼女とか欲しいなぁ…」
智久は部屋の電気を消し、目を瞑った。この思考になると、やけに眠れなくなる。彼には漠然とした寂しさが付き纏っているのだった。何度も寝返りを繰り返した後、ふと窓の方へ目をやった時のことだった。
「なんだ…?これ…」
カーテン越しでも眩しいほど、強い光が部屋に射し込んだ。カーテンを開け、窓の外を見ると、その強い光の正体が、徐々に空から地上へと落下していくのが見える。
「もしやUFOとか…?笑」
非日常への憧れが強い彼は、数十秒の間、興味津々でソレを観察していた。強い光を発し続けながら落下していくソレは、音もなく街中の暗闇に消えていった。智久はいつの間にか玄関へと足を運び、スニーカーを履いていた。
マンションのエレベーターへ駆け込み、広いエントランスを抜けて街へ繰り出した。光の正体を知るため、彼はいつもの深夜の誰も居ない街を走り回った。隕石かもしれないし、宇宙ゴミかもしれないし、そもそも落ちていなくて、空で燃え尽きたのかもしれない。しかし、智久は何か特別なことが起こることを予感していた。そして、その予感は的中する。あんなにも強い光を放つモノが空から降ってきたというのに、街は至って普通で、誰かが自分と同じことをしている様子は無かった。走り疲れてもう諦めようと思った時だった。見覚えの無い古臭い神社に、あの光を見つけたのだ。直視したら失明してしまいそうなほどの、光り輝く物体。
「あっ…あった…!」
ソレは卵のような形をしており、少し中身が透けていた。智久が恐る恐る近づくと、すぐに中身が何なのか知ることができた。人型の何かだ。人のような何かが中で蠢いている。その光景をじっと見つめていると、卵に突然ヒビが入り、薄い硝子のように砕け散った。粘液だらけの中身は、土の上に放り出された。
「うわっ…!なんだこれ…」
中から出てきたのは、智久と同じ歳くらいの裸の人間だった。膨らんだ乳房で、性別の見分けはついた。見た目は人間とまったく変わらない。何故人間が空から降ってきたのか。卵から産まれたのだから人間ではないのか。智久は静かな神社で一人、ひたすらに動揺していた。しかし、この異様すぎる光景を客観視した時、自分が置かれている状況の異常さに気づいた。誰かが通りかかって見られたら完全に怪しまれてしまう。智久は女の子に声をかけることにした。
「あの…大丈夫…ですか?」
粘液だらけの体にそっと触れてみる。反応は無いが、彼女は呼吸をしていた。眠っているようだった。智久は彼女に自分のコートを羽織らせ、おぶって家まで運ぶことにした。救急や警察に頼ることも考えたが、何にせよ空から降ってきた生物だ。それでは彼女にとって不都合があるかもしれないと思ったのだ。雪の降る中、三十分ほど来た道を彼女を背負いながら歩いた。やっと家に着いたものの、智久の体力は限界を迎えていた。玄関のドアを開け、彼女をベットに寝かせてから智久もソファに倒れ込む。今自分に何が起きているのか。彼女は何があってここへ来たのか。わからないことばかりで、彼は考えることにも疲れてしまった。そのまま、深い眠りについたのだった。
翌朝、目覚めた時には既に昼の十二時を過ぎていた。昨夜連れ帰った彼女は、まだすやすやと寝息を立てていた。昨日起きたことを頭の中で整理する。空から光る物体が落ちてきて、そこから女の子が産まれて、家に連れて帰ってきてしまった。
「こんなSF展開って現実にあるのか…」
智久は改めて頭を抱えた。彼女は何者なのだろうか。もしかしたら、人類の敵で、人類を滅ぼすために地球にやってきた宇宙人なのかもしれない。そう、彼女はおそらく人間では無い。空から降ってきた時点で。彼は急に怖くなってきて、身震いした。自分はもしかしたら彼女に殺されるのかもしれない。「助けてくれてありがとうございました」なんておとぎ話のようなセリフを彼女が言うだろうか。段々と自分がしたことに後悔という感情が募ってくる。やはり彼女をここに連れてくるべきでは無かった。元居た場所に戻して来ようと、彼はそっと彼女に近づき、顔を覗き込む。さらさらの薄紫の髪に、高い鼻筋。大きな目に長いまつ毛。昨夜はあまりの混乱によく見ていなかったが、とても整った顔つきをしている。
「なんだこいつ、かわいい…」
思わず口にしたその時、彼女がパッと目を開けた。智久は驚いて、情けない声を上げながら尻もちをついた。彼女は冷たげな視線を智久に向けている。殺される。こいつは人類の宿敵なのかもしれない。彼はさらに尻もちの状態から後退りした。
「あ、あの…命だけは助けて…お願い…します」
彼は自分の最期のセリフがこんなにも情けないものになってしまったことにガッカリしつつも必死に命乞いをした。しかし、思いもよらないことに、彼女は寝返りを打って壁の方を向いて言った。
「あたし、可愛いんだ、人間の目から見ても」
理解できなかった。彼女は智久を襲うどころか、言葉に反応して同じ言葉を返したのだ。しかも少しだけ嬉しそうに。智久は心底安心した。彼女に敵意は無いのかもしれない。
「き、君は、人類の敵じゃないの…?」
彼女はもう一度寝返りを打って智久の顔を見た。
「馬鹿なこと言わないで。あたしはこの世界の神様の一人。人類の敵なんかじゃなくて、天界人よ。」
「テンカイジン…?な、何ですか?それは…」
「そのままの意味よ。天界に住んでるの。神様だからね。ほら、空があるでしょ?その上に宇宙がある。私達天界人は、そのさらに上に存在する天界に居るの」
彼女は窓の外の空を指差しながらそう言った。ニヤニヤしながら自分の故郷について語っている。いきなり目を覚まして同じ言葉で話していることに驚いてはいるが、智久の警戒心はやっと落ち着き、冷静さを取り戻した。
「じゃあなんで、昨日空から降ってきたの?」
彼女はそのまま窓の外を見ている。その横顔はどこか悲しげに見えた。
「あたし、追放されたのよ。よく覚えていないけど。誰かに天界から追放されちゃったの」
「追放…?追い出されちゃったの?」
彼女は黙ったまま静かに頷いた。
「あたしの名前はアルフィーナ・ハーデス。長いからアルって呼んでくれていいわ。あなた、あたしを助けてくれたんでしょ?ありがと、助かったわ」
彼女は智久に向かって手を差し伸べた。彼も恐る恐る手を差し出し、握手する。
「いや、いいんだ。あのままじゃきっと、ツルッターに載せられて拡散されて、大変なことになってただろうしね。おれは、赤城智久。よろしく。」
二人は握手を交わし、自己紹介をし合った。もう少しアルについて情報が欲しいところではあったが、彼女が智久の脅威ではなく、友好的に接してくれているだけで十分だった。智久が女性としっかりと話したのは、数年ぶりだった。赤城家の人間は、結婚前提では無い異性との付き合いを認めない。それどころか、必要の無い人間関係を排除するほどの徹底ぶりだ。自らの家系に泥を塗るようなことが起きないための身勝手な配慮だ。だから、智久には友達すらもほとんど居ないのだった。久しぶりの人間との柔らかい雰囲気を持ったやり取りに、智久の心は少しだけ温かくなった。もっとも、アルは人間では無いのだが。
「あ、アル、服なんだけど、おれの部屋着でよければ貸すよ…?」
アルは「へっ?」と呟きながら自分の体へと目を向け、その直後にポーっと赤面していく。自分が裸であることに気づいていなかったようだ。
「ばっ…バカ!智久のえっち…!」
彼女は枕を手に取り、智久の方へと投げた。枕は顔面へと直撃し、智久は倒れた。神様の一撃は、人間の力とは比べ物にならないくらい、重い一撃なのであった。